税制改正で国際課税の扱いはどうなる? 租税回避への対応について解説 | MONEYIZM
 

税制改正で国際課税の扱いはどうなる?
租税回避への対応について解説

令和元年12月12日に「令和2年度税制改正大綱」が発表されました。税制はその時々の景気・社会情勢を鑑みて毎年改正されますが、特に昨年にはあの「パナマ文書」の流出で世界的に大きな話題となったタックス・ヘイブン対策である「外国子会社合算税制」が盛り込まれたことも、まだ記憶に新しいのではないでしょうか。タックス・ヘイブン対策同様、今年度も国際課税の法の抜け穴をふさぐための新たな対策が盛り込まれています。この記事では、新たな対策である国際的な租税回避・脱税への対応について解説していきます。

税制改正とは

「税制改正」は税金に関わる法律や制度を新しいものへと改めることです。企業経営のあり方に大きく影響してくるため、多くの経営者が関心を持っています。

 

税制を維持・導入していく最大の目的は「国家運営に必要な資金を集めること」です。誰から・どのくらいの税金を集めるかという内訳は状況によってその都度変える必要があり、日本では毎年国・地方の税制の見直しが行われています。

これまでの税制の問題点

これまでの税制、特に国際課税に関わるものにはいくつかの問題が存在していました。世界的に大きな影響を及ぼした「タックス・ヘイブン」問題もその1つです。

 

パナマ共和国の法律事務所によって作成された租税回避行為に関する膨大な量の内部文書「パナマ文書」の流出に端を発したこの問題は、同様の内容を記した「パラダイス文書」と呼ばれる電子文書群の公表によってさらに大きなものへと発展していきました。これらの文書によって各国の政治家・著名人・企業幹部などの租税回避が判明したことで、当時のアイスランド首相が辞任へ追い込まれるなど大きな影響を及ぼしています。

 

また、2018年にソフトバンクグループによる租税回避問題が話題になったのも記憶に新しいのではないでしょうか。同グループは2016年9月にイギリスの半導体メーカーを買収し、この企業が保有するいわゆる孫会社の株式の多くを配当として取得することで、買収した子会社の企業価値を大きく下げました。そして企業価値の下がった孫会社の株式の大半を自グループの別子会社へと譲渡することで、帳簿の上では意図的に多額の損失(譲渡損失)を計上して課税利益を圧縮したのです。海外子会社の株式に関する配当は制度上非課税なので、財務的な組み換えにより多額の利益を上げたことになります。

令和2年税制改正によって国際課税はどう変わる?

2018年に問題視された租税回避は「外国子会社配当益金不算入制度」を利用したものでした。通常、日本企業の海外子会社が現地企業の株から配当を得ると現地当局からの課税を受けます。この配当を日本の親会社が受け取るとき、国内当局で課税を行うと同じ配当に対して二重に課税することになってしまうため、日本側で課税する金額は抑えるよう調整をかけます。これが外国子会社配当金不算入制度です。上記のソフトバンクグループの事例では孫会社が保有する株式の大半を親会社が取得したため子会社の企業価値は大きく下がっており、この損失分と親会社の巨額の利益を決算で計上、相殺させることで法人税の大幅な圧縮が可能でした。こうした制度や会計処理を利用した「節税」そのものは合法の範囲内ですが、影響力の大きいソフトバンクグループに追随して同じ手法を用いる企業が多発する可能性は大いにあったでしょう。

 

直接的にこの件が契機となったとの公表はなされていませんが、国は令和2年度税制改正において「国際的な租税回避・脱税への対応」という項目を盛り込みました。こうした非課税措置・会計処理での損益相殺を組み合わせて意図的に譲渡損失を計上する租税回避への対策を明記したのです。これにより、今後は外国子会社配当金不算入制度の適用対象かつ非課税とされるものについては、子会社の有する株式の「帳簿価額」から引き下げるといった見直しが行われることになります。

 

この帳簿価額というのは、企業価値を算出するために必要となる「会計上の数字」のことです。この帳簿価額(簿価)を利用して企業価値を評価する手法を「簿価純資産法」といい、決算報告など過去の成果の算出に活用されています。つまり株式の譲渡によって意図的に帳簿上で損失を計上する、従来と同じ租税回避スキームを行おうとすれば、結果として自社の企業価値を下げてしまうことも考えられるのです。

今後、国税当局の税務調査期間は拡大傾向へ

令和2年度税制改正大綱では、海外との取引で得た利益に対する課税への「更正決定等」の期間制限を見直す方針を掲げているのも大きな特徴です。「更正」「決定」は国税に関わる法律用語で、それぞれ以下のように使われています。

 

  • 国税通則法第二十四条「更正」
    税務署長は、納税申告書の提出があつた場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかつたとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する。
  • 国税通則法第二十五条「決定」
    税務署長は、納税申告書を提出する義務があると認められる者が当該申告書を提出しなかつた場合には、その調査により、当該申告書に係る課税標準等及び税額等を決定する。ただし、決定により納付すべき税額及び還付金の額に相当する税額が生じないときは、この限りでない。

 

従来のままでも、OECD(経済協力開発機構)が定めたCRS(共通報告基準)制度を利用すれば、国内居住者が海外に所有する金融資産の情報について日本の税務当局が把握することはできました。しかし詳細な入出金情報までの把握は難しく、また現地国税当局・金融機関に対して情報提供要請を行うとなると手続きなどでかなりの時間がかかってしまいます。

 

結果的に疑惑があったとしても、こうした背景から更正の期限に間に合わせることができずに時効を迎えるケースもありました。更正可能な期間を延長することで従来よりも国税当局は調査期間を多く確保し、より詳細・広範囲での調査ができるようになるでしょう。一方で「あえて書面交付そのものを遅らせることで、さらに調査を長期化させることも考えられる」という専門家もおり注目が集まっています。

 

☆ヒント
今回の措置は、海外子会社の株を利用した租税回避への対応を強化する動きです。こうした対策によって、海外投資の分野でも財テクをする以上のあからさまな租税回避への対応は厳しくなっていくでしょう。これまでは法の抜け穴として黙認されてきたテクニックも、今後は「脱税行為」と見なされる可能性が高まることが予想されるため、財テクを検討する際には税のプロフェッショナルである税理士へ相談してリスク回避に努めるのが賢明です。

まとめ

税制はその時々の社会情勢や景気動向などを踏まえて、毎年改正・見直しが行われています。令和2年度税制改正では「国際的な租税回避・脱税への対応」という項目が盛り込まれており、その理由は直接的に公表されていないものの、2018年に問題視されたソフトバンクグループによる「節税」対策という見方が一般的です。

 

海外資産を利用する「節税」「財テク」といった動きに対してはこれまで以上に厳しい対応を取られていくことが予想されています。海外資産を所有していたり海外投資を検討したりしている方は、ぜひ一度国際税務に詳しい税理士へ相談されてみてはいかがでしょうか。

坂下慶太
東京大学卒。米国大学院に進学予定。 東証一部上場企業にて経理業務を担当。 経理業務で体得したスキルや知識を中心に解説していきます。
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