世界で地球温暖化が問題視されるようになってから久しく、各国はそれぞれの信念のもと環境問題対策を講じてきました。日本も例外ではなく、昨年7月に国連気候変動枠組条約事務局に提出した「日本の約束草案」及び昨年末のCOP21で採択された「パリ協定」等に基づき、温室効果ガスの削減に向けて様々な政策を打ち出す一環として、平成29年度の税制改正大綱において、森林環境税の創設の検討や税制全体のグリーン化の具体案の提示などを行いました。
今回はそれらの解説をするとともに、新たな税制措置の恩恵を受けることができる点や、新たな税制措置で損をする可能性のある点などについても紹介していきます。今一度自社の事業を見直し、地球にも優しい優良企業を目指しましょう。
環境省関連の税制改正
税制全体のグリーン化の推進
平成24年に閣議決定された第4次環境基本計画においては、「税制については、諸外国の状況も含め、エネルギー課税、車体課税といった環境関連税制等による環境効果等を総合的・体系的に調査・分析することにより、税制全体のグリーン化を推進する」こととされています。
この税制全体のグリーン化の取り組みとして、以下の3つがあります。
地球温暖化対策
地球温暖化対策としてのエネルギー課税として、具体的には2点が示されました。
第一に、石油・石炭・天然ガスといった化石燃料の利用は二酸化炭素の排出、ひいては地球温暖化の進行につながるため、二酸化炭素排出量に応じて「地球温暖化対策のための税」を課し、広く公平に負担を求めるというものです。この税収は、省エネルギー対策、再生可能エネルギー普及、化石燃料のクリーン化・効率化などのエネルギー起源二酸化炭素排出を抑制する諸施策に充当することになっています。
第二に、揮発油税等について、グリーン化の観点から本則税率に上乗せ分を加えた暫定税率を維持するというものです。
車体課税
同じく税制全体のグリーン化の推進の一環として、車体課税についても税制改正大綱に盛り込まれました。その主な内容としては、一部の自動車メーカーが燃費性能を偽る不正を行ったことなどを受けて燃費不正対策を強化することや、エコカー減税の見直し・延長を行うことなどが挙げられます。
森林吸収源対策
また、森林・自然の維持・回復に関して森林吸収源対策も大綱に盛り込まれました。第一に、エネルギー起源二酸化炭素の排出抑制のための対策は森林吸収源対策推進にも寄与するため、上で述べた地球温暖化対策のための税の普及等に取り組むこと、そして第二に、森林整備および木材利用の推進のための施策を講じることという2点が挙げられています。この2点目の財源として計画されているのが、次項で説明する「森林環境税(仮称)」の創設です。
森林吸収源対策の財源確保に係る森林環境税(仮称)の創設
税制改正大綱には、森林吸収源対策や地方の地球温暖化対策のための安定的な財源確保のための措置として、都市・地方を通じて国民に等しく負担を求めることを基本とする森林環境税(仮称)の創設に向けて検討していくことが示されました。
この税の創設の背景には、地球温暖化対策計画で設定された森林吸収量の目標を達成するためには間伐等の森林整備や木材利用等の森林吸収源対策を着実に実行していくことが必要である一方で、継続的に森林整備を実施するための安定財源の確保が大きな課題となっていたことがあります。この税収を財源として森林整備などが行われることで、国土の保全や地方創生、快適な生活環境の創出などにつながり、国民一人一人がその恩恵を受けることができると考えられています。
長期優良住宅化リフォーム等の促進に向けたリフォーム税制
既存住宅のリフォームに係る所得税の特例措置について、特定の増改築等に係る住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の控除額に係る特例や、既存住宅に係る特定の改修工事をした場合の所得税額の特別控除などの、いくつかの措置の適用対象等が拡充されるなどしました。
また、省エネ改修を行った住宅に係る固定資産税の減額措置について、長期優良住宅の認定を受けて改修されたことを証する書類を添付して市町村に申告がされた場合には、改修工事が完了した翌年度の分に限り、減額する額を現行の3分の1から33分の2に拡充することが定められました。
低公害自動車に燃料を充てんするための設備に係る課税標準の特例措置
低公害車に燃料等を供給する施設に係る固定資産税の課税標準の特例措置については、対象となる設備の要件に政府の補助を受けて取得したことを加えたうえで、その適用期限を2年間延長することとされました。ここでいう低公害車とは、燃料電池自動車や天然ガス自動車を指しています。
コージェネレーション設備に係る特例措置
熱電併給型動力発生装置(コージェネレーション設備)に係る固定資産税の課税標準の特例措置について、対象となる設備の要件に1基当たりの発電容量が10kw以上であることを加えたうえで、その適用期限を2年延長することとされました。
税制改正の損得ポイント
税制改正で得する事業例
低公害自動車に燃料を充てんするための設備に係る課税標準の特例措置やコージェネレーション設備に係る特例措置の延長により、これらの設備や装置の整備を扱う事業にとっては引き続き特例措置の恩恵を受けることができます。燃料等供給設備は初期投資が多額である上に設置当初の稼働率が低く、普及がなかなか進んでいませんでしたが、税制全体のグリーン化が促進される大きな動きの中で、新規参入を検討してもいいかもしれません。また、コージェネレーション設備に関しても同様のことが言えるでしょう。
長期優良住宅化リフォーム等の促進に向けたリフォーム税制に関しては、これまで長期優良住宅の認定を受けても高い工事額の割には減税額が少ないといった面がありましたが、今回の改正で新たに耐久性の観点が付け加えられたことで、認定を受けるメリットがより大きくなりました。省エネ改修による固定資産税の減額幅も大きくなり、住宅リフォームの需要が喚起されると考えられるため、リフォーム関連の事業にとっては追い風となるでしょう。
税制改正で損する事業例
「地球温暖化対策のための税」について、これは以前から実施されてきたことではありますが、石油・天然ガス・石炭などに対して税率が上乗せされるため、これらを使用する事業にとっては税負担が大きくなってしまいます。
また、揮発油税等に対する暫定税率が維持されたことで、運送事業などを中心に引き続き本則税率よりも高い税負担を求められることになりました。この税率引き上げは、今後も引き続き維持されることが十分考えられるため、関連する事業にとっては注意が必要です。クリーンエネルギーの利用への転換を検討してもよいかもしれません。
そのような場合には税理士に相談してみるというのも一つの手段です。税の専門家である税理士ならば、税制措置に関して役に立つ情報を提供してくれるはずです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回の税制改正では、これまでの税制措置が拡充・延長されたり新たな税制措置が導入されたりといった変更点も多くありました。この機会に税制改正の内容を確認し、自社の事業をもう一度見直すことで、環境にも配慮した優良企業を目指してみてはいかがでしょうか。