2027年以降に開業が予定されているのが、リニア中央新幹線です。これまで、リニア中央新幹線の開業は大きな経済効果をもたらすといわれてきましたが、開業が近付くとともに、その経済効果の試算が具体的に出されるようになりました。
ここでは、リニア中央新幹線の開業がもたらす経済効果について解説します。
そもそもリニア中央新幹線とは
はじめに、リニア中央新幹線とはどのようなものかを見ていきましょう。
リニア中央新幹線は、全国新幹線鉄道整備法に基づいて計画された、東京都と大阪市を結ぶ新幹線のことです。正式名称は「中央新幹線」ですが、超電導リニアを導入することから、リニア中央新幹線と呼ばれています。
リニア中央新幹線と通常の新幹線の大きな違いは、その運航方法です。通常の新幹線は、レールの上を車輪で走ります。一方、リニア中央新幹線は磁力(超電導リニア)で車体を浮かせて走ります。
リニア中央新幹線は磁力で車体を浮かせて走ることで、速度を上げても車輪の空転が起こらず、最高時速505キロメートルで走行できるようになりました。このことにより、東京(品川)から名古屋を最速40分、東京(品川)から大阪を最速67分で走ることが可能となります。
また、通常の新幹線は太平洋に面した路線となっており、南海トラフ巨大地震の震源域を含んで走行しています。一方、リニア中央新幹線は山梨や長野などを通る路線なので、日本の大動脈を二重化することで大規模な災害時のリスクヘッジができます。
では、リニア中央新幹線は、いつ開業するのでしょうか。リニア中央新幹線は1973年に基本計画が決定され、そこから地形・地質等調査の実施などが行われてきました。
当初、品川・名古屋間の開業は2027年、名古屋・大阪間の開業は2045年とされていましたが、その後、全線開業を最大8年間前倒しすることになっています。
リニア中央新幹線の経済効果
次に、リニア中央新幹線の経済効果について見ていきましょう。
中部圏の産業・地域の特徴
リニア中央新幹線が開業することで大きく変わることは、1つの巨大な経済圏が出来上がることです。首都圏、中部圏、近畿圏がおおむね1時間以内で行き来することが可能となり、3つの経済圏をつなぐ、いわば1つの巨大な経済圏が出来上がります。
その中でも、首都圏と近畿圏の中間に位置する中部圏では、影響が大きくなります。そこで、リニア中央新幹線の経済効果を見るためには、中部圏の産業・地域の特徴を理解しておくことが重要となります。
・中部圏の産業
中部圏では、他地域に比べて全産業に占める製造業の割合が高いです。2014年には、製造品出荷額のシェアが中部圏だけで全国の27%にも上りました。
また、中部圏には自動車関連産業、航空宇宙産業、ヘルスケア産業の企業が多く集積し、いわば、ものづくり中枢圏域を形成しているといっても過言ではありません。さらに、製造品出荷額の約5割が輸送用機械製造業となっています。
・中部圏の地域特徴
名古屋都心の人口密度は首都圏、近畿圏と比べ低いです。また、住宅地の地価やオフィスの賃料も首都圏、近畿圏と比べ低く、人が転入しやすい環境になっています。
また、名古屋圏の住環境は東京圏、大阪圏と比べて延べ面積が広く、通勤時間も短くなっています。
リニア中央新幹線がもたらす経済効果
ここからは、リニア中央新幹線がもたらす経済効果を具体的に見ていきましょう。
・経済効果の金額
国土交通省中部地方整備局では、2016年に行われた「第1回中部の地域づくり委員会」の資料を公開しています。その資料のひとつ「ものづくりの現状とリニア中央新幹線の効果」には、リニア中央新幹線の経済効果の試算が記載されています。
それによると、東京(品川)から名古屋間のリニア中央新幹線開業がもたらす全体の経済効果は、50年間で約10.7兆円、その内東海3県には約2兆円と試算されています。年間にすると、約800億円の経済効果になります。
また、東京(品川)から大阪のリニア中央新幹線開業がもたらす全体の経済効果は、50年間で約16.8兆円、その内東海3県には約3兆円と試算されています。年間にすると、約1200億円の経済効果になります。
このように、リニア中央新幹線の開業は、大きな金額の経済効果をもたらします。
・利用客増の効果
リニア中央新幹線の開業で、多くの人がリニア中央新幹線を利用すると予想されます。東京(品川)から大阪のリニア開業により、1年間で8千万人以上(航空機からの転移1,108万人、東海道新幹線のぞみからの転移7,161万人、新規客496万人)の利用客が獲得できる試算です。
また、利用客が多くなることで、観光需要の増加やビジネスなどの交流人口の増加、大手企業、スーパーなどの進出といった経済効果も期待されています。
・経済効果波及のプロセス
リニア中央新幹線の開業は、地元の企業や家庭にも大きな経済効果をもたらします。リニア中央新幹線の開業における経済効果波及のプロセスは、以下のようになります。
- 1) 交通コストの低下
- 2) 企業利益の増加
- 3) 給与の増加
- 4) 消費の増加
新幹線を使うことで、本支店間の移動や遠方の顧客への訪問、新たな顧客獲得のための移動時間が削減されます。
営業時間の短縮と効率的な営業活動により、交通コストの削減だけでなく、生産性の向上も可能です。
交通コストの削減や生産性の向上により、企業の利益が増加します。
増加した利益は、従業員に還元されます。つまり、福利厚生の充実や給与の増加につながります。
給与が増えれば、その分、物の購入やサービスの利用などの消費が増えます。消費者の消費額が増えることで、モノの販売やサービスの提供をしている企業の利益が増加し、給与の増加→消費の増加→企業利益の増加と繰り返し波及していくことになります。
最新の分析で静岡県内に1679億の経済効果を試案
リニア中央新幹線の開業による経済効果は、日々アップデートされています。2023年10月に国土交通省鉄道局が発表した「リニア中央新幹線開業に伴う東海道新幹線利便性向上等のポテンシャルについて」に、新たな経済効果の試算が公表されています。
それによると、東京(品川)から大阪のリニア中央新幹線開業で、静岡県に10年間で約1,679億の経済効果をもたらすとのことです。静岡県に経済効果が出る理由としては、利用者利便性の向上や来訪者の増加などがあります。
リニア中央新幹線の開業の影響は、今ある東海道新幹線にも影響を与えます。リニア中央新幹線の輸送需要が増加するのに伴い、東海道新幹線の輸送需要は減少します。そのため、東海道新幹線が静岡県内の駅に停車する回数は、現状の約1.5倍程度増加すると見込まれます。
静岡県内の駅に停車する回数が増加することで、待ち時間の短縮、従来線との乗り継ぎがスムーズになるなど、利用者の利便性が大きく向上します。この利用者利便性の向上が、静岡県に大きな経済効果をもたらすと考えられています。
経済効果の内容としては、経済波及効果と雇用効果の2つがあります。資料によると、静岡県外からの来訪者は、年間で約67万人増加すると予想されます。県外からの来訪者増加に伴い、観光などの消費額も増加し、経済波及効果が約1,358億円(10年間)発生します。また、年間で1万2,600人の雇用効果もあると試算されています。
一方、静岡県内での新幹線の利用者数も、年間で約71万人増加すると予想されます。利用者数増加に伴って観光などの消費額も増加し、経済波及効果が約321億円(10年間)発生します。また、年間で3,000人の雇用効果もあると試算されています。
静岡県外からの来訪者と静岡県内での新幹線の利用者数の増加により、合計で約1,679億円の経済効果をもたらします。
まとめ
2027年以降に開業が計画されているリニア中央新幹線により、首都圏・中部圏・近畿圏がそれぞれ1時間以内で結ばれ、巨大な経済圏が形成されます。
また、リニア中央新幹線の開業は東海道新幹線にも影響を与え、静岡県内の駅に東海道新幹線が停車する頻度が上がると考えられています。最新の試算では、リニア中央新幹線の開業は、静岡県に10年間で約1,679億円の経済効果をもたらすとの言われています。
リニア中央新幹線の開業による経済効果は、日々アップデートされています。今後も、リニア中央新幹線の開業による経済効果には注目しておく必要があるでしょう。