新型コロナウイルスの影響で、急激に業績が悪化している企業が増加しています。そのため、経費削減に迫られている会社も多いのではないでしょうか。経費削減で真っ先に検討されるのが「役員給与」の減額です。今回は役員給与の取り扱いとコロナウイルスによる役員給与の減額が認められる理由について解説します。
役員給与の基礎知識
業績に対する責任給としての位置づけ
役員給与とは、役員に支払われる報酬や賞与の総称です。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
法人税における役員とは、取締役や監査役、理事、監事、会計参与など、会社法上で定める役員の他、会社の経営に関与している使用人や使用人以外の者など、税法上の役員、いわゆる「みなし役員」に該当する方も含まれています。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm
役員には経営に関する様々な決定権が与えられています。役員給与は、経営権に対する「責任給」的な意味合いを持つため、業績が悪化すれば真っ先に減額の対象となり得るものです。
株主や債権者など会社に関わる第三者の利害関係者にとって、業績悪化は自分が保有する債権が脅かされることを意味します。経営責任を給与の減額という形で求めることは、当然であるといえます。
期中の増減は原則認められない
役員給与は、使用人に対して支払う給与やボーナスと違い、自由に増額・減額することは認められていません。
また、役員給与は法人税法上、原則として会社の経費(損金)にはなりませんが、ある一定の要件を満たす場合のみ経費(損金)として認められます。
具体的には、以下の3つが役員給与が経費として認められるための要件となります。
- 給与については毎月一定額で支払われるもの(定期同額給与)
- 賞与については事前に税務署に対して届出をしたもの(事前確定届出給与)
- 会社の業績に応じて支払われるもの(業績連動給与)
これらに、共通して求められていることは「経営者が意図的に役員給与を操作することを認めない」ことです。
役員給与に様々な制約がある理由としては、「役員が経営上の重要事項を決定する権限を持っている」ことが挙げられます。
なぜなら、経営権をもった役員は自身の自由裁量により支給額を決めることができます。このような状況で任意の時期に自在に役員給与を増減させることを税法で認めてしまうと、利益が出ている時に給与を増額し、利益を抑えることが可能となり「利益操作」をする余地を与えてしまうわけです。
そこで、税法ではこのような意図的な利益操作を禁止するため、役員給与には一定の制限を加えています。
例外として認められる「経営状況の著しい悪化」とは
税法で多くの制約がある「役員給与」ですが、何があっても必ず同額で支給しなければならないわけではありません。
例えば会社の業績が著しく低迷し、資金繰りが悪化したことで給与の支払すら困難になるケースや、赤字経営により株主や債権者、銀行などから経営改善を強く求められるケースなどが考えられます。このような特別な事情がある場合には、例外として役員給与を減額することが認められています。
法人税法ではこれを「業績悪化改定事由」と呼びます。
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf
役員給与の減額が認められるのは、業績が悪化して直接的に経営することが困難な状況に陥った場合だけではありません。第三者の利害関係者との関係が損なわれてしまう恐れがあるといった間接的な理由であっても役員給与を減額することが可能であり、全額「定期同額」であるものとして経費(損金)とすることができます。
新型コロナを理由とした役員給与改定の是非
最初に検討される役員給与の減額
前述したとおり、業績悪化の責任は経営責任者である代表取締役や監査役などの役員にあります。役員給与の減額という形でその責任をとるのは当然であると言え、経営改善の選択肢として真っ先に削減対象になります。
新型コロナウイルス流行による業績悪化が経営者の責任であるとは言えませんが、会社の維持存続を最優先で考えた場合、役員給与の減額は検討項目の一つとして挙げられます。
新型コロナによる経営不振が「経営状況の著しい悪化」にあたるのか?
新型コロナウイルスの影響による役員給与の減額は「業績悪化改定事由」に該当するのでしょうか?
国税庁が公表している「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取り扱いに関するFAQ」において、令和2年4月13日の更新で新型コロナウイルスによる業績悪化に伴う役員給与の減額の是非についてのガイドラインが示されました。
「5.新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取り扱い関係:問6、問7」に、具体的な例示とともに解説されています。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf
イベントの中止や飲食店に対する深夜営業の自粛要請など、新型コロナウイルスが売り上げに及ぼす影響は甚大であって、それに伴う業績の悪化は、税法でいうところの「業績悪化改定事由」に該当するものである、としています。
したがって、年の途中で役員給与を減額したとしても、減額前・減額後いずれの報酬も定期同額であるとみなされ、全額経費(損金)として認められます(問6)。
また、今のところ影響は出ていなくても、今後の予想として業績が悪化するものと見込まれる場合に先を見越して役員給与を減額した場合についても、将来的な業績悪化が不可避であれば問6と同様に全額が経費(損金)として認められます(問7)。
減額が財務に及ぼす影響
役員給与の減額が財務や税制面に及ぼす影響についてまとめてみましょう。
- 財務においては役員給与を減額した分だけ会社の経費が少なくなり、利益がプラスになります。
給与の減額に伴い社会保険料の会社負担分も減少するので、トータルでは減額以上の経費削減効果が見込めます。例えば、社会保険料の会社負担分は支給額の約10~15%ですが、仮に負担分が15%であれば実質的な経費削減の効果は「減額分×1.15」となります。
- 給与から天引きされている「健康保険料」「厚生年金」は、減額後3カ月間は同じ金額で控除しなければなりません。
社会保険料は本来、給与の額(標準報酬月額)に応じて段階的に算出されるものです。役員給与を減額すれば当然社会保険料も下がりますが、その改訂時期は「標準報酬月額が2等級以上落ちてから3ヶ月経過後」です。つまり、3ヶ月間は減額した給与から減額前の高い社会保険料を控除しなければならないので、給与額に対する負担割合は大きくなります。例えば月額100万円の給与を50万円まで減額した場合、社会保険料の負担割合は約11.5%から約23%に跳ね上がります。給与は下がりますが、社会保険料は変わらないため手取金額そのものが少なくなります。3カ月経過後、速やかに「随時改定の月額変更届」を提出しましょう。
- 源泉所得税は毎月の給与の支給額に応じて計算しますので、年末調整で大幅な徴収不足が起こることはありません。
ただし、減額により控除対象外であった配偶者を扶養につけることが可能となるケースもありますので確認してください。 - 住民税は、社会保険料と同様に給与の減額後も同じ金額で控除しなければなりません。
住民税の改訂時期である6月までは減額前の高い住民税が給与から控除されます。所得が大幅に減少した場合「住民税の減免制度」がありますが、必ずしも認められるものではありませんので、各市町村役場に問い合わせる必要があります。 - 確定申告をしている役員が所得税の「予定納税」をしている場合、「予定納税額の減額申請手続」という制度があります。
給与の減少により、予定納税が困難となる場合は所轄の税務署に相談してみましょう。
まとめ
売上げが減少している企業経営者のなかには、経費削減のため従業員を休業ないし解雇することを検討している方もいるかもしれません。しかし現在の雇用を維持できなければコロナが終息」した後のV字回復も望めません。今回紹介した役員給与の期中減額のような税制面での救済措置もありますので、まずは担当の税理士に相談し、出来るところから着手してみてはいかがでしょうか。