生産性やサービス品質の向上のために必要となるのが設備投資です。設備投資には莫大な資金が必要となるため、中小企業ならではの税制優遇や補助金が存在します。今回は設備投資に利用できる優遇措置や補助金をまとめてご紹介します。新型コロナウイルス感染症の影響に関するものも創設されていますので、合わせてご紹介します。
設備投資と税制優遇措置
中小企業が設備投資を行った場合、受けることができる税制優遇措置は3つあります。いずれの税制優遇措置も、条件を満たす中小企業が機械や器具を購入したり経営改善のための設備を購入したりしたときに、「特別償却」または「税額控除」を認める措置です。
特別償却と税額控除とは
特別償却
一般に、企業が機械や設備などを購入した場合、購入した機械や設備は企業の資産として計上されます。機械や設備は時間の経過とともに劣化するので、それぞれの価値を減らしていく必要があります。企業は、定められた計算方法で「減価償却費」という経費を計上し、毎年資産価値を減らします。減価償却費は経費なので、より多くの減価償却費を計上できれば、企業の所得額を圧縮して節税することができます。
この減価償却費に対して、通常定められた計算方法よりも多くの金額を計上できる仕組みが特別償却です。特別償却を選択すると、通常の償却費に特別償却の費用を加えて計上できます。
税額控除
企業は、毎年確定申告を行うことで、法人税などの税額を自分で計算して納税します。税額控除とは、最終的に計算された法人税額から、税額控除額を差し引くことができる制度です。
「税額控除」と「所得控除」は仕組みが異なります。税額控除は法人税額から直接控除されるのに対して、所得控除は法人税額から所得控除額に法人税率をかけた金額が控除されるイメージです。(実際には「限界税率」という仕組みがあるので、単純に法人税率をかけただけでは所得控除の節税効果を計算することはできません。)同じ控除額であれば、税額控除は所得控除よりも多くの金額を節税できます。
中小企業投資促進税制
この制度は、製造業や建設業などの中小企業が、新品の機械やソフトウェアなどを取得して製造業や建設業などの事業で使ったときに、特別償却または税額控除が認められる制度です。
特別償却を選択した場合、一部の例外を除いて、機械などの価格の30%相当額までの金額を、特別償却として計上できます。税額控除を選択した場合、同様に取得にかかった金額の7%相当額までの金額を、税額控除金額とすることができます。なお、2017年度から2020年度の特定期間において、機械などを取得して中小企業等経営強化法の適用を受けた場合、即時償却、もしくは7%(特別な場合は10%)の税額控除ができます。
商業・サービス業・農林水産業活性化税制
この制度は、法律に基づく支援機関から経営に関する指導や助言を受けた卸売業や小売業などの中小企業者が、新品の器具や備品などを取得して卸売業や小売業などの事業で使ったときに、特別償却または税額控除が認められる制度です。
特別償却の場合、取得価格の30%相当額までの特別償却を計上できます。税額控除の限度額は取得にかかった金額の7%までです。
この制度が適用されるケースとしては、飲食店が商品画像を識別できるPOSレジを導入した場合や、介護業者が介護用の浴槽を導入して業務を大幅に効率化した場合などが考えられます。
中小企業等経営強化税制
この制度は、製造業、建設業、卸売業、小売業など比較的広い分野の中小企業が、中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けた場合に適用されます。企業が生産性の向上や収益力の強化のために新品の設備などを購入したときに、特別償却または税額控除が認められる制度です。この制度の場合、特別償却によって全額即時償却が可能です。税額控除は7%相当額までですが、特定の中小企業は10%までになります。
中小企業等経営強化法は、中小企業の経営力を強化するために税制措置や法的支援、金融支援などで支援する法律であり、適用を受けるためには、経営力向上計画を策定し認定を受ける必要があります。
設備投資と補助金
人手不足、働き方改革、被保険者の適用拡大、インボイス制度の導入など、中小企業を取り巻く状況は経済面でも制度面でも大きな変化が続いています。こうした状況に対応する中小企業を支援するため、設備投資やIT導入、販路開拓などを支援するさまざまな補助金制度があります。そうした補助金の中でも特に重要な、生産性革命推進事業にかかわる3つの補助金が、「ものづくり補助金」「持続化補助金」「IT導入補助金」の3つです。
ものづくり補助金
ものづくり補助金は、新製品・サービスの開発や生産プロセスの改善などのための設備投資についての補助金です。ものづくり補助金は上限1,000万円の範囲内で、原則として設備投資の半分が補助されます。事業全体の付加価値額、給与支給総額、事業場内最低賃金を向上させる3~5年の事業計画を策定し、審査を通過することで補助金を受けることができます。また、新型コロナウイルス感染症の影響を乗り越えるための前向きな投資を行う事業者は、補助率が2/3に引き上げられます。この場合には、目標値の達成時期が1年間猶予されます。ものづくり補助金の成功例としては、複数の餃子を自動的に製造する機械の開発などがあります。
持続化補助金
持続化補助金は、小規模事業者が経営計画を作り、販路拡大などに取り組むときに使える補助金です。取り組みにかかる費用の2/3を補助金で賄うことができ、補助金額の上限は50万円です。補助金の対象は、店舗の改装、ホームページの作成・改良、チラシやカタログの作成、広告掲載などです。持続化補助金の成功例には、そば店が英語のメニューやのぼりを作成した例などがあります。
IT補助金
IT補助金は、バックオフィス業務の効率化や新規顧客の獲得など、付加価値を高めるITツールの導入を支援する補助金です。補助金額は、30万円~150万円のA型と、150万円~450万円のB型と2種類あります。補助率はいずれも1/2です。また、新型コロナウイルス感染症特別枠が創設され、補助率は2/3、PC・タブレット等のレンタル費用なども対象になります。補助金を受けるためには給与水準などを向上させる必要があります。IT補助金の成功事例には、販売管理システムを導入して需要予測や仕入単価を見える化し、売り上げを増加させた例があります。
5/25追記
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた中小企業支援のため、「持続化補助金」の上限が150万円まで引き上げられます。50万円上乗せされた形になります。補助率も現在の3分の2から4分の3に引き上げられます。
「ものづくり補助金」や、テレワークの環境整備などの費用に充てられる「IT導入補助金」も対象となり、「ものづくり補助金」については感染防止対策費用への給付額が50万円引き上げられ、最大1,050万円となります。
ケースごとに適切な選択を
税制優遇であれ、補助金であれ、細部はかなり複雑な制度です。制度をよく理解して、自社に合った選択をしましょう。
業種ごとに合った制度を
税制優遇措置は指定事業に注意する必要があります。ここでご紹介した3つの税制優遇措置はよく似ていますが、対象となる事業は制度ごとに定められています。中小企業として制度の対象になるかどうか、それぞれの制度ごとに業種や企業規模を確認しなければなりません。また、3つの制度を重複して受けられないという規定もあります。自社の事業内容に合った制度を活用するように注意しましょう。
企業規模や経営状況に合った選択を
赤字があると補助金を受けにくくなりますが、赤字企業がものづくり補助金を得た例もあります。また、ここでご紹介した税制優遇は、中小企業だけが受けられるものです。大規模法人によって所有されている法人は「みなし大企業」と呼ばれ、制度の対象から除外されます。みなし大企業の定義は税制改正で変わることもあるので、最新の制度を確認しましょう。
まとめ
今回は、中小企業の設備投資をサポートする税制と補助金をご紹介しました。ここでご紹介した制度は、社会や経済の仕組みが大きく変わる中で変革を遂げようとする、中小企業を力強く後押しするものです。また、新型コロナウイルス感染症で影響を受けている多くの中小企業にも一助となるものです。この記事を制度を活用するきっかけにしてください。