紙の領収書はもういらない?令和2年の税制改正で 追加された電子保存方式を解説! | MONEYIZM
 

紙の領収書はもういらない?令和2年の税制改正で
追加された電子保存方式を解説!

令和2年度の税制改正により、取引情報の新たな保存方式が認められました。「領収書の保管場所に困る」「経費精算のためにいちいち紙の領収書を提出するのが面倒」「事務手続きを進めるためのスキャンが膨大で時間がとられる」といった悩みは、今回認められた新保存方式で最終的に解決される可能性があります。今回は現時点で入手できる情報をもとに、新しい電子保存方式について解説します。

領収書の保存義務

領収書の保存期間は7年

企業は仕訳帳や現金出納帳、売掛金元帳、売上帳などの帳簿に取引を記録するとともに、取引するときに作成した注文書や受領した領収書、そして貸借対照表や損益計算書などの書類を保存しなければなりません。帳簿と書類の保存期間は確定申告書を提出してから7年間と定められているため、どんなに細かな領収書であっても7年間保存しなければなりません。なお、帳簿や書類は原則として紙で保存することになっています。

電子帳簿保存法の創設

  • 制度創設の背景
    情報化が進展する中でビジネス分野でもペーパーレス化が進み、帳簿や書類もパソコンを使って作成したり授受したりすることが一般的になってきました。このような状況を受けて、帳簿書類の電子データとしての保存やマイクロフィルムによる保存、スキャンデータの保存などの容認について経済界から強い要望が寄せられるようになり、1998年(平成10年)に「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(通称「電子帳簿保存法」)が制定されました。今回の税制改正も、電子帳簿保存法に関連する規則の改正という形で行われています。
  • 電子帳簿保存法の概要
    電子帳簿保存法は、帳簿や書類の中でも初めから自分でパソコンを使って作成するものは、税務署の承認を得ることで電子的に保存することができると定めています。仕訳帳や現金出納帳などの帳簿、棚卸表、貸借対照表、損益計算書などの書類についてコンピューターシステムを使って作成した場合、そのデータを保存すれば紙に出力する必要はありません。
    それでは紙の領収書をもらった場合はどうすればよいのでしょうか。この場合、書類をスキャンしたデータを保存する方式が認められています。スキャンする時に使う機械類やスキャン保存が認められる書類の範囲が次第に拡大され、今日では領収書をスマートフォンで読み取り保存する方式も可能となっています。

領収書の完全な電子保存が可能に ― 令和2年度税制改正

令和2年度の税制改正により、電子取引の電磁的記録について今年の10月1日から新たに2つの方式が追加されます。これらの2つの方式は、これまでの電磁的記録方式を導入・運用するときに生じていた負担を大幅に緩和する可能性があります。

追加された電子保存方式

取引情報が電磁的記録の授受によって行われる取引のことを「電子取引」と呼びます。ECサイトで物品を購入したりプリペイドカードで電車に乗ったりすることがこれに該当します。

 

前述のとおり、以前から電子取引を行った場合には紙の領収書を保存する必要はありませんでした。電子取引に際しては紙の領収書を出力したりスキャンしたりする必要はなく、記録をハードディスクなどに電磁的に保存するだけで問題ありません。そして今回の税制改正により、電磁的な保存の仕方として新たな方式が2つ認められることになりました。

 

  • 取引の電磁的記録にタイムスタンプが押された後に取引情報を授受すること
  • 訂正や削除の履歴が残るようなシステムを利用するか、訂正や削除ができないシステムを利用して取引情報の授受とその電磁的記録を保存すること

 

タイムスタンプとは、ある時刻にその電子データが存在していたこと、それ以後改善されていないことを証明する技術のことです。電子取引にタイムスタンプを押すことで、記録の真正性が保証されます。国税に関する記録を保存する場合、一般財団法人日本データ通信協会が認定するタイムスタンプを使わなければなりません。

税制改正前との比較

改正前の制度では、電子取引情報を保存するためにはタイムスタンプを備えた電磁記録システムなどを自前で備える必要がありました。しかし今回の税制改正により、そのような特別なシステムを用意する必要はなくなりました。今回の税制改正は電子取引の保存についての要件を大きく緩和するものですが、実際にどのように対応すれば税務署などに認めてもらえるのか、詳細は定まっていない状態です。10月の改正施行までに詳細が詰められていくと考えられます。

税制改正で進む経費精算業務の合理化

電子取引の新たな保存方式については、詳細なガイドラインなどがまだ発表されていません。断定的なことを言える段階ではありませんが、ビジネスのペーパーレス化や経費精算業務の合理化が進むことが予想されます。

新しい電磁記録方式の意味

これまでの保存方式は、電子取引をしたデータに対してタイムスタンプを押して保存するという、紙の領収書やスキャンしたデータを保存する方法に似ていました。今回新たに追加された保存方式により、タイムスタンプを押す必要や取引データを自分で保存する必要がない形で保存することも認められました。これにより、決済データや電子領収書などを扱うクラウドシステムを介して請求書の発行や支払いの受領が行われれば、それだけで領収書の保存義務が果たされたことになります。この方式であれば自社でシステムを開発したり購入したりする必要がないので、中小企業を含む数多くの企業が新しい請求書保存方式を活用できるようになると考えられます。

ビジネスのペーパーレス化

新しい電磁記録方式により、ビジネスのペーパーレス化がより一層進むと考えられます。新型コロナウイルス対策で在宅勤務を導入する企業が増えた中、紙の請求書を処理するためだけに出社するという話も耳にします。決済データや領収書をクラウド上で保存するようになれば、こうした業務もなくなっていくことでしょう。

経費精算管理の合理化

電子取引の記録自体が電子的に保存されるようになれば、経費精算やその管理は電子的に保存されたデータを利用して行なうことになるでしょう。社員が現金ではなく会社のクレジットカードやプリペイドカードを使いキャッシュレス決済を行えば、紙の領収書を保存する必要がない以上、社員は経費精算に関して何もする必要がないということになります。上司は電子化された決済データを見て、社の規定を満たす適切な経費であるかどうかを判断することになるでしょう。

 

☆ヒント
領収書の電子保存や帳簿類の電子化を行うためには、適切なシステムを導入したうえで税務署の承認を得る必要があります。経費精算業務を合理化するのであれば、これまでの会社のワークフローを見直す必要が出てくるでしょう。経理の電子化は会社全体の生産性向上に寄与しますが、税務とシステムに関する深い知識が求められます。領収書の電子保存や帳簿類の電子化を進める場合には、税務とシステムの双方に詳しい税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。

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まとめ

ビジネスで使う領収書などの書類や売上帳などの帳簿は、紙の形で7年間保存するのが原則です。しかしIT化の進展した現在では、コンピューター上で帳簿を保存する方法や紙の書類をスキャンして保存する方法も認められています。今回の税制改正により、電子取引の記録をクラウド上で保存する方法が認められることになる見込みです。今回の改正は、ビジネスのペーパーレス化をさらに一歩進めたものと言えるでしょう。

坂下慶太
東京大学卒。米国大学院に進学予定。 東証一部上場企業にて経理業務を担当。 経理業務で体得したスキルや知識を中心に解説していきます。
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