個人の資産を管理・運用する「資産管理会社」とは 設立のメリットと注意点を解説 | MONEYIZM
 

個人の資産を管理・運用する「資産管理会社」とは 設立のメリットと注意点を解説

不動産や株式をはじめとする金融資産を管理・運用する「資産管理会社」をご存知でしょうか。個人が多くの資産を所有する場合、それをこの法人で管理することにより、節税をはじめとする多くのメリットを享受できる可能性があります。設立の注意点などと併せて解説します。
 

資産管理会社とは

資産管理会社とは、不動産や株式などの資産を所有している人が、その資産を管理・運用することを目的として設立する法人のことをいいます。普通の企業とは異なり、管理する資産に関連すること以外の事業活動は行いません。主な収入は、所有する不動産の賃料収入や株式の配当収入になります。
 

この資産管理会社は、収益不動産を所有する富裕層などを中心に、近年利用が広がりつつあります。わざわざ資産管理のための法人をつくるのは、次に述べるようなメリットが期待できる、逆にいえば、個人で資産を所有したままだと不利になることがあるからにほかなりません。

資産管理会社をつくるメリット

所得税→法人税で節税

収入を得た場合、そこに課税されるメインの税金は、個人は所得税、法人は法人税になります。この所得税と法人税には、課税の仕方に次のような違いがあります。
 

・個人の所得に課税される所得税

所得金額が増えるほど税率も上がっていく累進課税(税率は5%~最高45%)となっている。

・法人の所得に課税される法人税

資本金1億円以下の法人では、所得800万まで15%、800万円を超えた分は23.2%となっている。
 

つまり、所得が低いうちは所得税が有利で、それが一定の水準を超えたら、税率の変わらない法人税のほうが納税額は少なくて済む、ということです。どちらが有利なのかの「損益分岐点」は、法人から受け取る報酬の額などによって変わりますが、法人を設立した場合は、所得が多くなるほど、そのメリットが拡大していくことになります。
 

所得税の税率についてはこちら:No.2260 所得税の税率|国税庁

法人税の税率についてはこちら:No.5759 法人税の税率|国税庁

所得を分散して節税

資産管理会社の利益は、報酬として受け取ることになりますが、そこには所得税がかかります。その際、配偶者や親などの親族を従業員として雇用して役員報酬を支給すれば、設立した本人が1人で受け取るよりも所得を分散させることができ、それも節税につながります。
 

さきほど説明したように、所得税は累進課税になっているため、所得が集中する(=高い税率がかかる)よりも、できるだけ分散させて所得額を下げた(=低い税率にとどめる)ほうが、トータルの納税額を少なくできるからです。
 

また、役員報酬は給与所得に当たるため、給与所得控除を受けることができます。親族を役員にすれば、人数分の控除を受けることが可能です。
 

給与所得控除についてはこちら:No.1410 給与所得控除|国税庁

10年間赤字を繰り越して黒字と相殺できる

決算で赤字(欠損金)が出た場合、その金額を翌年以降に繰り越して、黒字の年度で相殺することができます(欠損金の繰越控除)。相殺した結果、黒字(収益)が減れば、その年度の法人税の納税額を抑えることができるわけです。
 

個人事業主の場合も繰越控除は可能ですが、赤字が発生した年度から3年間に限られます。これに対して、法人は最長で10年間、繰り越すことができます。
 

幅広い経費が認められる

収入を得るために使った費用=経費は、税金の計算の際に収入から差し引くことができます。経費が多いほど所得は小さくなり、節税につながります。法人は、個人に比べて、認められる経費の範囲が大幅に広くなるのもメリットです。
 

例えば、さきほどの役員報酬も経費に計上できます。会社が負担する生命保険の保険料も、原則として全額経費にすることが可能です。
 

相続対策になる

相続を見据えて資産管理会社を設立するケースも、少なくありません。普通に財産を譲るのに比べて、次のようなメリットがあるからです。
 

●相続税の財産評価額を下げられる

相続の際、財産に含まれる不動産の評価額が高額になって、相続税が跳ね上がることは珍しくありません。資産管理会社を活用すれば、その評価額を下げられる可能性があります。
 

不動産を会社の所有にして、被相続人(財産を譲る人)であるオーナーが役員としてその会社の株式を持つと、相続財産は不動産ではなく、資産管理会社の株式になります。ポイントは、相続税の財産評価においては、株式のほうが不動産よりも低い価格で評価されること。結果的に、相続税における節税効果を期待できるわけです。
 

●遺産分割が容易になる

相続で遺産分割を行う場合に、問題になりやすいのが不動産です。現金のように明確に分けるのが難しく、また複数の子どもの共有名義にすると、建て替えや売却などにすべての所有者の同意が必要になるなど、将来に禍根を残す可能性があります。
 

しかし、今も述べたように、不動産を資産管理会社の所有にしておけば、不動産そのものではなく、会社の株を相続することになります。誰が何%の株を相続するかを決めるだけでよく、不動産の分割や共有といった煩わしい対応は不要になるのです。
 

●不動産の相続登記が必要ない

不動産を相続した場合、法務局で相続登記(名義変更)しなくてはなりません。2024年4月からは、「取得を知った日から3年以内」に行うことが、法律で義務づけられました。
 

ただし、不動産が資産管理会社の持ち物ならば、相続した人があらためて登記する必要はありません。登記のための手間も費用もかからないのです。
 

●節税しつつ生前に財産を譲ることができる

個人の場合は、自分の所有する不動産や金融資産からの収入は、本人の資産として蓄積され、相続の際にはそのまま相続財産にカウントされます。しかし、資産管理会社を設立して法人がそれらの収入を受け取る形にして、そこから役員にした配偶者や子どもなどに報酬を支給すれば、被相続人への資産の集中を避けることができるでしょう。
 

被相続人の持つ現預金を資産管理会社に移して、会社の財産にしたうえで、同様に役員報酬として渡していくことも可能です。さきほど説明したように、役員報酬には給与所得控除が適用されます。
 

ちなみに、個人が生前贈与(暦年課税)で財産を譲っていく場合、年間110万円を超える分には、贈与税が課税されます。説明したようなスキームで、役員報酬として渡すと所得税がかかりますが、相続税や贈与税より税負担は軽くなるケースが多いはずです。
 

資産管理会社設立の注意点

一方、資産管理会社の設立には、次のような注意点もあります。事前に理解したうえで、活用を検討するようにしてください。
 

法人の設立にはコストがかかる

資産管理会社は、法人の形態としては、株式会社か合同会社になります。手続きを全部自分で行っても、株式会社の設立には25万円程度、合同会社の場合は10万円程度の費用が発生します。設立登記などの手続きを司法書士、行政書士など専門家に依頼すれば、さらに報酬が発生します。
 

なお、最初に述べたように、資産管理会社は生産、販売などの事業活動は行いません。従業員を多く抱えることもないでしょう。そうした法人の性格を考えると、株式会社よりも設立コストが安く、株主総会の開催や毎年の決算公告などの手間が不要な合同会社の設立にはメリットがあります。
 

株式会社、合同会社についての記事はこちら:
会社を作る前に知っておきたい 株式会社と合同会社 を選ぶポイント | MONEYIZM
合同会社とは?メリット・デメリット、設立の流れ、かかる費用などを解説 | MONEYIZM

法人の維持にもコストがかかる

法人は、たとえ赤字でも、年間7万円程度の法人住民税(固定割)を支払う必要があります。経理手続きや法人税の確定申告は、個人事業よりも煩雑で、税理士に依頼することになるでしょう。そのための報酬も必要になります。
 

法人には社会保険への加入義務がある=社会保険料の負担が発生することも、認識しておかなくてはなりません。社会保険料は、会社と従業員で折半して負担しますが、社長本人は、実質的に自分の社会保険料を全額負担することになります。親族を役員にして、社会保険に加入させれば、その分会社の負担は増えます。
 

資産を会社に移すときにもコストがかかる

説明してきたように、資産管理会社は個人の所有していた財産を受け取り、管理・運用します。この財産の移転の場面でも、次のようなコストが発生するのです。

●本人にかかる費用

・譲渡所得税(累進課税制で最大55%)

●資産管理会社にかかる費用

・登録免許税:固定資産税評価額の2%
・不動産取得税:固定資産税評価額の3~4%
・登記費用:数万円

登記を司法書士に依頼すれば、別途報酬が必要です。
 

移転した資産は自由に使えない

資産管理会社を設立し、保有していた不動産や株式、現金を会社へ移転すると、個人が自由に使用することはできなくなります。資産を個人に戻すには、役員報酬や配当として支払いを受ける必要があります。報酬や配当金には、所得に応じた所得税が課されます。
 

役員報酬の金額は、「定款または株主総会の決議によって定める」(会社法)必要があり、会社から勝手に払い出すことはNG。役員報酬額の改定についても、法で厳密に定められており、急に資金が必要になったからといって、すぐに増額することはできません。
 

不動産の「小規模宅地等の特例」は使えなくなる

不動産に関しては、相続税の「小規模宅地等の特例」を使えなくなることにも、注意が必要です。この特例が使えれば、自宅などを相続する場合に、土地の評価額を最大80%も引き下げることができるのですが、あくまでも被相続人が個人で所有していることが条件なのです。
 

どうしても特例の適用を受けたい場合には、建物だけを資産管理会社に移しておく、という方法もあります。
 

まとめ

収益不動産などの財産を所有する人にとって、資産管理会社の設立には多くのメリットがあります。ただし、実際に十分なメリットを享受できるかどうかは、所有する資産、本人や家族の状況などに左右されます。節税できる金額と、法人の設立・維持にかかるコストとの比較なども、精密に行う必要があるでしょう。資産を会社に移せば、基本的に「自分のものではなくなる」ことを認識しておくことも重要です。
 

親族も含めた将来にかかわることですから、資産管理会社の設立を検討する場合には、まずはこの分野に詳しい税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

マネーイズム編集部
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