日本経済の未来を拓く:少子高齢化と新たなビジネスチャンス | MONEYIZM
 

日本経済の未来を拓く:少子高齢化と新たなビジネスチャンス

2022年10月、円相場が実に32年ぶりとなる1ドル152円まで急落して以降、2023年12月には1ドル140円台を推移しており、円安の状況が続いています。この円安の理由は、日米金利差に起因しているものの、円安に拍車をかけているのは日本経済の実力が低下していることも要因です。
とはいえ、こうした状況が日本にとって新たなビジネスチャンスのように筆者は感じています。
そこで今回は日本経済の現状と今後の行方、日本経済にある成長分野などを考察して行きたいと思います。
 

※記事の内容は2023年12月末時点の情報を元に作成したものであり、現在の内容と異なる場合があります。

スタートアップ、ライドシェア、介護テクノロジー:日本が描く新たな経済地図

日経平均株価の過去最高値は1989年12月29日に記録した38,915円87銭です。
つまり現在まで30年以上の月日が経ったにも関わらず、日本経済は最高値を更新できずにいます。このデータだけをみれば、日本経済は長年低迷を続けており、いつまでも経済成長できない機能不全に陥っていると認識されるでしょう。
ところが、別の見方をする経済学者も存在します。
たとえばノーベル経済学賞の受賞者であるポール・グルーグマン氏は、2023年7月25日付のニューヨークタイムズのコラムにおいて「日本は人口動態の調整を加えると、実は著しい経済成長を達成した」と評価しています。これは世界のどの国よりも少子高齢化が進む社会のなかで、日本経済は困難な状況においても上手にやりくりをしている、という指摘です。
日本では、特にこの30年の間に、女性の社会進出が進んでおり、実は米国よりも日本の方が有給雇用の割合が高くなっています。
 

また総務省のデータによると、2023年1月1日時点における総人口は、外国人も含めて前年比で51万人余り減少し、約1億2541万人となりました。平均寿命は84歳を超え、これは240カ国中で4位の数字です。
ブルームバーグのまとめたデータによれば、同じ期間における人口減少率が2%であるなか、日本の一人当たりのGDPは62%も増加し、472万円(約3万2000ドル)に達しました。これは米国の16%増(人口6%増)、カナダの45%増(同12%増)、英国の48%増(同5%増)、ドイツの32%増(同5%増)、フランスの33%増(同3%増)、イタリアの30%増(同1%減)を大きく上回っています。
 

つまり日本経済は単純な評価が難しい状況ではあるものの、決して悲観するような経済環境ではないことが見えてくるのです。
では、今後も少子高齢化が続く日本社会にはどんな課題がやってくるでしょうか?
また、その課題をいかに解決していくのか。それが日本が世界に先駆けて挑戦できるビジネスチャンスといえるのではないでしょうか。

日本の人口推移から見える社会構造の変化

たとえば日本の人口は2040年ごろをピークに高齢者(65歳以上)が最も多くなり、2050年ごろには日本の総人口が1億人を下回る見込みです。
2070年には日本全体の人口は9000万人を割り込み、そのうち3500万人が首都圏に集中し、5500万人が日本全体に散在するとされています。そうなった場合、超中央的な都市と極端にまばらな地方社会が形成され、さまざまな問題が生じる可能性があります。
たとえば、現在、電力の送配電システムは中央で一元的に管理されています。しかし、これを各地域で分散管理する地域分散型に変えないと、多くのコストがかかる可能性があります。また、病人の救助においても都市と地方で異なるアプローチが求められます。
地方の人口が少ない場合、救急車を配備するよりも、都市からヘリを飛ばす方がコストが安くなるというのです。
このように地域ごとに最適化していくことが今後の社会に求められていくことになります。
その過程で行政サービス、民間企業など、さまざまな産業が変革を求められる社会がやってくるため、ポジティブな見方をすれば、日本がどの国よりも早く沢山の経験値を積むことが可能というわけです。
では、具体的に日本経済の起爆剤となる条件について考察していきます。

日本経済の起爆剤 ①スタートアップ企業の台頭

日本経済の起爆剤となるのがスタートアップ企業の台頭です。
スタートアップ企業は新たなテクノロジーを武器に起業から短期間で爆発的な成長を目指します。スタート時点で同業他社との差を一気に広げるために、多額の資金が必要となりますが、こうしたリスクをとれる企業が成功した場合、日本の経済界や産業界にとって大きな起爆剤となるはずです。
たとえば現在の米国経済を牽引しているマグニフィセントセブン(Google、Apple、Meta、Amazon、Microsoft、NVIDIA、Tesla)はスタートアップの代表例であり、圧倒的なスピードで世界有数のグローバル企業に登りつめました。
つまり、日本でも同じようにスタートアップから世界と渡り合えるグローバル企業がたくさん輩出されることが、日本経済の復活に欠かせないといえるでしょう。
日本政府もスタートアップに積極的な姿勢を打ち出しています。たとえば政府は2022年度の補正予算で、スタートアップの創出と育成に1兆円規模の予算を計上しています。また、ベンチャーキャピタルによる出資も増加しており、2022年の国内のスタートアップ資金調達額は8,774億円と過去最高額に達し、日本のスタートアップ関連の資金規模は年々拡大しています。スタートアップ市場が盛り上がれば、それだけ参入数も多くなり、ソニーやトヨタのような国の基幹産業を担うような企業が誕生する確率も高くなります。
 

また、一昔前はスタートアップ企業に入社してから、大手企業に転職しづらいといわれていましたが、こうしたネガティブなイメージは過去のものとなりつつあり、むしろスタートアップ経験者としての人材価値は上昇しており、スタートアップで一定の実績を上げれば、その後のキャリアも豊富な選択肢があり、こうした環境も野心的な人材がスタートアップに集まる要因となっているでしょう。

日本経済の起爆剤 ②2024年問題とライドシェアの解禁

トラックの運転手不足に拍車をかけるとされる「2024年問題」。これは2024年4月から労働時間の上限が引き下げられることから、2030年度には全国で3万6000人の運転手が不足するという試算が出ています。こうしたトラックの運転手不足だけでなく、タクシーの運転手不足も深刻化しています。
タクシーの場合は、タクシー業界がライドシェア(相乗り)に反発していることもあり、ライドシェア解禁までの道のりはまだ遠いかもしれません。しかし、トラックの運転手不足やタクシーの供給が需要に追いつかない状況を解消するには、ライドシェアを解禁することが有効な手段となるはずです。
 

現状、米国や東南アジアでライドシェアは浸透しており、米国企業のウーバーやリフト、中国企業のディディ、シンガポール企業のグラブなどの配車アプリ企業が世界シェアを拡大しています。
日本のタクシー業界の高齢化が問題になっていることから考えても、ライドシェアが解禁されれば都心だけでなく、過疎地などのドライバー不足の改善にもつながることが予想されます。
そしてインバウンドなどの外国人旅行者にとっても、ライドシェア解禁によって交通アクセスが改善されることになるため、結果として日本経済には大きな恩恵になると考えられます。

日本経済の起爆剤 ③介護xテクノロジー

日本は少子高齢化が早く進んでいる、高齢化社会に向けた挑戦がしやすい環境にあります。
隣国の中国を筆頭に世界中の国もやがて高齢化することでしょう。
仮に日本がテクノロジーの力を駆使して、人口減少化社会や少子高齢化に対するソリューションを生み出すことができれば、その技術を日本は世界中に輸出することができます。
具体的には、自動運転の車イスや視力の衰えに関係なくモノが見えるようになる網膜投影型のディスプレイなどの開発が進んでおり、またAIなどを駆使して、ひとりひとりに適切なオーダーメイドの介護サービスが実装されるようになれば、介護事業の世界においても人手不足の解消へとつながっていくことが期待されます。

日本経済の起爆剤 ④少子化x教育費

少子高齢化の社会では、特に未来の担い手である子どもは貴重な存在であり、社会全体としても子供に投資することが社会善とされるようになることが予想されます。
子どもの教育の無償化などの支援が進むことにより、所得などによる教育格差が是正されることが期待されます。

まとめ

今後、私たちの社会はさまざまな変化に見舞われることは疑いようのない事実です。未来の社会の姿を正確に予測することは難しいかもしれませんが、高齢化や人口減少が進行しても、それが経済や知性の壊滅的な退行を招くわけではありません。
現行の制度や概念にとらわれず、柔軟に変化に適応できる社会が求められます。
このような状況下で、私たちが大切にすべきは、過去の枠にとらわれず、柔軟に新しいアイデアや価値観に開かれることかもしれません。
変化を成長の機会と捉え、未来をより良くする手段となれば、日本経済にも大きなチャンスがやってくると筆者は考えます。

鈴木林太郎
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数。
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