ネット通販、ネットオークション、ネットトレードといったインターネット取引は、もはや「普通」のものになりました。それらのネットビジネスで生計を立てる人、会社勤めの傍ら副業として「起業」し、利益を上げる人も増えています。ところで、しかるべき稼ぎがあれば、当然税金がかかってきます。しかし、実際には、「ネットを介したやり取りなのだから、税務署にはバレないだろう」と考える人も少なくないようです。はたしてその通りなのでしょうか? インターネット取引に対する税務当局の最新の対応について、解説します。
店がないから見つからない?
ビジネスとしてのインターネット取引は、言うまでもなく店舗を持たずに行えるのが大きなメリットです。家賃や光熱費などのコストが不要で、スマートフォンやパソコンなどを使い、手軽に始めることができます。同時に、中には「実店舗がないのだから、税務署が商売の実態を掴むこともできないだろう」という、別の「メリット」を認識する人もいます。
確かに、ネット取引では匿名でのやり取りも可能で、データの消去=取引の痕跡の抹消も容易なことなどから、その実態を把握しにくい側面があるのは事実。ただし、「だから税金を払わなくても大丈夫」と高をくくっていると、けっこう痛い目に遭うかもしれません。
論より証拠、次の国税庁の発表(「インターネット取引を行っている個人に対する調査状況」)を見てください。
2018(平成30)事務年度(18年7月~19年6月)に、インターネット取引に関連して行われた実地調査(特別・一般)は、2,127件(前年度2,015件)で、そのうち1,850件(同1,736件)で申告漏れなどが指摘されています。ちなみに「実地調査」とは、よく聞く「税務調査」(任意調査)のことで、「一般調査」は帳簿を中心としたチェック、「特別調査」はそれでは不十分と判断されたときに行われる詳細な調べのことを指します。
申告漏れの所得金額は、264億円(同219億円)に上り、1件当たりにすると1,243万円(同1,087万円)。これは、全体の1件当たりの申告漏れ所得金額の1.2倍になります。その結果、課された追徴税額(※1)は、トータル58億円(同37億円)で、1人当たりでは274万円(同186万円)に。こちらは、全体の1件当たり追徴税額180万円のおよそ1.5倍になっています。
調査の内訳も見ておきましょう。グラフを参照してください。これは、今の説明の前年(2017(平成29)事務年度)の実績ですが、「ネット通販」「ネットオークション」などの比率が高くなっているのがわかります。
なお、国税庁は、それぞれのネット取引について、以下のように定義しています。
- ①ネット通販:事業主が商品を販売するためのホームページを開設し、消費者から直接受注する販売方法(オンラインショッピング)による取引
- ②コンテンツ配信:インターネットを利用して行われる電子化された音楽、静止画、動画、書籍、情報等のダウンロード取引又は配信提供に係る取引
- ③ネットオークション:インターネットを利用して行われるオークション取引
- ④ネット広告:ホームページ、電子メール、検索エンジンの検索結果画面等を利用して行われる広告関連取引
- ⑤ネットトレード:インターネットを利用して行われる株、商品先物又は外国為替等の取引
- ⑥その他のネット取引:出会い系サイトの運営など、①~⑤に該当しない取引
申告漏れや脱税の目的で、本来支払うべき税金よりも納税した金額が少なかった場合に、追加で税金を支払うこと。過少申告加算税などの「加算税」、「延滞税」がある。
「シェアリングエコノミーへの対応」を宣言
では、税務当局は、どのようにしてこうした事案を補足しているのでしょうか? さきほども述べたように、ネット空間のやり取りの把握には、従来にはない困難さが伴います。独自の体制やテクノロジーも必要になるでしょう。
そうした認識の下に、2000年2月に東京国税局に設置されたのが、「電子商取引専門調査チーム」通称「サイバー税務署」です。その名の通り、電子商取引を行っている事業者などに対する税務調査や情報収集を専門に行う組織で、翌年には全国の国税局・沖縄国税事務所に設置されました。同チームによる監視は、現在24時間体制で行われています。
さらに国税庁は、2019年6月に、「シェアリングエコノミー(※2)等新分野の経済活動への的確な対応」を公表しました。そこでは、高度化、多様化するネット取引について、「①広域的・国際的な取引が⽐較的容易である、②足が速い、③無店舗形態の取引やヒト・モノの移動を伴わない取引も存在するなど外観上、取引の実態が分かりにくい、④申告手続等に馴染みのない人も参⼊が容易である、などといった特徴を有しており、こうした取引に対しては、 国税庁として的確に対応しなければ、適正な申告を⾏っていない納税者を⾒過ごすことになりかねません。」という問題意識を再確認したうえで、時代に即した対応を行うことが明示されました。
その中に具体策の1つとして掲げられているのが、ネット取引を監視するプロジェクトチームの設置です。「サイバー税務署」に加え、関係部署の指名された職員で構成され、「国税局・事務所間や関係部署間で緊密な連携・協調を図り、情報収集・分析等の取組を強化」する、とのこと。全国で200人規模の組織構築を想定し、19年7月から始動しています。
「的確な対応」では、このほか、
- インターネット上で公開されている情報を効率的に収集する技術など、新たなICTの活用を進めるとともに、デジタル・テクノロジーに精通した人材の育成・登用を推進する。
- 大量で多様な情報を有効に活用していくため、こうした情報を一元管理し、マイナンバーや法人番号をキーとして資料情報の横断的な活用を目的としたシステムを整備する(2020年1月スタート)。
- 大口・悪質な申告漏れなどが見込まれる納税者の税務調査においては、反面調査(※3)や租税条約などに基づく外国当局への情報提供要請を行い、的確な証拠収集や事実認定を行う。
- 調査でデジタル・データを取り扱う必要がある場面などにおいては、国税局及び税務署に配置された情報技術専門官などが対応し、デジタル・フォレンジックなどの手法・技術も活用しながら、的確な証拠の保全に努める。
といった方針が示されました。ちなみに「デジタル・フォレンジック」は、「デジタル・データに関する問題が発生したときに、その分析・調査を行う技術」のことで、例えば「消されたデータの復元」などを差します。公職選挙法違反容疑で逮捕された河合克行前法相のパソコンから、「献金リスト」が復元されたというのは、まさにこれです。
いかがでしょうか? 多様化するネットビジネスに対して、税務当局が「強い関心」を抱き、不正を許さないための具体的な手立てを実行していることが、おわかりいただけたと思います。「自分の商売は見つからない」という甘い考えは、持たないほうが賢明なようです。
インターネットを活用し、モノ・サービス・場所などを多くの人と共有・交換して利用する社会の仕組み。
※3反面調査
税務調査が入る人や企業の関係先に対して行われる税務調査。
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まとめ
増加するネット取引に対して、当局は専門組織を構築するなどして、監視体制の強化を図っています。万が一、申告漏れなどが見つかれば、大きなペナルティを覚悟しなくてはなりません。そんなことにならないように、節税対策をしたうえできちんと納税すべきでしょう。不明な点があれば、税のプロ=税理士に相談を。