老後に必要な資金は2,000万円→4,000万円に!? 「安心できる老後」のために考えるべきこと | MONEYIZM
 

老後に必要な資金は2,000万円→4,000万円に!? 「安心できる老後」のために考えるべきこと

以前、国の調査会が作成したレポートに端を発して、「老後のためには2,000万円必要」という数字がクローズアップされ、「年金をもらっても、そんなに足りないのか」と、“騒動”になりました。ところが、最近テレビ番組で、その金額が倍増の4,000万円まで膨らみそうだ、とする試算が報じられ、再び関心を集めています。実際には、老後にいくらあれば安心できるのでしょうか? あらためて、「老後のマネー事情」について考えてみます。
 

老後資金「倍増」のわけ

そもそも「老後2,000万円問題」とは

「老後の生活には2,000万円の蓄えが必要」という話が世間に衝撃を与えたのは、5年前の2019年6月でした。金融庁金融審議会の「高齢社会における資産形成・管理」という報告書で、高齢夫婦の無職世帯における毎月の赤字額が約5万4,000円(年額約65万4,000円)なので、20年生きれば約1,300万円、30年なら約2,000万円必要になる――と指摘されたのが発端です。
 

数字自体は、総務省の「家計調査」を基にした単純な掛け算で、なおかつあくまでも「平均値」ではありましたが、「2,000万円」のインパクトは大で、老後に対する不安を口にする国民が増えました。また、「100年安心年金」をアピールしていた政府にも矛先が向いた結果、当時の麻生太郎金融担当大臣が、「政府の政策スタンスとは異なる」と、報告書の受け取りを拒否するオチまでついてしまいました。結局、「老後必要資金」についての本格的な議論にはならず、その後、2,000万円という金額のみが“独り歩き”することになったのです。
 

物価高で「4,000万円」にハネ上がる!?

そして、5年後に出てきたのが、今回の「老後4,000万円」という報道です。簡単にいえば、2,000万円必要とされた老後資金が、今から10年後には約2,800万円になり、20年後には4,000万円になっている、というのです。
 

なぜそんなに金額が上がっていくのかというと、この間の急激な物価上昇を加味したからです。ウクライナ戦争などによるエネルギーや輸入原材料の高騰に為替の円安が重なり、22年以降、高率のインフレが続いています。デフレだった5年前には、想定外だった状況にあるのは事実です。
 

「4,000万円」は“盛り過ぎ”か

しかし、今回報道された試算には、主に次の2点から、疑問の声が上がっています。
 

1つは、予想されるインフレ率(消費者物価上昇率=CPI)を、年3.5%という極めて高率に設定していることです。23年のCPIは3.1%で、1982年以来41年ぶりの高さでした。急速な円安を背景にした「異常値」といえる数字で、今後10年、20年に渡って、さらにそれを上回るインフレ率を維持していくというのは、一般的な予想とはかけ離れたものといえるでしょう。つまり、物価上昇を過大に評価しすぎている→実際には、インフレ要因で老後の必要金額がそこまで増えることはないだろう、というわけです。
 

第2に、計算のベースになる家計の中身にも変化がみられるのに、そちらは反映されていない点も指摘されています。19年の試算は、17年の家計調査を基に作成されました。しかし、さきほどの「月の赤字額が約5万4,000円」という数字は、そこから毎年「更新」されており、すでに「2,000万円」の根拠自体が古くなっているのです。ちなみに、最新(23年)の家計調査を基に計算すると、老後に必要な金額は、やはり「下ぶれ」します。
 

あらためて「老後に必要な金額」を試算すると

では、今の問題点を「修正」すると、結果はどうなるのでしょうか?
 

家計の最新データだと「1,400万円」に

第2の問題(家計の実態)からみていきましょう。総務省は、毎年、家計の実態を調査した「家計調査年報」を発表しています。
 

19年の金融庁報告書の根拠となった17年の調査では、世帯主が65歳以上の夫婦・無職の世帯で、公的年金を中心とする実収入が月額約21万円、実支出は約26万4,000円で、月の赤字額は5万4,519円でした。これに基づいて、今後30年生きるとすれば、計「5万4,519円×12ヵ月×30年=1,963万円」の赤字になるため、およそ2,000万円の蓄えが必要だ、とされたのです。
 

しかし、23年の数字を見ると、同様の世帯で実収入は約24万5,000円、実支出は28万2,000円で、月の赤字額は3万7,916円まで減っています。30年間にすると、「3万7,916円×12ヵ月×30年=1,365万円」で、不足額は約1,400万円ということになります。
 

2023年総務省「家計調査年報」
家計調査報告 〔 家計収支編 〕 2023年(令和5年)平均結果の概要
 

物価上昇率2%なら、20年後に「2,000万円」

インフレ率のほうはどうでしょうか?
 

今回の報道では、金融庁報告書の「2,000万円必要」という数字をベースに、今後20年間、年3.5%のインフレが続くと仮定すれば、その金額は複利計算で約3,980万円にアップする、としています。
 

このインフレ率を仮に2.0%に設定すれば、同じ計算で20年後の必要額は、約2,970万円まで減額されます。「物価上昇率2%」というのは、政府目標の数値で、3.5%よりは現実味があるように思われます。
 

また、30年間の必要額を23年調査がベースの「1,400万円」として、年率2.0%、20年の複利で計算すると、約2,030万円となります。20年後に必要とされる老後資金は、奇しくも5年前の金融庁報告書と同じ水準に落ち着きました。
 

以上の結果を、あらためて整理して並べてみます。
 

●30年生きた場合に必要となる老後資金(夫婦・無職世帯)

  • 2017年家計調査を基にした2019年の金融庁報告書
    ⇒2,000万円➡かつての「老後2,000万円問題」
  •  

  • 2023年家計調査で試算し直すと
    ⇒1,400万円
  •  

  • 今後年3.5%のインフレが続くと、20年後には(2017年家計調査ベース)
    ⇒4,000万円➡今回の「老後4,000万円問題」
  •  

  • 今後年2.0%のインフレが続くと、20年後には(2017年家計調査ベース)
    ⇒3,000万円
  •  

  • 今後年2.0%のインフレが続くと、20年後には(2023年家計調査ベース)
    ⇒2,000万円

 

いかがでしょうか? 試算に用いるデータ、仮定によって、金額は数千万円単位で動きます。しかも、前にも述べたように、これらはマクロの統計を基にした平均値にすぎません。数字の意味を理解したうえで、あくまでも1つの参考として考えるべきでしょう。
 

実際には、それぞれの世帯で必要になるお金は、次に挙げるような「個別の事情」で大きく変わってきます。
 

老後の生活を左右する要因とは

何年生きるのか

説明した試算は、「30年生きた場合」を想定しています。しかし、例えばサラリーマンをリタイアしてから何年生きるのかは、誰にもわかりません。平均寿命が延び、「人生100年時代」といわれる中で、老後資金という点では、長寿がリスクにもなります。
 

介護、医療費はどのくらい

いつまでも「健康寿命」を維持できる保証もありません。要介護になれば、介護度が上がるほど、基本的に必要なコストも上がっていきます。大きな病気や介護も、老後資金を考えるうえでの不確定要因といえます。
 

いつまで働くか

一方、これらの試算の基になっている家計調査の数字は、「無職世帯」であることにも注目です。実は日本では、65代後半の半数超が何らかの形で働いています。シニアになっても働いて収入を得れば、貯蓄を積み増す(あるいは減少額を減らす)ことができるでしょう。
 

老後の生活プランをどうする

無職になれば、多くの場合、収入は公的年金などに限定されます。月々の収支(赤字額)は、支出に左右されることになります。夫婦で優雅な老後を過ごしたい、というような場合には、やはりそれに備えた貯蓄が必要です。
 

なお、家計調査では、同じシニア層でも年齢が上がっていくほど支出は減り、赤字額も減少する傾向がみられます。歳相応に、消費は減っていくということでしょう。普通の生活を送るぶんには、将来の生活を過度に心配する必要はない、という見方もできます。
 

現在の貯蓄額はどのくらいか

とはいえ、それも数十年、赤字を補えるだけの貯蓄のあることが前提です。23年の家計調査年報によれば、高齢世帯の貯蓄額は、平均2,462万円となっています。ただ、中央値(データを並べてちょうど真ん中にくる値)は1,604万円ですから、実際には貯蓄額が1,000万円に満たない世帯の比率が相当高い、とみなくてはなりません。
 

加えて、老後資金を考えるうえでは、述べてきたような「自分たちの問題」と同時に、どうにもならない外的要因のあることも、頭に入れておくべきでしょう。
 

物価動向はどうなる

さきほどの試算にもありましたが、今後の物価の動向は気になるところです。公的年金の支給額には一定の物価上昇分が反映されるものの、実際のコストアップには追いつきません。年金生活者にとっては、インフレの経済は不利なのです。現在の異常な物価高が、いつどの程度まで抑制されるのかは、将来に少なからず影響します。
 

公的年金の行方は

さらに収入面でも、悩ましい現実があります。公的年金(国民年金、厚生年金)の今後です。将来も同じ水準の給付を期待していいのか、不確実性がますます高まっているのです。
 

年金財政のバランスが悪化していることに伴い、支給開始年齢の先送りや保険料の引き上げの議論が、常に交わされる状況となっています。制度を支える現役世代の人口が減少する中で、マクロ経済スライド(※)の強化などによる支給額の引き下げが実行される可能性もあります。
 

※マクロ経済スライド 現役世代の保険料負担が大きくなり過ぎないように、給付増加分を自動的に調整する仕組み。給付額の減少幅を抑えるために、十分機能してこなかった。

 

今年は5年に1度の「財政検証」の年

そうした公的年金制度の財政状況は、5年に1度のペースで検証、確認が行われ、必要な年金改革の根拠ともなります。この作業が「財政検証」で、前回行われたのは、金融庁報告書が公表された19年でした。5年後の今年も「その年」に当たり、すでに検証が始まっています。
 

その内容によっては、年金受給者にとって厳しい改革が実行される可能性も否定できません。議論の行方に注目する必要があるでしょう。
 

まとめ

「老後資金として4,000万円が必要」というテレビ報道が関心を集めました。実際には、かなり高めのインフレ率を前提にした試算で、リアリティに乏しいという見方が一般的です。こうした試算自体、マクロのデータを基にした平均値で、「鵜呑み」にすることはできません。
 

本当に必要な金額は、それぞれの家庭の現状や将来計画に基づいて検討する必要があるでしょう。できるだけ働いて、蓄えを増やすような努力も大事になります。

マネーイズム編集部
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