節税をすれば税金の現金支出額を減らせます。納税額を減らせばお金が残ると思っている個人事業主もいるかもしれません。しかし、費用を現金で支払えば、お金は減ります。そのため、節税対策により本当に現金が減ってしまう場合もあり得ます。そこで、お金を残す視点から節税について解説します。
節税対策とは
個人事業主の節税対策について見ていきましょう。
税金というコスト削減が節税
税金は仕入原価、家賃など諸経費のコストの1つにすぎません。節税対策とは税金というコスト削減の施策で、お金を残すための1つの手段になります。
節税する方法
節税する方法を知るため、まずは所得税の算式を見ていきましょう。
- A.所得金額の計算:収入金額-必要経費など収入から差し引かれる金額=所得金額
- B.課税所得金額の計算:A所得金額-所得控除額
- C.所得税額の計算:B課税所得金額×所得税の税率
- D.基準所得税額の計算:C所得税額-所得税額から差し引かれる金額(=税額控除額)
- E.所得税および復興特別所得税の申告納税額の計算:D基準所得税額+復興特別所得税(基準所得税額×2.1%)
上記を踏まえた上で節税する方法は次の5つになります。
- 収入金額をできるだけ計上しない
- 必要経費をできるだけ計上する
- 所得控除額をできるだけ計上する
- 税額控除の制度を利用する
- 累進課税制度を利用して所得税の税率(5%~45%までの7段階)を下げる
節税対策の種類
売上高の計上を先延ばしにする
収入金額をできるだけ計上しないというのは、合法的な売上高の計上の先延ばしを指します。売上高は「相手方(得意先など)に引き渡した日・役務の提供(サービス提供)が完了した日」に計上するのが原則で、具体的には次の通りです。
- 商品を出荷した日
- 相手方に商品が着荷(到着)した日・納品した日
- 相手方の検収が完了した日 など
商品の検品など検収が完了した日に計上すれば、売上高の計上を先延ばしにできます。たとえば、12月中に商品を納品し、翌年1月に検収が完了すれば、今年の売上高に計上する必要はありません。ただし、売上高を計上するタイミングは得意先などの個々の契約単位により、毎年継続するのがルールになります。そのため、今年は検収が完了した日、翌年は納品した日といったように自由な変更は認められていません。
必要経費を多く計上する
現金支出の項目をできるだけ必要経費に計上するのが節税対策のポイントになります。そのためには、次の3点を意識することをおすすめします。
(1)プライベートと兼用する費用
プライベート費用でも事業活動に使用した部分については必要経費に計上できます。この事業活動に使用した部分を「事業割合」といいます。たとえば、自宅兼オフィスとして使用する場合、賃貸家賃や水道光熱費などのうち事業割合にかかる部分が必要経費に計上できます。ほかにもガソリン代やスマホ代などもプライベートと兼用する費用になり得ます。
(2)30万円未満の備品代
青色申告者になることを条件に、備品などの固定資産の購入費用を一括で必要経費に計上できる範囲が「10万円未満→30万円未満」に拡大されます。10万円以上30万円未満の固定資産を少額減価償却資産といいます。30万円未満のパソコン代は、少額減価償却資産にあたるため購入費用が一括で必要経費に計上できます。
(3)短期前払費用
支出をしても役務の提供(サービス提供)を受けていない部分に相当する前払費用は、必要経費に計上できませんが、短期前払費用に該当する場合には特別に必要経費に計上可能です。短期前払費用とは、次のすべての条件を満たす前払費用になります。
- 役務の提供の期間が1年以内であること
- 実際に支払うこと
- 該当する役務の提供について毎年継続して必要経費に計上すること
- 不動産の賃借料、保険料、機械装置の保守料など一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けていること
所得控除・税額控除をもれなく計上する
所得控除や税額控除をもれなく計上することも節税対策に有効です。おもな項目は次の通りです。
(1)人にかかる所得控除
本人や家族の属性により計上できる所得控除は次の通りになります。
- ①本人の合計所得金額が500万円以下の場合に計上できる項目
- 寡婦控除:夫と死別して再婚をしていない女性
- 寡夫控除:妻と死別または離婚して再婚していない男性(合計所得金額が48万円以下の扶養親族を養っている男性に限る)
- ②本人の合計所得金額が1,000万円以下の場合に計上できる項目
- 配偶者控除:配偶者の合計所得金額が48万円以下の場合
- 配偶者特別控除:配偶者の合計所得金額が48万円を超え133万円以下の場合
- ③本人の合計所得金額に制限なく計上できる項目
- 扶養控除:16歳以上の扶養親族(生活費の面倒を見ている)の合計所得金額が48万円以下の場合
- 障害者控除:本人や家族が障害者の場合
- 寡婦控除:夫と死別または離婚して再婚していない女性(合計所得金額が48万円以下の扶養親族を養っている女性に限る)
(2)社会保障などの支出に伴う所得控除
- 社会保険料控除:国民年金保険料や国民年金基金などの社会保険料の支払額全てが所得控除の対象
- 生命保険料控除や地震保険料控除:保険会社に支払う生命保険料や地震保険料がある場合
- 小規模企業共済掛金控除:小規模企業共済の掛金の支払額全てが所得控除の対象
(3)災害や盗難などの損失額にかかる所得控除
雑損控除:本人や家族の災害や盗難などの損失額が5万円以上(または合計所得金額の10%)を超える場合
(4)ふるさと納税
ふるさと納税の節税効果は最大「寄付金の額-2,000円」で、寄付金控除という所得控除と住民税の税額控除を兼ねた制度です。
所得分散をして税率を下げる
家族への給与を利用して、本人の所得税の税率を下げられます。それが青色事業専従者給与という制度です。この制度は青色申告を申請しないと受けられず、給与支給額は本人や家族で決められます。たとえば、所得金額が1,000万円なら配偶者に青色事業専従者給与500万円を支給して、資産を分散したほうが所得税の税率が下がります。ただし、青色事業専従者給与の支給対象者は本人の事業に従事しなければならない、などといった縛りがあるので、注意が必要です。
お金を残す節税・お金を減らす節税
現金支出の伴わない節税
現金支出の伴わない節税とは、お金を負担することなく、所得金額が圧縮できる節税を指します。たとえば青色申告特別控除や売上高の計上を先延ばしするなどが該当します。しかし、本当にお金を残せる節税は限られます。たとえば、今年の売上高の計上を来年に先延ばしをする場合、今年の所得金額は圧縮できても、来年の所得金額に加算されます。そのため、所得税の課税を先延ばしにしただけであるため、実際にはお金を残す節税にはなりません。一方、青色申告特別控除の場合、来年以降の所得金額に加算する必要がないため、節税額と同額のお金が残ります。
現金支出の伴う節税
必要経費などに計上できる費用を現金支出すれば、本当にお金が減ります。たとえば、広告宣伝費用を100万円支出したとします。税率が50%の場合、半分の50万円は節税できますが、節税額との差額「現金支出額100万円-節税額50万円=50万円」のお金が減少します。そのため、現金支出の伴う節税は、将来のために有効活用できるかどうかがポイントとなります。節税対策のみを目的としていると、浪費することと同じになりかねず、本当にお金が減ってしまいます。
まとめ
節税対策のメリットはお金が残せることに尽きます。そのため、節税対策には現金支出の伴わない所得控除や将来のために費用を投入するといった視点が求められます。この記事を読んだのを機に節税の目的をあらためて考えてみてはいかがでしょうか。
▼参考URL
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