景気回復の兆し?企業の経常利益が増加傾向にある理由について解説 | MONEYIZM
 

景気回復の兆し?企業の経常利益が増加傾向にある理由について解説

新型コロナウイルスの蔓延で世界経済が大きなダメージを受け、企業の業績が低迷するなか、ここにきて国内企業の業績が回復している兆候がみられるようになりました。今回は、財務省が発表する「法人企業統計調査」で経常利益が増加した理由について解説していきます。
 

※記事の内容は2023年10月末時点の情報を元に作成したものであり、現在の内容と異なる場合があります。

増加傾向にある企業の「経常利益」

企業の「経常利益」が増加している現状

財務省が我が国の営利法人等を対象として定期的に行っている経済調査の1つが「法人企業統計調査」です。営利目的法人が経済活動によって得た利益などの財務数値の統計をする調査であり、調査方法として「年次調査」と「四半期別調査」があります。「四半期別調査」の項目のなかには企業の経常利益の増減に関する調査結果があります。令和5年9月に発表された調査結果によると、令和5年4月から6月にかけて製造業・非製造業を合わせた全産業で稼ぎ出した経常利益は約31兆6,000億円、前年同月比較で11.6%の増加になっています。令和5年5月に新型コロナウイルスが「5類感染症」に変更になったことや、資材不足が解消したことなどにより、経済活動がより活発になったと読み取れる結果となっています。
 

また「経常利益」を増加させる要因として考えられるのが、日銀が継続してきた「マイナス金利政策」も要因として挙げられるでしょう。企業の経済活動が活発になり、運転資金や設備投資資金を調達する際にネックとなるのが借入金利です。しかし、現在のような「マイナス金利」であれば、借入による資金調達で負担する金利部分を安く抑えられますので、より多くの利益を計上することができるからです。

業種別に見た「経常利益」の増減

次に経常利益の増加を業種別に見てみましょう。増益となった法人の内訳としては、製造業が0.4%、非製造業が19.0%と非製造業が大きく業績を伸ばしていることが読み取れます。具体的な業種として、製造業では「輸送用機械製造業」「生産用機械製造業」が業績を伸ばしています。「輸送用機械」とは自動車や航空機等を指し、「生産用機械」とは建設機械や工作機械等を指しますが、この内容をみる限り、企業の設備投資が活発になっているとの印象を受けます。一方、非製造業では「電気業」「サービス業」が経常利益を伸ばしているようです。「電気業」とは電気を発電し販売する法人のことを指しますので、電力会社が業績を伸ばしたと読み取れます。また、「サービス業」が業績を伸ばしたことから、アフターコロナで人の動きが活発になったことが少なからず影響を与えているような印象を受けます。

「経常利益」が示す企業の経営内容について解説

損益計算書における「経常利益」の計算方法

会計では会社が稼ぎ出した儲けのことを「利益」と呼びますが、最終的な「当期純利益」を計算する過程で、経済活動の内容に応じた様々な利益を計算することになります。「売上総利益」「営業利益」「税引前当期純利益」など、呼び方や計算方法がそれぞれ異なりますが「経常利益」は会社の経営活動の結果を示す利益項目の一つです。通常の営業サイクルで稼いだ利益の他に、運転資金調達等にかかる営業外の損益まで含めて計算された利益のことを指します。
 

経常利益の計算式は以下の通りです。
 

経常利益=売上高-売上原価-販管費-営業外損益

 

会社は商品や役務提供、サービス等を仕入れ、そこに価値を付加して消費者に販売することで収益を得ます。「経常利益」はこのサイクルのうち、売上高から売上原価や販管費といった費用を控除し、さらに販売(営業)に直接関係しない費用等まで控除した残高として求められます。直接関係しない費用の代表例としては、金融機関から受け取る利息や支払う利息があり「営業外損益」と呼ばれています。

「経常利益」が示す会社の経営内容とは?

会社が経済活動をしていくうえで欠かせないのが運転資金です。運転資金を元手として商品や役務提供、サービスの提供を受け、付加価値を付けて消費者に販売することで収益を得ますから、全ての企業活動のスタート地点であるといえます。自己資金だけで運転資金を十分賄える無借金経営であれば別ですが、運転資金に余裕がない企業は金融機関からの融資が不可欠です。コロナ融資のように利子補填がある特別なケースを除いて、借入には必ず利息が発生しますので、経営者の方は借入金にかかる利息負担分を含めて経営状態を判断する必要があります。「経常利益」はその名のとおり、資金調達まで含めて企業が経常的に利益を計上できる状態にあるかを示す指標として見ることができるのです。
 

なお、「経常利益」には損害賠償金や役員の退職金、災害にかかる損失といったイレギュラーな損益(特別損益)や利益にかかる納税額は反映されていません。(特別損益まで含めた利益を「税引前当期純利益」、法人税等の納税額を控除した利益を「当期純利益」と呼びます。)

「経常利益」が増加した背景にあるもの

観光客をはじめとしたインバウンドの回復

「インバウンド(inbound)」を直訳すると「内に入り込む」という意味になりますが、国内のビジネスシーンでは「国内に入ってくる方=訪日した海外旅行者」という意味で使うのが一般的です。「爆買い」というキーワードが出るほど、海外旅行者の消費によって観光業を中心に経済が活性化した時期がありました。新型コロナの影響でインバウンドは激減しましたが、最新の調査結果ではインバウンドが回復していることが読み取れます。営利法人等の経常利益が増加した理由の1つには、この「インバウンドの増加」が挙げられます。
 

先にも述べた通り国内では令和5年5月に新型コロナが「5類感染症」に変更され、海外でもWHOが「緊急事態宣言」の終了を発表するなど、全世界が「アフターコロナ」に移行しつつあります。それに併せて人の動きが活発になり、海外から日本への旅行客が戻ってきていると考えられます。それを裏付ける資料として、日本政府観光局が発表している「訪日外客数」を見てみましょう。「法人企業統計調査」の対象月と同じ2023年6月推計値で訪日外客数は2019年の同月と比較して72%の大幅な増加となっており、約3年ぶりに200万人を突破したとのことです。両者の比較から、訪日外客数の増加はサービス業の経常利益が増加していることに少なからず影響を与えているものと予想されます。政府も令和5年に「観光立国推進基本計画」を発表するなど、景気回復の起爆剤としてインバウンドに注力していますので、今後さらにインバウンドが加速することが予想されます。

半導体をはじめとした資材供給の回復

新型コロナウイルスの蔓延の影響で、国内では材木が不足する「ウッドショック」をはじめとした各種資材の供給不足が深刻化した時期がありました。資材を海外から輸入し、付加価値をつけて販売するビジネススタイルの日本で経済活動を大きく停滞させる原因の1つとなりました。現在では、半導体といった一部の資材を除き、資材不足は解消しているようです。円安の影響で資材の調達価格が高騰しているため、厳しい局面は続いていますが、資材がなくて生産活動が完全にストップしてしまうといった状態は脱したようです。
統計調査からも、自動車製造業や生産機械製造業の業績が好調であることから、企業の生産活動が活発になりつつあることが読み取れます。

まとめ

調査結果からも、新型コロナウイルスで受けた経済的なダメージから日本経済が立ち直りつつあることが理解できたと思います。経済がさらに活発化し、経常利益を出せる企業が増えれば税収も安定し、納税者の負担も軽減されるのではないでしょうか。

奥谷佳子
Webライター/ライター フリーランスとして様々な記事を執筆する傍ら、経理代行業なども行う。 自身のリアルな経験を活かし、税務ライターとして活動の場を広げ、実務で役立つ生きた税法の解説に努めている。 取材を通じて経営者や個人事業主と関わることも多く、経理や税務ほか、SNSを使った情報発信の悩みにも応えている。
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