従業員が安心して働くためなどの理由で、保険に加入している法人も多いです。生命保険の保険金が受け取れるのは、満期や死亡時だけではありません。被保険者が高度障害状態になった場合などでも、保険金を受け取ることが可能です。ここでは、法人が高度障害保険金を受け取った場合の税金や会計処理方法を解説します。
高度障害保険金とはどんなもの
高度障害保険金とは、被保険者が病気やケガなどによって、身体の一定の機能が重度に低下している状態(高度障害状態)になった場合に支払われる保険金のことです。高度障害保険金という言葉はあまり馴染みがない言葉かもしれません。そのため、特別な保険に加入していないと受給されないと思うかもしれませんが、そうではありません。一般的に、終身保険や定期保険等の死亡保険であれば、高度障害保険金の受給はあります(一部の生命保険では、高度障害保険金がないものもあります)。
では、実際に受け取れる高度障害保険金がいくらかというと、生命保険金と同額です。死亡保険金の受取額が3,000万円であれば、高度障害保険金の受取額も3,000万円です。高度障害保険金を受け取れる条件は、高度障害状態になり回復の見込みがない場合ですが、高度障害状態とは次のような状態のことをいいます。
- 両眼の視力を全く永久に失ったもの
- 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
- 中枢神経系・精神または胸腹部臓器に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
- 両上肢とも手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 両下肢とも足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったか、またはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの
なお、高度障害保険金を受け取ると、死亡保険金は受け取れなくなります。
高度障害保険料の掛け金を支払った場合の処理方法
ここからは、高度障害保険の処理方法について見ていきましょう。まずは、高度障害保険料を支払った場合の処理方法です。
法人が高度障害保険料を支払った場合の処理方法
高度障害保険金が受け取れる法人が加入する生命保険には、大きく分けて養老保険と定期保険があります。それぞれの保険料を支払った場合の処理方法は、次のようになります。
①養老保険
養老保険とは、被保険者が死亡した時には死亡保険金、契約満了時には満期(生存)保険金が受け取れる保険です。また、死亡保険金と満期(生存)保険金で受取人を変えることもできます。
そのため、誰が受取人であるかによって経理処理が異なります。
保険受取人 | 保険料支払い時の経理処理 | |
---|---|---|
死亡保険金 | 満期(生存)保険金 | |
法人 | 資産計上 | |
役員・従業員の遺族 | 役員・従業員 | 給与 |
役員・従業員の遺族 | 法人 | 1/2資産計上・1/2経費計上 |
②定期保険
定期保険は、被保険者が死亡した場合に死亡保険金を受け取ることができる生命保険です。養老保険のように、満期返戻金はありません。
定期保険は基本、掛け捨ての保険のため、解約返戻金がない場合などでは、全額を経費にできます。ただし、解約返戻金がある場合は、最高解約返戻率などによって、細かく処理方法が決められています。
定期保険については、令和元年7月7日以前に契約したものと、令和元年7月8日以後で契約した場合で処理方法が異なります。
解約返戻金がある場合の処理方法については、下記URLをご参照ください。
法人が高度障害保険料を支払った場合の仕訳処理
では、法人が高度障害保険料を支払った場合の仕訳を具体例で見ていきます。
①養老保険
養老保険に加入したので、月10万円の保険料を普通預金から支払った。なお、死亡保険金は従業員の遺族が、満期保険金は法人が受け取る契約である。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
保険料 | 5万円 | 普通預金 | 10万円 | 生命保険料 |
保険積立金 | 5万円 | 生命保険料 |
死亡保険金は従業員の遺族が、満期保険金は法人が受け取る契約のため、1/2を資産計上し、残り1/2を経費計上します。
資産計上をする部分については、「保険積立金」科目で処理します。
②定期保険
定期保険に加入したので、月2万円の保険料を普通預金から支払った。なお、本定期保険は、解約返戻金はなく、全額経費計上できるものである。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
保険料 | 2万円 | 普通預金 | 2万円 | 定期保険料 |
高度障害保険金を受け取った場合の処理方法
高度障害保険金を受け取る場合、非保険者に高度障害が発生しています。そのため、個人で加入している生命保険では、高度障害保険金を受け取っても税金がかかりません。
しかし、法人で加入している場合は非課税にはなりません。そこで、高度障害保険金を受け取った場合の処理方法を見ていきましょう。
法人が高度障害保険金を受け取った場合の処理方法
①養老保険
養老保険については、受取人がどうなっているかで保険金の経理処理が異なります。
保険受取人 | 保険金受取時の経理処理 | |
---|---|---|
死亡保険金 | 満期(生存)保険金 | |
法人 | 資産計上分の取崩し | |
役員・従業員の遺族 | 役員・従業員 | 益金算入 |
役員・従業員の遺族 | 法人 | 資産計上計上分は取崩し、 経費計上は益金算入 |
基本的な会計処理方法が、保険料の支払い時に資産で計上した分があれば、先に資産計上分を取崩し、差額を益金(収入)で処理します。
②定期保険
保険料を受け取った場合の定期保険の処理も、基本、養老保険と同じです。保険料支払い時に全額経費になっている場合は、保険料の受取時も全額、益金(収入)で処理します。
資産計上部分がある場合には、先に資産計上分を取崩し、差額を益金(収入)で処理します。
法人が高度障害保険金を受け取った場合の仕訳処理
では、法人が高度障害保険金を受け取った場合の仕訳を、具体例で見ていきます。
①養老保険
従業員が高度障害になったため、1千万円の高度障害保険金を普通預金で受け取った。なお、加入していた保険は養老保険である。高度障害保険金を受け取るまでに資産計上していた金額が500万円ある。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 1千万円 | 保険積立金 | 500万円 | 高度障害保険金 |
雑収入 | 500万円 | 高度障害保険金 |
保険積立金として資産計上していた部分が500万円あるため、受け取った高度障害保険金の内、500万円は保険積立金を取り崩す処理をします。差額の500万円については、収益科目である「雑収入」で処理します。
②定期保険
従業員が高度障害になったため、1千万円の高度障害保険金を普通預金で受け取った。なお、加入していた保険は定期保険である。本定期保険は解約返戻金はなく、全額経費計上していた。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
普通預金 | 1千万円 | 雑収入 | 1千万円 | 高度障害保険金 |
保険料支払時に、全額を経費計上していたため、受け取った高度障害保険金についても全額、収益科目である「雑収入」で処理します。
まとめ
高度障害保険金とは、高度障害状態になった場合に支払われる保険金のことです。保険契約としては生命保険と同じ契約になるため、会計処理についても、生命保険と同じ取り扱いになります。
ただし、高度障害保険金を受け取るのが個人の場合は、所得税が非課税となりますが、法人の場合は、法人税が非課税ということにはなりません。受け取った保険金額は収益科目で処理をすることになります。
今回ご紹介した処理方法は、一般的なものです。保険商品には、例えば養老保険と定期保険を足したものがあるなど、様々な種類のものが生み出されています。処理方法が不明な保険商品に加入した場合は、必ず税理士などの専門家に処理方法を相談するようにしましょう。