起業するときに最も大きな問題になるのは資金調達であり、次が人材の確保であると言われています。自己資金が足りないときには家族や友人からお金を借りることも考えられますが、それでも間に合わなければ融資や投資を考える必要があるでしょう。また、補助金の活用も資金調達の有力な手段です。この記事では、起業するときに活用できる融資や投資、補助金制度について、そのメリット・デメリット、利用する際の注意点を含めて解説します。
起業家のための資金調達入門
資金の調達が最大の課題
2017年版の中小企業白書によると、創業期と成長初期の企業にとって最大の課題は資金調達です。創業期の企業に絞って課題をみてみると、「資金調達」「家族の理解・協力」「事業や経営に必要な技術やノウハウの習得」の順となっています。その後安定期・拡大期に入ると最大の課題は質の高い人材の確保に変わりますが、資金調達の壁を乗り越えなければ起業に成功することはできないでしょう。
資金調達のポイント
自己資金以外で資金を調達するときには調達先ごとの特徴を押さえる必要があります。親族や友人は低コストで自由度が高く、最も優良な資金調達先であると言えます。銀行などからの融資は低コストである反面自由度が低く、ベンチャーキャピタルなどは自由度が高くても高い利回りが要求されます。
融資や投資を受けるときには事業計画とプレゼンテーションが決め手となります。経営が確かに成り立つと思える事業計画を作り、プレゼンテーションで的確に伝えなければなりません。
融資を受ける
新創業融資制度
日本政策金融公庫の新創業融資制度は、起業を支援する融資制度の中で最も有名なものと言えるでしょう。この制度を活用すると、これから事業を始めるときや始めて間もないときに無担保・無保証人で資金を借りることができます。新創業融資制度を活用するためには、
- 雇用を創出する
- 現在勤めている企業と同じ業種で事業を開始する
- 大学で習得した技能を活用する
などの要件のうちどれかを満たす必要があります。なお、この他にも「創業資金のうち1/10以上を自己資金で用意する」という要件がありますが、
- 現在勤めている企業と同じ業種で事業を開始する
- 産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める
などの条件を満たす場合には自己資金を用意する必要がありません。融資限度額は3,000万円、そのうち運転資金は1,500万円で、各地にある支店で手続きを行うことができます。
〈新創業融資制度のメリット〉は、今も説明したように無担保・無保証で融資が受けられ、限度額にも余裕があることです。また、申し込みから融資実行までの期間が数週間~1ヵ月程度と短いのも、起業家にとっては大きなメリットと言えるでしょう。民間金融機関からの融資に比べれば、金利が低いのも魅力です。
そもそも日本政策金融公庫は、新しい産業を育成するために、国が100%出資して運営されていますから、起業家のサポートには積極的です。新創業融資制度の他にも「新規開業資金」「女性、若者/シニア起業家支援資金」という開業資金制度もあります。どの制度を使うかは日本政策金融公庫の担当者と相談して決めると良いでしょう。
〈新創業融資制度のデメリット〉を挙げるとすると、創業資金の1/10とはいえ、自己資金割合を満たす必要があることや、次に述べる自治体の制度融資に比べると、金利が高くなることが多い、という点になるでしょう。
自治体の創業融資制度
都道府県などの各自治体にも独自の創業融資制度があります。融資の内容や融資を受けるための条件は新創業融資制度とよく似ているので、新創業融資制度と比較してより有利な制度を選ぶと良いでしょう。自治体の創業融資制度では信用保証協会を通じて地域の金融機関から融資を受けることになるので、地域の金融機関との結びつきを強められるという利点もあります。
〈メリット〉は、なんといっても金利が低いことです。多くの場合、借入金利息の一部を自治体が負担してくれる「利子補給制度」や、融資に必要な信用保証協会の保証料の一部ないしすべてがやはり自治体負担となる「信用保証料補助制度」が設けられているからです。
一方、金利が安いことに起因する〈デメリット〉もあります。1つは、新創業融資制度に比べると、融資実行までに時間がかかること。自治体の創業融資は、自治体、金融機関、保証協会が組んで実行される仕組みになっているため、それぞれが審査を行う必要があり、通常は申し込みから2ヵ月以上待たなくてはなりません。
また、大半の自治体融資では、1/2の自己資金割合を求められます。ある程度の手持ち資金がないと、融資を受けること自体が難しくなってしまうのです。さらに、無保証でよかった新創業融資制度と違い、基本的に連帯保証人が必要になります。経営者がなればいいのですが、“万が一”のリスクは自覚しておく必要があるでしょう。
小規模企業者等設備貸与事業の活用
小規模企業者等設備貸与事業は全国中小企業振興機関協会が実施する全国規模の資金貸与事業です。この制度を使うと、創業に必要な設備を導入するときに分割払いで売ってもらったりリースを受けたりすることができます。利用限度額は原則100万円~1億円です。各地にある産業振興センターや産業振興機構で申し込むことができます。
〈メリット〉は、金融機関の融資枠、保証協会の保証枠とは別枠で貸与が受けられることです。制度の利用に際して、保証金や預かり金、信用保証協会の信用保証料なども不要です。
〈デメリット〉としては、使途が「創業又は経営の革新を図るために必要な設備の導入」に限定されること、自治体融資と同じく、基本的に連帯保証人を求められること、などが挙げられるでしょう。
融資の審査ポイント
当然のことながら、審査に合格しなければ融資を受けることはできません。しかも、起業家は、「まだ実績がない」というハンデを背負っています。それを踏まえて、起業するなら押さえておきたいポイントは、以下の5つです。
(1)自己資金はどのくらいあるか
創業時の融資の“第一関門”が、創業資金全体に占める自己資金の割合です。一定以上の自己資金がなければ、どんなに事業の成長性が見込まれても、事業計画書がすばらしくても、お金は借りられない、と言っても過言ではありません。
「新創業融資制度の自己資金割合は1/10以上」と説明しましたが、後々の返済などを考えれば、少なくとも1/3程度は確保しておくのが理想です。誤解してならないのは、借りたお金(すなわち返済が必要なお金)は、自己資金には当たらない、ということです。審査に当たっては、預金通帳を精査され、「出所」を確認されると考えてください。
(2)ビジネスの経験値はあるか
お金の貸し手が最も恐れるのは、借りた人が行き詰まり、返済不能になることです。そのため、きちんと事業を継続しているだけの能力や経験があるのかも、重要なチェックポイントになります。
能力を測るのは簡単ではありませんが、経験ならある程度具体的に評価することが可能です。例えば、サラリーマン時代に、創業する事業につながる仕事をどのくらいやっていたのかは、「何年間」というように数値化することができるでしょう。まったく未経験の「やりたいことをやる」という状態で融資を受けるのは、かなり難しいと言わざるを得ません。
(3)事業計画書はきちんとしているか
さきほどの新創業融資制度の申し込みには、フォーマットに沿った「創業計画書」の提出を求められます。他の融資においても、客観的に見て事業計画が妥当なものかどうかは、当然厳しくチェックされます。見通しが甘かったり、逆に赤字続きの計画だったりすれば、審査を通過するのは難しくなります。
事業計画で精査されるものの1つが、返済可能性です。評価されるのは、月々の税引き利益が返済額を上回っていて、その数字に説得力がある計画です。
(4)経営者として信用できるか
この場合の「信用」は、「個人の金銭問題」に関するものです。返済を続けるうえでは、事業の安定的な成長とともに、代表者の金銭管理能力も重要になります。そのため、過去に税金の滞納がないか、クレジットカードで事故を起こしていないか、などの信用情報が調査されます。金融機関のブラックリストに名前が載っているような場合には、やはり融資を受けるのは難しくなります。
(5)資金の使い道は妥当か
借りたお金の使途を明確にする必要があるのも、創業融資の特徴と言えるでしょう。(1)~(4)の要件を満たせば融資上限まで借りられる、というわけではないのです。
申し込みに当たっては、見積書などによってそれを証明しなくてはなりません。もし、申し込みと別の使い方をすると、融資を打ち切られたり、先々断られたりすることもありますから、注意が必要です。
投資を受ける
融資は借りたお金に利子をつけて返せるか否かが審査のポイントとなります。一方、投資は利益の一部を取得するために行う活動なので、事業の継続性だけではなく成長性も重要となります。
ファンドから投資を受ける
投資ファンドは金融機関や事業会社が出した資金をベンチャー企業や中小企業に投資することでリターンを狙う事業です。中には地方自治体や中小機構などの公的機関が出資に加わるファンドもあります。ファンドでも事業計画が決め手となりますが、希望者の経営能力を高めるための支援活動を行うファンドも多くあります。中小機構のサイトから同機構が出資するファンドを検索することができます。
クラウドファンディングを活用する
近年、ITを活用した資金調達としてクラウドファンディングが注目されています。ファンドは投資収益を狙うものなので事業計画の合理性が重要ですが、クラウドファンディングでは応援のために少額を提供する意味合いもあるので、収益性よりも思いや社会貢献をアピールした方がうまくいく場合があります。
補助金・助成金を活用する
補助金・助成金は返す必要のないお金なので強力な資金源になりますが、開業前から申請できるものと開業後に申請できるものがあるので注意が必要です。補助金の説明では「補助率」という言葉が出てきますが、「補助率」とは必要な経費のうち補助してもらえる比率のことです。「補助率2/3」であれば経費のうち2/3を補助してもらうことができます。
補助金の探し方
補助金は毎年の状況に合わせて補正予算で組まれることが多いので、政府の動向に注意する必要があります。また地方自治体も独自の補助金事業を実施しており、いずれの補助金も申請期間が限られていることが多いため注意しなければなりません。
補助金検索サイトを使えば、自分が活用できそうな補助金をタイムリーに探すことができます。補助金の名称に「創業」「起業」などの言葉が入っていなくても起業するときに使える補助金があるので注意しましょう。
ものづくり補助金
起業した後であればものづくり補助金を受けられる可能性があります。ものづくり補助金は中小企業などの生産性向上に役立つ革新的サービス開発などのための設備投資に使える補助金です。中小企業の補助率は1/2ですが、小規模企業の場合は2/3まで補助率が上がります。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、主にWebサイトの構築やロゴ・のぼりの作成、機械の一新など、小規模事業者がある程度まとまったお金を使いたいときに活用できる補助金です。50万円までの範囲で補助率2/3 の補助を受けることができます。
IT導入補助金
IT導入補助金は中小企業や小規模事業者がITツールを導入するときに使える補助金で、ITベンダーとチームを組んで申請することになります。具体的には、30万円~450万円の補助金を補助率1/2で受けることができます。
3つの補助金のコロナ対策「特別枠」と「事業再開枠」
上記でご紹介した「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」「IT導入補助金」に対して、2020年は新型コロナウイルス感染症対策のための「特別枠」が設けられました。特別枠には類型A「サプライチェーンの毀損への対応」、類型B「非対面型ビジネスモデルへの転換」、類型C「テレワーク環境の整備」の3つのタイプがあり、補助率が通常よりも高くなります。5月22日の経済産業省の発表では、各タイプの補助率は類型A 2/3、類型B 3/4、類型C 3/4となっています。
また、「ものづくり補助金」と「小規模事業者持続化補助金」には、ガイドラインに沿って消毒、マスク、清掃、間仕切り、換気設備などの感染防止対策を行うときの費用を補助する「事業再開枠」が設けられました。補助金を採択された業者が対策を行えば、50万円までの範囲内で補助金が上乗せされます。
東京都の創業助成金
東京都の創業助成金は、都内で創業を予定しているか創業後5年未満の中小事業者で、「TOKYO創業ステーションの事業計画書策定支援終了者」などの創業支援事業を利用した場合に受けられる補助金です。助成対象と認められる経費のうち2/3以内を100万円~300万円の範囲で補助してもらうことができます。専門家のアドバイスと補助金がセットになっているので、起業に成功する可能性が高まるでしょう。令和2年度の申請期間は10月1日~10月9日です。
横浜市創業支援等事業計画
横浜市は国から認定を受けて横浜市内での創業を支援する取り組みを推進しています。支援を受けるための要件は東京都の場合と似ており、創業予定や創業して時間があまり経っていない事業者が横浜市の指定したセミナーなどを受講することが必要です。要件を満たす企業が横浜市に応募することで融資や助成金を受けることができます。令和2年度の助成金についてはまだ発表されていないようですが、令和元年度の助成金は経費の1/2以内について30万円を上限として助成しています。
まとめ
この記事では起業するときの資金の調達方法として、融資、投資、補助金・助成金にどのようなものがあるのか、どうように活用すれば良いのかを解説しました。起業の振興が国家的な課題となる中で、活用できる公的制度もかなり整ってきているといえるのではないでしょうか。起業するときには、自分にとって有利な資金調達手段を念入りに調べて積極的に活用したいものです。