「財団法人」「一般財団法人」「公益財団法人」などという言葉を聞いたことがあっても、これらの違いを正しく理解している人は少ないでしょう。財団法人にまつわる制度は2008年(平成20年)に発足した比較的新しいものであるため、まだ十分に認知されていないかもしれません。財団法人は高い自由度で経営できる使い勝手が良い法人です。この記事では、財団法人の仕組みや設立方法について解説します。
一般社団法人・一般財団法人制度の創設
以前の制度では、事業に公益性があるために税制上の優遇措置を受けることができる公益法人(社団法人・財団法人)について、「法人設立が難しい」「公益性の判断基準が不明確」「営利法人と類似した法人が税制優遇措置を受けている」などの問題が指摘されていました。
こうした問題に対応するものとして、1998年に特定非営利活動法人法(NPO法)が制定されました。しかしNPO法には、事業分野が限定されていることや、財団法人のような財産をもとにした法人を設立できないことなどの不十分な点がありました。
そこで2008年に「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」が施行され、営利を目的としない法人について公益性と切り離した形での法人設立が可能となり、登記のみによって簡単に法人格を取得できるようになりました。一般財団法人・一般社団法人は公益性と無関係に設立できますが、もともと公益法人だったことや利益の分配ができないことから、今日でも公益的な活動をすることが多いようです。
一般財団法人の概要とメリット
一般財団法人とは
一般財団法人とは、財産をもとに営利(利益の分配)を目的とせず活動する法人です。財産や遺産をもとに一般財団法人を設立することで、法人名義で銀行口座を作ったり経済活動を行ったりすることができます。
一般財団法人と混同されやすいものとして「一般社団法人」がありますが、「財団」とは財産をもとに作られた団体であり、「社団」とは人が集まることで作られる団体です。一般財団法人を作るためには300万円の財産が必要ですが、社団法人は人が2人以上集まるだけで作ることができます。一般財団法人は遺言で設立する方法も法律で定められています。一般財団法人・一般社団法人には「非営利性」が必要です。ここでいう「非営利性」とは構成員に利益や財産を分配できないことを意味します。
一般財団法人は自由に設立・運営できる
一般財団法人は簡単に設立でき、どのような事業でも自由に行うことができます。「非営利性」の要件があるために株式会社のように利益を分配することはできませんが、メンバーの共通の利益を狙って活動することも、収益を上げる活動を行うことも可能です。
また、一般財団法人は許認可法人ではなく、行政から常に監督されることはありません。社会や市場において、法人名義を用いて自由に活動することができます。
一般財団法人を設立するメリット
法人格がないと対外的な活動の際にメンバーのうちの誰かの個人名義を使用することになるので、事業を行う際に取引が難しくなったり、メンバー交代時に銀行口座を変更するのに苦労したりします。一般財団法人を設立すれば法人名義で活動できるため、こういった問題は発生しません。
財産や遺産を有効に使って「非営利に」社会貢献事業などを行いたい場合には、設立方法が法的に明確かつ財団であることを周囲にアピールできる一般財団法人や、後述する「公益財団法人」が有力な選択肢となるでしょう。
一般財団法人の設立
一般財団法人の仕組み
株式会社の株主総会や取締役会があるのと同様に、一般財団法人の中にもいくつかの機関があります。
- 評議員と評議員会
評議員会のメンバーを評議員と呼びます。評議員会が決議することは、法律で定められていることと定款で定められていることだけです。評議員会は役員(理事と監事)と会計監査人を選任し、役員の行動に問題があった場合に解任します。また、事業譲渡や合併などの重要事項は評議員会が決定します。評議会を株式会社の株主総会になぞらえて考えるとわかりやすいでしょう。 - 理事と理事会
理事と理事会は一般財団法人の中心的な執行機関です。理事会は全ての理事で組織されます。理事会は法人の業務執行の決定、理事の職務執行の監督、法人を代表する代表理事の選定や解職を行います。株式会社に置き換えると、理事会が取締役会、代表理事が社長にあたります。 - 監事と会計監査人
監事の役割は理事の職務の執行を監査することで、監査報告書を作成します。監事は法人の事業を知るために、理事に報告を求めたり、業務や財産の状況を調査したりすることができます。規模が大きな一般財団法人には会計監査人を置く必要があります。会計監査人は公認会計士か監査法人でなければなりません。
一般財団法人の設立手続き
一般財団法人を設立するための最少人数は、評議員3名、理事3名、監事1名の合計7名です。7名の兼任はできません。最少人数を集めることができたら、以下の手続きで一般財団法人を設立することができます。
- 定款を作成し公証人の認証を受ける
- 設立者が財産(300万円以上)の拠出をおこなう
- 定款の定めに従い、設立時の評議員、理事、監事(必要な場合は会計監査人)を選任する
- 理事と監事が設立手続きに不備がなかったかを調査する
- 代表理事が事務所を登記する
その後事業活動を行う場合は、通常の会社設立の場合と同じように、税務署や都道府県税事務所、市役所に設立を届け出ます。
なお、一般財団法人を遺言で設立することもできます。遺言で一般財団法人を設立する意思を示し定款に記載するべき内容を定めると、遺言執行者が定款の作成や財産の拠出を行います。その後の手続きは上記と同様です。
一般財団法人が公益財団法人となるには
公益財団法人のメリット
- 公益目的事業には法人税がかからない
公益財団法人が行う事業は、主として公益目的事業と収益事業に分けられます。公益目的事業には法人税がかかりません。 - 寄付金を集めやすい
公益法人に寄付をした個人に対しては所得税・個人住民税・相続税が、法人に対しては法人税が減額される仕組みがあります。 - みなし寄付金制度がある
公益法人が収益事業に属する資産から自分の公益目的事業のために支出した金額は、寄付金として損金処理できる仕組みがあります。
公益認定を受けて公益財団法人になる
一般財団法人は、公益認定を受けることで公益財団法人になることができます。公益認定の基準は主に2つです。
- 公益性
公益財団法人は公益に資するために公益目的事業を主として行う必要があります。公益目的事業とは、学術や技芸、慈善その他の公益について不特定多数の増進に寄与するものとして法律で定められています。 - ガバナンス
公益財団法人は、経理の基礎や技術的能力があり、理事や監事が親族などに独占されていないことなど、能力と体制を備えていなければなりません。
公益財団法人にならなくても法人税上のメリットを受けられる方法がある
公益認定を受けなくても、「非営利型法人」の要件を満たすことで法人税の課税範囲を狭めることができます。非営利型法人の要件には「非営利性が徹底されている」ことと「共益活動を目的としている」ことの2種類あります。いずれかの種類の非営利型法人に該当すれば法人税上のメリットを受けられますが、最終的な判断は税務署に委ねられます。
まとめ
一般財団法人は、2008年に法律が制定された比較的新しい法人格です。一般財団法人は、非営利性(利益を分配しないこと)を満たす必要がありますが、事業内容は自由であり、財産や遺産をもとに簡単に設立することができます。一般財団法人は公益認定を受けることで公益財団法人になることができます。公益財団法人になると、公益目的事業に法人税がかからなくなったり寄付金を集めやすくなったりするメリットがあります。財産をもとに社会貢献的な事業を興そうと考えている方々は、一般財団法人・公益財団法人を設立することをぜひ検討してみてください。