税務調査で間違いが指摘されると、所得金額が増額し法人の支払う税金も増えます。そのため、会社は間違いやすい項目について日ごろから会計処理などで注意する必要があります。そこで、この記事では税務職員から見て間違いがわかりやすい項目を中心に税務調査について解説します。
税務調査とは~基礎知識~
税務調査の正式名称は「質問検査権」です。税務職員が納税者などに対して質問し、帳簿などの調査や提示・提出を求める権利のことを指します。まずは税務調査の基礎知識について見ていきましょう。
「任意調査」と「強制調査」
税務調査は「任意調査」と「強制調査」に区分できます。
(1)任意調査
税務調査は一般的に任意調査のことをいいます。税務職員から税務調査先の企業や顧問税理士に事前通知をするのが基本です。ただし、現金商売などの特定の業種に対しては事前通知なしで税務調査を実施することもあります。
また、「任意」といっても税務調査を拒否することは認められていません。正当な理由がなく税務調査に応じないと「1年以下の懲役または五十万円以下の罰金」が科されてしまいます。
(2)強制調査
「マルサ」といわれる国税局査察部が強制調査を担当します。任意調査と違い、脱税の疑われる納税者に対して、裁判所の令状を得て強制的に調査するのが特徴です。もちろん、拒否することはできません。
税務調査先の選定基準
法人の業種、業態などの状況を分析・情報収集に基づいて税務調査先を選定します。具体的には、おもに次の角度から申告書の内容を審理しています。
- 同一業種・同規模程度の法人の申告内容との比較
- 法人の過去の課税状況
- 資料情報
- 代表者の生活状況 など
たとえば、前年度よりも売上が急増したり利益が激減したりするなどにより、過去の課税状況に変動がある場合、税務調査の選定基準になり得ます。
また、調査対象に占める税務調査が実施された件数の割合を指す「実調率」は低い傾向にあります。平成27年の場合、個人1.1%、法人3.1%です。「申告件数の増加による業務量の大幅な増加」や「経済取引の国際化・高度情報化の進展により税務調査の労力がかかるようになった」ことが実調率が低下した背景に挙げられます。
税務調査の対象となる期間
税務調査の対象となる期間は税法上、過去5年間が原則になります。ただし、脱税の場合は過去7年間までさかのぼって調査することができます。また、欠損金(純損失)のある赤字法人については次の通りです。
- 平成30年4月1日以降に開始する事業年度:過去10年間
- 平成30年3月31日以前に開始する事業年度:過去9年間
税務調査で指摘される項目
『納税者には「間違いが分からない」』と思っていても、税務調査で発覚しやすい項目について取り上げます。
売上を計上する時期のズレ
売上を計上する時期のズレとは、本来計上すべき年度に計上しないで、翌年度など異なる年度に売上を計上することを指します。税務職員は調査する年度のうち、最新年度の期末直前の売上取引を注視します。
たとえば、3月決算の卸売業が実際に商品を納品したのが今年度の3月中にもかかわらず、翌年度の4月の請求書に載せているとします。たとえ翌年度4月の売上と会計処理しても、税法上は今年度の3月に売上処理をしなければなりません。納品書や在庫などの確認により、「3月中に売り上げた」ことが発覚します。
仕入・外注費・経費の前倒し計上~在庫の計上もれ~
売上を計上する時期のズレと同じように、仕入・外注費・経費を本来計上すべき年度よりも前の年度に計上するケースも税務職員は調べます。
たとえば、商品を150万円購入し、いったん全額を経費処理したとします。商品販売にかかる売上原価が100万円の場合、今年度の経費100万円、在庫50万円は翌年度以降の経費になります。しかし、在庫50万円を計上する処理を怠ると、同額(50万円)は前倒しで経費計上することになってしまいます。税務職員は商品ごとの販売した時期を納品書や在庫表などから本来計上すべき売上原価を調べます。
また、今年度に経費処理した項目についても税務職員はサービス提供を受けた時期をチェックします。サービス提供を受けたのが翌年度の場合、経費の前倒し計上となり、間違い項目になるからです。海外出張費を例にすると、今年度中に航空券を購入し、経費処理をしたとしても、税務職員は出張者のパスポートの履歴を調べます。実際に出張したのが翌年度の場合、経費の前倒し計上となってしまいます。
架空計上の人件費・外注費
架空計上の人件費・外注費について税務職員は調べます。そもそも架空計上は単純なミスでなく、意図的な所得隠しで、重加算税という最も重いペナルティーの対象になります。
経費処理した人件費・外注費は支払先に照会する権限を行使するなどにより、架空計上かどうかを調べます。たとえば、税務職員がある外注費が実在するかどうかを疑ったとします。すると、後述する反面調査を行ない外注費の相手先に照会し、架空計上であることが発覚します。
その他の金額の大きい取引
そもそも1社に対する税務調査の期間は限られているため、金額の大きい取引が調査対象になりやすい傾向にあります。たとえば、外注先に取引件数が多数あるとします。税務職員は100万円単位などの金額の大きい取引に注目し、調べていきます。
また、車両や設備投資などの金額の大きい固定資産の購入も、資産計上すべき項目を経費処理しているかどうかなどについてチェックします。
間違いが発覚する理由
国税管理総合(KSK)システムの存在
国税総合管理(KSK)システムは、全国の国税局および税務署をネットワークで結び、データを一元管理しています。入力された情報に基づき分析し、税務調査に活用します。たとえば、ある会社の支払い情報を入力したとします。売上先が支払いを受けた金額について売上計上していない場合、国税総合管理(KSK)システムの入力情報から売上計上もれが発覚します。
一般取引資料せんの提出
税務署は法人および個人事業主に対して「売上、仕入、費用及びリベート等に関する資料」の提出を求めることがあります。これが一般取引資料せんであり、その会社の取引明細書になります。エクセルでデータを作成し、光ディスクなど(CD・ DVD)にデータを格納します。もちろん、国税総合管理(KSK)システムに入力されて、データベース化されます。
取引先への反面調査もある
税務職員は、取引先などに対して調査する権限があり、会社の調査だけでは正確な情報の把握が困難な場合に実施します。これを「反面調査」といい、取引先に対して事前通知をするのが原則になっています。たとえば、リベートを現金で受け取ったとします。銀行口座から入金確認ができないため、リベートの支払先に反面調査をして現金売上を把握しようとします。
課税・徴収漏れに関する情報の提供
国税庁はホームページ上でも情報提供を求めています。情報提供の例は次の通りです。
- 租税回避スキーム
- 虚偽の売上金額や経費に基づく経理等により、不当・不正に所得金額を低く申告している者および手口
- 無申告の情報 など
提供情報の入力内容はおもに次の通りです。
- 対象となる会社の情報(社名・住所)
- 税目
- 時期・期間・場所・人物(会社)・金額・手段・方法・関連する金融機関や支店名・口座番号などの具体的な情報
- 情報提供者の属性(氏名、年齢、情報提供対象者との関係など)
なお、氏名は匿名を選択することが可能です。
まとめ
税務調査で指摘されやすい項目と間違いが発覚する理由について説明してきました。「税務署には分からないだろう」と会社が思っていても、税務職員には調査のノウハウが蓄積されています。この記事を機に改めて、税金の計算ミスを防ぐ体制を構築してはいかがでしょうか。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/tuusoku/pdf/07.pdf
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/tuusoku/pdf/11.pdf
https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/report/2003/japanese/text/02/04_1-3.htm
https://www.nta.go.jp/about/council/shingikai/170314/shiryo/pdf/04.pdf
https://www.mof.go.jp/about_mof/mof_budget/review/2019/300006shiryo.pdf
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/shiryo/index.htm
https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm
https://www.nta.go.jp/suggestion/johoteikyo/input_form.html
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/tuusoku/pdf/06.pdf