今年3月、2020年度(令和2年度)の税制改正が公布されました。税制全般にかかわる改正ですが、ここでは法人課税の主な内容について解説します。その中でも、中小企業に関連が深い、オープンイノベーション促進税制の創設や地方創生に関する税制の見直しなどを中心にご紹介します。
オープンイノベーション促進税制の創設
オープンイノベーション促進税制とは、国内の対象法人がオープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得価額の25%を課税所得から控除できる制度です。所得控除制度なので、全額が節税となる税額控除とは異なり、取得価額の25%に対して法人税率をかけた金額が実際の節税金額となります。
オープンイノベーションとは
オープンイノベーション(Open innovation)とは、企業内部と外部のアイデアを有機的に組み合わせて価値を創造することです。以前の考え方では、イノベーションは新製品の開発やR&Dのことで、個々の企業の研究開発部門が単独で取り組むものでした。これに対し、2000年頃に始まったオープンイノベーションは企業の垣根を越えたものを指し、今日盛り上がりを見せています。
企業の中には使われずに眠っているたくさんの技術やアイデアがあります。オープンイノベーションによってお互いに必要な技術を補い合ったり技術以外の強みを提供し合ったりすることで、休眠資産を活用したり、より大規模な、あるいは高度なビジネスを実現させたりすることができます。現状、オープンイノベーションの分野では日本企業は後れをとっているので、官民一体となって巻き返しを図る必要があるのです。
オープンイノベーション要件
この制度を活用するには、企業の取り組みに「オープンイノベーション性」があるという要件を満たす必要があります。オープンイノベーション性は、出資会社にとって革新的であること、スタートアップ企業の成長に貢献できること、出資会社のビジネスの変革に寄与することなどで判断されます。
国内対象法人(出し手事業会社)の要件
出資する国内企業は、スタートアップに直接出資するか、CVC(Corporate Venture Capital=コーポレートベンチャーキャピタル)と呼ばれる投資のために自ら設立した投資部門や投資子会社を通じて出資する必要があります。また、所管省である経済産業省に申請したり報告したりする必要があります。
受け手スタートアップ企業の要件
受け手のスタートアップ企業は、国内企業である必要はありません。受け手企業の要件としては、設立後10年未満の株式会社であること、非上場であること、企業グループに属していないことなどがあります。
中小企業もこの制度を活用できる
オープンイノベーション税制は中小企業も使うことができます。大企業が国内スタートアップ企業に出資する場合は1億円以上出資する必要がありますが、中小企業は1,000万円以上の出資でこの制度を活用することができます。
地方活性化や地方創生に関連する税制の見直し
今回の税制改正では、地方の振興に関するものとして、地方拠点活性化税制と地方創生応援税制が拡充されました。
地方拠点強化税制における雇用促進税制の拡充
地方拠点強化税制とは、本社機能を地方に移したり地方で拡充したりした場合に受けることができる、税制上の優遇措置です。地方拠点強化税制を受けるためには、「移転型事業」か「拡充型事業」についての整備計画を都道府県知事から認定を受け、確定申告を行う必要があります。
移転型事業とは、東京23区に本社を置く企業が地方に本社を移転する場合や、地方に研究所を作り研究開発機能を移転する場合、地方に本社機能の一部を移転する場合などが該当します。拡充型事業とは、地方に本社を置く企業がその本社を増築する場合や、別の地方に本社の一部を移転する場合、地方で新しく起業するために本社を整備する場合などがあたります。
この税制により、地方の拠点強化を目的とした建物の取得や設備投資、また新たな従業員の雇用に対して、法人税の減税や地方税(不動産取得税・固定資産税・事業税)の優遇措置などを受けることができます。今回の税制改正により、移転型事業で新たに雇い入れた場合の1人あたりの税額控除額が、これまでの3年間で最大90万円から120万円に拡充されました。
地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の強化
企業版ふるさと納税制度は、地方公共団体が行う地方創生の取り組みに企業が寄付しやすくするために、損金算入と税額控除を行う制度です。寄付の最低金額は10万円と低く設定されています。企業版のふるさと納税は、個人版のふるさと納税制度とは異なり寄付の見返りはありません。しかし、内閣府によって認可された地方創生プロジェクトに寄付をすることで、企業のCSR活動をアピールできるメリットがあります。
これまでの制度では、損金算入、および法人住民税・法人税・法人事業税の税額控除を活用することで、寄付した金額の最大で6割分の金額を納税額から減額することができました。今回の税制改正では税額控除割合が拡充され、納税額から減額される割合が最大で9割になりました。例えば1,000万円を寄付した場合、納税額を最大で900万円減額することができます。また、制度が設けられる期間も5年間(令和6年度まで)延長されたほか、適用対象の拡大、寄付時期の弾力化、認定手続きの簡素化も行われています。
投資や賃上げを促す措置
投資や賃上げを促す措置では、「特定税額控除規定の不適用措置」と、「賃上げ及び投資の促進に係る税制」が、大企業に対する適用条件を厳しくする形で見直されました。
「特定税額控除規定の不適用措置」の見直し
研究開発や生産性の向上を促進するための税制優遇措置として、研究開発税制や特定税額控除といったものがあります。大法人がこれらの制度の適用を受けるためには、賃金の引き上げや一定割合以上の国内の設備投資をする必要がありました。今回の税制改正で、国内の投資の割合が減価償却費の1割超から3割超に引き上げられました。
「大企業向けの賃上げ及び投資の促進に係る税制」の見直し
「大企業向けの賃上げ及び投資の促進に係る税制」とは、継続雇用者に支払う給与総額を増加させ、国内設備投資を活発に行った大企業に対して、給与総額増加分の15%の税額控除などを認める制度です。今回の税制改正により、国内設備投資額が当期の減価償却費の総額の9割以上必要だというこれまでの条件が、95%にまで引き上げられました。
連結納税制度の見直し
連結納税制度とは、グループ企業を一つの法人であるかのようにとらえ、グループ内の各企業の損益などを集約して課税する仕組みです。今回の税制改正により、損益通算の基本的な枠組みは維持しつつも、各法人が個別に法人税などを計算して申告する制度に移行します。
5G導入促進税制の創設
5Gは「第5世代移動通信システム」の略で、携帯電話などに使われる通信規格の5世代目の最新バージョンのことです。5Gには、高速大容量、高信頼・低遅延性、多数同時接続という特徴があります。5Gにより、バーチャルリアリティーや遠隔医療、ドローン制御、自動走行など、携帯電話だけではなく、すべての機械がインターネットでつながるIoTの世界を実現することが期待されています。
5G導入促進税制の創設により、5G整備にかかわる投資について、税額控除または特別償却ができる措置が創始されました。
まとめ
令和2年度の税制改正について、オープンイノベーション促進税制の創設と地方活性化や地方創生に関連する税制の見直しなど、特に中小企業の経営にかかわる部分に焦点を当てて解説しました。今回の税制改正では大企業向けの改正が目立ちますが、中小企業が使える改正もあります。この記事が中小企業経営者の方々の参考になれば幸いです。