毎年2月になると確定申告が始まります。確定申告とは、毎年1月1日から12月31日までの1年間の所得、納めるべき税金を確定させ、税務署に申告することをいいます。会社員のほとんどは、給与やボーナスから税金が天引きされ、会社で行われる年末調整により所得税などが精算されるため、基本的に確定申告は不要ですが、一定の収入を得ている個人事業主やフリーランスは、自分で申告を行う必要があるのです。
とはいえ、どうしたらいいのか分からない人も多いはず。そもそも確定申告とはどういうものか?
そのやり方とは? スマートフォンを使った確定申告(スマート申告)も含めて解説します。
所得税の仕組み
はじめに所得税についての理解を深めましょう。
所得税とは
会社からもらう給料や、個人が事業で稼いだお金などにかかる税金が「所得税」です。収入(売上)と所得は違います。例えば、収入から事務所の家賃などの必要経費(収入を得るために使った金額)を差し引いたものが「所得」です。ここから、さらに後述する各種の「控除」分を差し引いたのが「課税所得」で、これに税率を掛けて納税額を計算します。
所得の種類
所得には、「給与所得」「事業所得」などの10種類があり、基本的には合算した金額に税率を掛けて税額が決まります(総合課税)。株式や不動産の譲渡益のように、それとは分けて税金を計算する所得もあります(分離課税)。フリーランスが稼いだお金は、「事業所得」に該当します。
所得控除とは?
所得控除とは、控除の対象となる扶養親族が何人いるかなどの個人的な事情を加味して、税負担を調整する仕組みをいいます。フリーランスが知っておくべき控除には、基礎控除、医療費控除、生命保険料控除、寄付金控除(ふるさと納税)、配偶者控除、扶養控除などがあります。後述する青色申告特別控除も、要チェックです。
税率は所得が上がるほど高くなる
所得税の税率は、所得が多くなるに従って段階的に高くなり(「累進税率」といいます)、納税者がその支払能力に応じて公平に税を負担する仕組みになっています。税率は、5%から最高で45%(住民税は一律10%)です。また、ある人の税引き後所得が、その人よりも課税所得額が少ない(税率の低い)人より低くなることのないよう、「超過累進税率」という課税方式が採用されています。
確定申告と還付申告
確定申告とは、上記の作業を納税者が自分で行って納付する制度です。還付申告とは、源泉徴収などで支払いすぎた税金の還付(返金)を受ける制度のことを指します。フリーランスでも、源泉徴収で税の払い過ぎがあった場合には、還付を受けることができます。
確定申告とは
所得税は、納税者が自ら所得税額を計算して納税する「申告納税」を採用しています。納税者は自ら所得や控除を計算して課税所得額を確定し、それを納付します。これが確定申告の手続きです。給与所得が源泉徴収されるのは特例的な制度といえるでしょう。
確定申告の時期
確定申告書の提出期間は、原則として毎年2月16日~3月15日までの1カ月間です。それぞれの日付が土曜・日曜・国民の祝日・休日に当たる場合は、翌日(または翌々日)の月曜日が期限日になります。所得税の納付期間も同じく3月15日までです。
期間を過ぎても申告を行うことは可能ですが、その場合は「期限後申告」となり、納めるべき税額に加えて「無申告加算税」が課税されます。税率は、納付する税額のうち50万円までは10%、50万円を超えた部分は15%ですが、税務署から指摘される前に申告を自主的に行った場合は、5%に軽減されます。また、遅れた期間に従って、延滞税も課せられます。
フリーランスで確定申告が必要な4つのケース
実は全てのフリーランスが確定申告しなくてはならないわけではありません。どういう場合に必要になるのか、注意点を含めて4つのケースについて説明します。
利益が一定額以上発生している (年間所得金額が38万円を超える場合)
さきほどの所得控除には、48万円(合計所得金額2,400万円以下)という「基礎控除」があります。この金額は無条件で所得から差し引けますから、年間所得が48万円以下ならば課税所得は0円となり、所得税はかかりません。申告も不要です。
ただし、確定申告ができないわけではありません。申告していれば、控えを収入証明書替わりに利用できる、といったメリットもあります。また、確定申告を行わなかったために、所得によって決まる国民健康保険税が割高になるようなケースもあります。
アルバイトを掛け持ちしている
フリーランスとしての本業(事業所得)以外に、アルバイト(給与所得)をしている場合、後者は会社で年末調整されますが、本業の所得は、原則として確定申告が必要です。ただし、以下の条件に該当すれば、申告は不要です。
①1ヵ所から給与を受け取っている場合は、給与以外の年間所得が20万円以下
②2ヵ所以上から給与を受け取っている場合、「全体の年間給与額から、最も高い給与を受け取った会社の分を差し引いた額」と「給与以外の年間所得」を合計した金額が20万円以下
株取引で利益が出ている
フリーランスが、株式などで譲渡益を得た時や、配当や公社債の利子を得た時には、原則として確定申告が必要になります。ただし、「つみたてNISA」などの非課税枠内の取引をした場合などには、確定申告は不要です。
さきほど説明したように、フリーランスの主たる稼ぎである事業所得は「総合課税」、株の譲渡益は「分離課税」なので、所得税額は別々に計算します。事業による赤字と株式売買による黒字を相殺することはできません。逆に、事業による黒字と株式売買にとる赤字を相殺することもできません。このように、所得の黒字と赤字を相殺することを「損益通算」といいます。
不動産投資をしている
フリーランスが賃貸アパート経営などで所得を得ている場合には、「不動産所得」として確定申告が必要です。所得は、賃貸料や共益費などの総収入から、修繕費、固定資産税などの必要経費を差し引いたものです。
この不動産所得は「総合課税」で、本業の所得などと合算して税額を計算します。そのため、事業所得との「損益通算」ができます。例えば、本業で赤字が出た場合、不動産所得の黒字からその分を減額して申告することができます。
確定申告書の種類
2022年までは確定申告書がAとBに分かれていましたが、申告書Aが廃止され申告書Bに一本化となりました。
確定申告書Aは、申告する所得が給与所得・公的年金等・その他の雑所得などのかたが使用する簡易的なものでしたが、2023年からはA・B の表記をせずに、申告書は1種類となります。
確定申告で必要になる書類
基本的に、次のような書類を用意します。
・支払調書
取引先から所得税を源泉徴収されている場合には、申告前の1月頃に「支払調書」が届きます。この書類は、確定申告での提出義務はありませんが、確定申告書の作成などに利用できますから、保管しておくようにしましょう。税理士に申告書の作成を依頼している場合などには、渡すのがいいでしょう。
・青色申告決算書(青色申告)
後で述べる青色申告を行う場合は、「青色申告決算書」の提出が必要です。青色申告決算書は、損益計算書とその内訳、貸借対照表を記載する書類で、帳簿の内容をもとに作成します。
・収支内訳書(白色申告)
青色ではない申告=白色申告を行う場合には、「収支内訳書」を提出します。売上や経費、仕入などの情報を、帳簿をもとに記入して、所得金額を算出します。
フリーランスが持っておきたい節税の知識
青色申告
確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。青色申告を選択すると、最大65万円の所得控除(青色申告特別控除)が受けられます。また、家族を従業員として雇う場合には、その給与を経費扱いにすることができるなど、節税メリットが期待できるのです。ただし、事前に青色申告承認申請書を提出したうえで、収入や経費に関する日々の取引状況を複式簿記で帳簿付け(記帳)すること、それらに伴う書類を保存することなどが求められます。
白色申告は、複式簿記による記帳の必要がないなど、青色申告よりも簡易な申告の方法ですが、「青色」のような節税メリットはありません。以前は、収入が300万円未満であれば、記帳や帳簿保存の必要はありませんでしたが、現在では義務づけられるようになり、申告かかる手間は青色申告とあまり変わらなくなりました。確実に節税できる青色申告がお得といえます。
経費に計上できるものを計上する
すでに説明したように、所得税は売上から必要経費、所得控除を差し引いた課税所得を基に計算されます。ですから、経費を漏れなく計上して、できるだけ所得を減らすのが節税の”王道“なのです。事業形態や事業内容などによって経費にできるものは変わってきますが、例えば、以下のようなものが認められます。なお、「按分」とは、プライベートと仕事の使用割合のことです。
- 事業で使うパソコンの購入費
- 自宅を事務所にしている場合の家賃(按分計算)
- 自宅を事務所にしている場合の水光熱費(按分計算)
- インターネット接続料、携帯料金などの通信費(プライベートを兼ねるときは按分)
- 文具やコピー用紙などの消耗品代
- 仕事関係の交通費 など
もちろん、事業に関係のない支出を経費計上するのはNGです。税務署に説明を求められたときに、きちんと根拠を示せるか、業務に使用した証拠があるか、などが判断基準になるでしょう。迷ったら、税務署や税理士などに相談するようにしましょう。
還付申告
源泉徴収された所得税額に控除が算入されていないなどの理由から、税金を納めすぎた場合は「還付申告」によって取り戻すことができます。還付申告は、事由が生じた年の翌年1月1日から行うことができます。確定申告のように3月15日までという縛りもなく、5年間提出できます。確定申告をする必要がある場合、還付に関連する処理も確定申告と同時に行ったほうがスムーズです。
フリーランスがオンラインで確定申告するには?
では、確定申告の方法について、説明していくことにします。確定申告は、紙の確定申告書を提出することでも行えますが、インターネットを利用して、オンラインで自宅からでも可能です。オンラインの確定申告には、混雑を避けられる、24時間いつでも提出できる、ガイドに従って入力するだけで申請書類ができるなど、多くのメリットがあります。
オンライン申告で控除額が10万円アップ
オンラインの申告には、節税効果もあります。2020年分の確定申告から、基礎控除額が38万円から48万円に増額される一方、通常の青色申告特別控除は65万円から55万円に減額されました。そして、従来通り青色申告の65万円の控除を受けるための要件に、「e-Tax(国税電子申告・納税システム)による電子申告」または「電子帳簿保存(仕訳帳・総勘定元帳)」を行うこと、という新たな要件が加わりました。
つまり、青色申告をする人がe-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行った場合は、基礎控除と青色申告特別控除の合計で、従来よりも10万円アップの113万円の控除を受けられることになったわけです。電子申告などを行わない場合は、従来通り合計103万円の控除です。
パソコンを使って確定申告
まず、パソコンを使ったオンライン申告について説明します。
e-Taxを利用する2つの方法
・マイナンバーカード方式
マイナンバーカードがあれば、後述するe-Taxの開始届出書を提出したり、ID・パスワードを受領したりする必要がありません。ただし、マイナンバーカードのICチップを読み込むためのICカードリーダライタ(家電量販店で数千円程度)が必要になります。
・ID・パスワード方式
マイナンバーカードを取得していない人は、e-Taxの利用申し込みから始めることになります。税務署でe-Taxの開始届出書の提出、職員との対面による本人確認を行ったうえで、専用のID・パスワードを受け取ります。確定申告時には受け取ったID・パスワードを入力して手続きを進めます。マイナンバー方式のようなICカードリーダライタは必要ありません。
ただし、このID・パスワード方式は、マイナンバーカードやICカードリーダライタが普及するまでの暫定的措置とされています。継続的にパソコンで確定申告を行う予定の人は、早めにマイナンバーカード方式の準備を進めた方がいいかもしれません。
確定申告書等作成コーナーで申告
国税庁は、オンラインで確定申告書を作成するためのウェブサイト「確定申告書等作成コーナー」(無料)を用意しています。ガイドに従って入力するだけで確定申告書が作成できる、非常に便利なサイトです。申告書を作成後、そのままe-Taxを使って電子申告を行うことができます。書類をプリントアウトして、税務署に提出したり、郵送で申告したりすることもできます。
作成できるのは、次のような書類です。
- 所得税の確定申告書
- 青色申告決算書等
- 消費税の確定申告書
- 贈与税の申告書
- 振替納税の預貯金口座振替依頼書
作成に際しては、次のような書類を準備しておくと、作業がスムーズに進みます。
- マイナンバーカード(マイナンバーがわかるもの)
- 還付金を受け取る口座番号が記載された通帳
- 生命保険料の支払額証明書
- 医療費の明細書
- ふるさと納税の寄附金受領証明書 など
確定申告書類を作成する際には、トップ画面の「作成開始」を選択し、その後は画面の表示に従って必要な項目を入力します。作成したデータは、「入力データを一時保存する」ボタンをクリックすることで保存でき、途中から作業を再開することが可能です。
作成後、オンライン申告する場合には、「e-Taxによる提出」と「印刷して提出」から、前者を選択します。説明したように、「マイナンバーカード方式」と「ID・パスワード方式」のどちらかで申告することができます。
スマホを使った確定申告 ― スマート申告
2018年分の確定申告からは、スマホやタブレットから「確定申告書等作成コーナー」にアクセスして申告する「スマート申告」も可能になりました。21年分の申告からは、対応する所得が拡充されたり、源泉徴収票のスマホ撮影が認められるようになったり、と利便性が向上しました。ただし、パソコンを使った申告に比べて、利用には制約があり、誰でもOKというわけにはいきません。
スマホで申告できるのは?
「確定申告書等作成コーナー」には、スマホなどの機種からでもアクセスできますが、対象となる所得と控除には、以下の通り制限があるのです。
対象となる所得
- 給与所得
- 雑所得
- 一時所得
- 特定口座の上場株式等譲渡所得や配当所得
- 上場株式等の譲渡損失額(前年繰り越し分)
対象となる控除
- すべての所得控除
- 政党等寄附金特別控除
- 災害減免額
- 外国税額控除
上記のうち、特定口座の上場株式等譲渡所得や配当所得、上場株式等の譲渡損失額(前縁繰越分)、外国税額控除は、2021年分の確定申告から新たに対象範囲になったものです。
具体的には、サラリーマンが、年末調整されない医療費などの控除を受けるための確定申告を行う際には、スマート申告が可能です。副業などの雑所得がある場合も同様です。
フリーランスが「スマート申告」する方法
しかし、フリーランスの稼ぎである事業所得は、スマホによる「確定申告書等作成コーナー」利用の対象外となっているため、この方法での確定申告はできません。
便利な「確定申告書等作成コーナー」が使えないのは残念ですが、「スマート申告」ができないわけではありません。e-Taxに対応した「マネーフォワード」「フリー」などの会計ソフト(確定申告アプリ)を使えば、申告を完了させることが可能です。ただし、会計ソフトの有料プランを利用していることなどが条件になります。
この方法で確定申告する場合には、マイナンバーカードとカードを読み取れるスマホが必要です。アプリを開き、指示に従って操作していけば、申告自体はそう難しくはありません。
フリーランスが簡単かつ有利に確定申告する方法
フリーランスの確定申告は、青色申告特別控除をフルに受けることのできるオンライン申告がお勧めです。ただ、パソコンで申告するのと、スマホを使うのとでは、申告の際に必要になるものなどに違いがあります。この記事も参考にしながら、自分に合う方法を選択するようにしてください。
まとめ
所得税の仕組みをよく理解していれば、パソコンやスマホを使って確定申告することはそれほど難しいことではありません。必要な機械類、書類や記録があれば国税庁のサイトから指示に従って入力するだけで確定申告が完了します。確定申告について正しく理解してスムーズな申告を実現しましょう。