会社の資本に対するもうけの割合が、預金金利よりも少ないケースはよくあります。その場合、企業活動をしないで、会社の全財産を銀行預金に預け入れたほうが効率よく利益(預金利息)が得られるといえます。そこで、会社が投下した資本に対するもうけの割合の財務指標について預金金利と比較しながら解説します。
ROA(総資産利益率)とは
会社が投下した資本に対するもうけの割合をROA(総資産利益率)といい、さまざまの財務指標の中でもとくに重要な指標です。
ROAとは利回りである
ROA(総資産利益率)とは法人の総合的な収益性を測る尺度で、「投下した資本に対していくら利益を獲得したのか」という資本効率を示します。ROAは預金に対する預金利息の関係と比較して考えることが可能で、その意味から企業の利回りと捉えることができます。
投下した資本が同額の場合、利益が大きい企業のほうが資本効率がよくなります。一方、ROAが預金金利より低い場合、法人が資本を投じ利益を獲得して税金を納付するよりも定期預金に預け入れたままのほうが受取利息という利益を獲得できます。
ROAの算定方法
ROAをよりイメージしやすくするために、不動産投資を例に算定方法について説明します。
例)ある会社役員が不動産投資の目的で4,000万円のマンションを購入した場合
・不動産投資に対する税金を納付した残りのもうけが100万の場合
・不動産投資に対する税金を納付した残りのもうけが500円の場合
この場合一般的な都市銀行の定期預金の金利相場を下回ります。
ROAを高める方法
ROAは以下の計算式で表現できます。
上記の算式を2つの財務指標に分解すると、次のとおりになります。
売上高利益率とは、売上高に占める利益の割合であり、収益性を示す指標です。売上が同額の場合、より少ないコストで販売したほうが売上高利益率は高くなります。
そのため収益性を高めるためには、獲得した売上高のうちコストを差し引いた利益が残せるのかがポイントです。
一方、総資本回転率とは、総資本(投下した資本)に占める売上高の割合であり、効率性を示す指標です。
たとえば、不動産投資の賃貸収入(売上高)が同額であれば、投資額4,000万円の新築マンションよりも投資額2,000万円の中古マンションのほうが効率性がよいことを意味します。
ROAを事業経営に当てはめると?
不動産投資を投下した資本に相当する総資本は投資物件になりますが、企業活動に当てはめると、おもに次のとおりです。
- 現金、預貯金
- 売掛金などの債権(現金取引にせず、信用取引にすることで販売活動に貢献しているため)
- 建物、設備、車両、器具備品などの固定資産
- 賃貸物件の敷金・保証金(不動産会社に差し出すことで賃貸物件が借りられるため)
収益性を高める方法
収益性を高める方法は売上高を獲得し、コストをかけないことに尽きます。そこで、3つの財務指標から収益性について説明します。
売上高経常利益率を高める
売上高経常利益率とは、売上高に占める経常利益の割合です。
損益計算書の利益のひとつである経常利益とは、通常の企業活動で獲得した利益で、企業の収益力を示します。
売上高経常利益率を高める方法は「商品に付加価値を付けるなどにより、売上総利益率(粗利益率、販売利益率)を上げる」や「売上減少を警戒しながらの固定費の削減」など方法があります。
一方、「税金の支払額を減らしたい」という目的だけで、交際費などを浪費して法人所得を圧縮すると、経常利益は減少し、ROAも低くなってしまいます。
売上高人件費比率を低くする
売上高人件費比率とは、売上高に占める人件費の割合です。
特に労働集約型産業の場合、生産要素に占める資本の割合が低く、人間の労働力に頼る割合が大きいため、売上高の獲得には効率のよい人件費の投入が大切です。売上高人件費比率を高める方法はノンコア業務をアウトソーシング化するなど、コストカットする方法があります。
労働生産性を高める
労働生産性とは、従業員数に占める付加価値額(売上総利益に近い数値)の割合です。
労働生産性を高めるためには、一人当たりの付加価値額を上げることがポイントになります。それは同時に労働分配率という付加価値額に占める人件費の割合を下げることにもつながります。
効率性を高める方法
効率性を高めることで、少ない資産でも効率よく活用する財務体質にすることができます。
分母の「総資産」を減らすのが基本
分母である「総資産」を減らすことにより、ROAと総資本回転率の財務指標を高めることができます。具体的には、資産を効率よく運用する方法のほかに、「資産のオフバランス化(決算書に表示させない)をする方法もあります。
不良在庫の処分・遊休資産の売却
収益を生まない資産を保有し続けることは総資産だけが膨れ上がり、分子の利益が増えないため、ROAの財務指標が低くなってしまいます。それを回避するため、不良在庫の処分や遊休資産の売却により、分母の総資産を圧縮する方法があります。たとえ売却損が出ても、節税対策に活用できたり、現金預金を獲得できたりするメリットが得られます。
リース取引をオフバランス化する
ファイナンスリース取引(中途解約ができないリース)により固定資産をリースした場合、中小企業会計指針により、「リース総額を資産計上する方法」または「資産に計上しないオフバランス化する方法」が選択できます。オフバランス化したほうが総資産が増額しないで済むため、ROAが高くなります。
そのため、ROAを意識する場合、設備を購入せずにリース契約にしたほうが財務指標はよくなります。
ファクタリングを活用する
回収が滞っている売掛債権も収益を生まない資産です。そのため、ファクタリングという売掛債権の管理や回収を行う金融サービス業者に売却することで総資産を圧縮することができます。回収の見込みがない売掛債権を保有したままにするよりも、手数料を差し引いた残額を現金化したほうが効率のよい資産運用につながります。
自己資本比率にも注意する
ROAというひとつの財務指標だけを意識しすぎると、企業活動に支障をきたす可能性があります。そのため、企業活動の利回りのほかにも自己資本比率も注視しましょう。
自己資本比率とは
自己資本比率とは、総資本に占める純資産(自己資本)の割合であり、算式は次のとおりです。
自己資本比率は企業の健全性を示す指標になります。たとえば、不動産投資で4,000万円の投資物件を頭金400万円、借入金3,600万円(不動産投資の場合は団体信用生命保険によりリスクヘッジをしている)により購入したとします。自己資本比率は「純資産(返済義務のないお金)400万円÷総資本(投資物件の購入金額)4,000万円=10%」になります。
ROAの財務指標には、負債(返済義務のあるお金)が無関係のため、借入金が膨れ上がり企業の健全性が損なわれても、高利回りにできます。
自己資本比率を高める方法
自己資本比率を高めるためには、純資産を増やすことに尽きます。純資産は、資本金などの出資額と利益剰余金などの内部留保額に区分できます。純資産を増やすポイントは内部留保の蓄積でしょう。利益の獲得が必須であり、交際費の浪費などのむやみに所得を減らすような節税対策は避ける必要があります。言い換えると、税金は内部留保をするために必須なコストといえます。また、代表取締役が個人の貯蓄額を会社に増資することでも純資産を増やすことが可能です。
まとめ
財務指標はさまざまあり節税よりもとっつきにくいテーマですが、上手に活用すれば企業活動に生かすことができます。ROA(総資本利益率)という観点からは、税金は法人が利益を獲得するためのコストと考えることができます。まずは企業の利回りであるROA(総資本利益率)に興味をもつと、決算書が理解できるもしれません。税理士などの専門家に財務指標に基づいたアドバイスを求めてはいかがでしょうか。
▼参照サイト
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https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/keyword_10.pdf
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/keyword_02.pdf
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/keyword_06.pdf
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https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/keyword_04.pdf
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/index.htm
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/keyword_01.pdf