新型コロナウイルス感染症の拡大により、暮らしに困窮する人が増えています。予期せぬ収入減で、気がついたら生活費が底をつきそう。アパートの家賃を滞納し、立退きを迫られてしまった……。「コロナ禍」に対応するために、国は世帯向けの一律の給付金の支給や家賃補助などなどを行っていますが、それではとてもカバーできない場合には、急ぎ「生活保護」を申請するのも選択の1つになるでしょう。支給の要件や、支給額は? どうやって申請すればいいのか? わかりやすくまとめました。
東京23区で申請が4割増
新型コロナウイルス感染症対策で休業要請などが行われた「特定警戒都道府県」13都道府県の主な自治体で、4月の生活保護申請件数が、前年と比べて約3割増えた。東京23区に限ると、増加率は約4割に達した――という報道がありました(「朝日新聞デジタル」6月1日)。新型コロナの経済、家計に与える影響がいかに大きなものかの証ともいえる数字です。
言うまでもなく、生活保護を受けるのは、憲法25条に基づく国民の権利です。生活保護制度とは、「資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度」(厚生労働省ホームページ)なのです。経済的に危機的状況に陥ったときには、当座の暮らしを守るために、活用を検討すべきでしょう。
「最低生活費」と収入の差額が支給される
では、受給の要件からみていきましょう。厚労省ホームページには、「生活保護は世帯単位で行い、世帯員全員が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することが前提でありまた、扶養義務者の扶養は、生活保護法による保護に優先します。」とあります。
- 利用しうる資産→預貯金、生活に利用されていない土地・家屋などは売却し、生活費に充当する。
- 利用しうる能力→働くことが可能な場合は、その能力に応じて働く。
- その他あらゆるもの→年金や手当など他の制度で給付を受けることができる場合には、まずそちらを活用する。
- 扶養義務者の扶養→親族などから援助を受けることができる場合には、援助を受ける。
そのうえで、厚生労働大臣が定める基準で計算される「最低生活費」と年金、児童扶養手当などといった「収入」を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に、最低生活費から収入を差し引いた差額が「保護費」として支給されます。最低生活費は、住んでいる地域や世帯構成などによって異なります(具体的な支給額などについては、後述します)。
「扶助」は8種類ある
生活保護というと、食費や光熱費などの「生活扶助」を思い浮かべるのですが、カバーされるのは、それだけではありません。次の表にあるように、「住宅扶助」「教育扶助」「医療扶助」といった援助が受けられるのです。
生活を営む上で生じる費用 | 扶助の種類 | 支給内容 |
---|---|---|
日常生活に必要な費用 (食費・被服費・光熱費等) |
生活扶助 | 基準額は、
特定の世帯には加算があります。(母子加算等) |
アパート等の家賃 | 住宅扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
義務教育を受けるために必要な学用品費 | 教育扶助 | 定められた基準額を支給 |
医療サービスの費用 | 医療扶助 | 費用は直接医療機関へ支払 (本人負担なし) |
介護サービスの費用 | 介護扶助 | 費用は直接介護事業者へ支払 (本人負担なし) |
出産費用 | 出産扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
就労に必要な技能の修得等にかかる費用 | 生業扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
葬祭費用 | 葬祭扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
生活保護基準額表から生活扶助基準額を算出。これに、それぞれの生活実態に応じて「住宅扶助」「教育扶助」などが支給され、その合計額が「最低生活費」になります。さきほど説明したように、実際の支給総額は、そこから年金などの収入を差し引いた金額ということになるわけです。
アパートの敷金・礼金や更新料なども給付対象
急に収入が途絶えたような場合、真っ先に問題になるのが、家賃という固定費です。住居を失うようなことがあれば、就職活動もままならないことになってしまいます。そうした事態を回避するために、新型コロナの影響が拡大して以降、国は経済的に困窮した人に対して家賃を補助する「住居確保給付金」の支給要件を緩和しました。
支給額は自治体によって異なり、例えば東京23区の目安は、単身世帯で5万3700円、2人世帯で6万4000円、3人世帯で6万9800円などとなっており、支給期間は原則3ヵ月(求職活動などを誠実に行っている場合は3ヵ月延長可能で、最長9カ月まで)とされています。
ありがたい制度ではあるのですが、生活保護の住宅扶助の場合には、家賃だけでなく敷金・礼金や、更新料、仲介手数料、連帯保証料なども給付されるという、その制度にはないメリットがあります。「更新料がネックで住み続けられない」というようなケースでは、迷わず生活保護に頼って、ピンチを回避すべきでしょう。
申請の方法は?
生活保護の申請窓口は、住んでいる地域を所轄する福祉事務所の生活保護担当です。通常は、事前相談で生活保護制度の仕組みなどに関する説明などを受けたうえで、申請を行うことになります。
申請に際しては、生活状況調査や資産(預貯金、生命保険など)調査などを行い、原則として申請から14日以内に受給の可否が通知されます。なお、生活保護が開始されるまでの当座の生活費がない場合には、社会福祉協議会が行う「臨時特例つなぎ融資」を利用できる場合があります。
保護費には課税されない
この生活保護は、要件を満たす限り、誰でも無差別平等に受けることができます。また、保護費には課税されません。すでに受けた保護費や保護を受ける権利を差し押さえられることもありません。
同時に、生活保護を受けるうえで注意すべき点、デメリットもあります。
- 車や装飾品などの贅沢品を持てなくなる。旅行などは制限される。
- ローンやクレジットカードを利用できない。
- 飲酒や喫煙、ギャンブルが制限される。
- 収入や生活状況などを、ケースワーカーに報告しなければならない。
当然のことながら、「不正受給」が発覚すれば、受給がストップするだけではなく、返金を求められたり、罰金が科せられたりすることになります。
まとめ
新型コロナの影響で生活が困窮している場合には、生活保護制度の活用も検討を。確実に生活を立て直すためには、「住居を失う」前に申請することが大事です。