デジタル化を通じて、デジタル競争力の強化と地域経済の活性化を実現する | MONEYIZM
 
カメラマンの要望に応じてマイナンバーPRキャラクター「マイナちゃん」のぬいぐるみを持っていただいた尾﨑正直政務官(左)とビスカス代表取締役社長の八木美代子(右)

デジタル化を通じて、デジタル競争力の強化と地域経済の活性化を実現する

デジタル大臣政務官兼内閣府大臣政務官 尾﨑正直氏
公開日:
2023/06/27
高知県知事を3期務めたのち衆議院議員になった尾﨑正直デジタル大臣政務官。デジタル大臣政務官として日本のデジタル化の司令塔の一人を務める。デジタル化もいろいろあるが、今回は中小企業の目線からお話を伺った。尾﨑政務官は「日本が再び競争力を取り戻すために、国全体、民間を巻き込んでのデジタル化が重要」と強調する。

八木美代子(以下、八木)私たちビスカスは税理士紹介ビジネスを展開していますが、最近の大きな役割は、これまで紙で仕事をしてきた税理士事務所をデジタル化するためのお手伝いをすることです。

実際、電子署名の仕方を教えて差し上げますと、「電子署名できたよ、簡単だね」とすごく喜んでくださるわけです。どんどんデジタル化を進めると、「書類の管理が楽になったよ」というお声をよく聞くようになりました。紙の書類だと探すのに時間がかかる。それがデジタル化によって簡単に資料を探せる。

尾﨑政務官は、高知県知事を3期務められて、国会議員になられました。そして、デジタル庁の指揮官の一人であるデジタル大臣政務官になられました。地方のことも国のことも理解されている方ですから、地に足が着いた政策を実現してくださると期待しています。

今日は、特に企業、中小企業の目線から国がデジタル化を進めるにあたっての考え方をお伺いしたく訪問させていただきました。デジタル庁のトップのお一人として一番強調したいこと、力を入れておられることは何でしょうか。

世界のデジタル競争力でランキングが低位にある日本を浮上させる

尾﨑正直(以下、尾﨑)デジタル化を強力に進めていくことが国の発展にとってはもちろん、企業の発展にとっても、大変重要だと思います。残念ながら、日本のデジタル競争力は世界の中で大変低い。スイスにある「国際経営開発研究所」(略称IMD)が発表している「世界デジタル競争力ランキング2022」を見ると、日本は現在63カ国中29位。ビッグデータなどデータ活用の分野になると、63カ国中63位です。

日本のデジタル化の遅れは、新型コロナウイルスへの対策を通じて浮き彫りになりました。特別定額給付金として国民の皆さまに一律10 万円の給付を行ったとき、お配りするのに数ヵ月かかりました。デジタル化が進んでいる国は、同じような給付金を数週間で配り終えたと承知しています。デジタル化を進めることがいかに重要かを痛感させる出来事でした。

2022年世界デジタル競争ランキング

八木お隣の韓国は2週間あまりでほとんどの世帯に配ったというニュースを聞いて驚きました。

 

尾﨑地方にとってもデジタル化は大事です。日本は今、地域間格差という問題を抱えています。デジタル化が進んでいくに従って、教育、医療など様々な分野でいろんな地域間格差が解消されていくことになると思います。

例えば、教育については、デジタル庁が提供する共通基盤であるガバメントクラウドを通じて自治体間が様々なデータを連携できるようになれば、子ども一人一人に個別最適な教育サービスの提供が可能となり、日本全国どこに住んでいてもその子どもに合った教育を受けることができるようになります。

そうすると、日本中どこに住んでいても便利を実感できる社会を実現できると思いますし、それを目指していきたいです。

 

八木経済の成長でもデジタル化が重要ですよね。

 

尾﨑今の日本の経済成長力は低迷してしまっています。平成の時代の間、アメリカの経済は規模が3倍になったのに対して、日本は2割から3割しか増えなかった。根本の原因は何かと言えば、一言で言うとデジタル化の優劣です。日本が再び競争力を取り戻すために、国全体、民間を巻き込んでのデジタル化が重要と考えています。

デジタルの活用による産業の高度化

八木尾﨑政務官は高知県知事をされてるとき、デジタル化についてはどんな問題意識をお持ちだったのですか。

 

尾﨑行政のデジタル化によって行政の効率化を図るとともに、「地場産業×デジタル」によって、産業競争力強化を目指しました。具体的には、園芸農業です。園芸農業、特に施設園芸の領域は非常にデータドリブン(収集したデータを元に意思決定を行うこと)に適した産業です。温度、日射量、二酸化炭素の濃度によって生産量が変わる。データをしっかり分析し、見ていけば、生産量を増やしていける分野です。

AIを使って、篤農家(※)の皆様方の優れたデータを基にして、いわば一種の理想のサイバーモデルを作って、これをもとに各ハウスにアドバイスの情報を送っていこうと準備を始めました。

私が知事のときは、「Next次世代型こうち新施設園芸システム」の開発事業として高知が誇る施設園芸をAIなども活用してさらに高度化しようと研究しました。それが、今、「高知IoPプロジェクト」として花開いています。IoPは、「植物のインターネット」という意味ですが、施設園芸のデジタル化を進めていくことで、生産性を上げることが可能になってきています。

※篤農家:栽培研究に熱心に取り組み、裏付けられた実績を持つ、その地域や作物分野を代表する農家のこと。

高知県のデジタル園芸モデル

八木園芸農業はデジタルから一番遠いイメージがありました。

 

尾﨑農業の分野では、ある農薬を使ったらこのように花が育った、この時期にはこのような害虫が発生したといった膨大な画像データをストックしています。このデータを活用すれば、新たな品種改良を進めることもできるのです。

アナログ規制改革推進法案を提出、1万件の規制を見直し、デジタル化を推進

八木尾﨑政務官は地方のトップとしてリーダーをおやりになって、今は国の方で指揮官の一人として頑張っておられて、地方でできること、国がやるべきことがわかっておられます。例えば、行政文書のハンコの廃止などは国が音頭をとってやらなきゃできないことですよね。

 

尾﨑ハンコがなくてもいいじゃないかということで最大限廃止しましたが、もう一段、いろいろな手続きがデジタルで完結できるようにしていくための取り組みが大事です。

こうした取り組みも含め、デジタル技術の活用を阻むアナログ規制の見直しを推進するため、”アナログ規制改革推進法案”を国会に提出しています。正式には「デジタル社会の形成を図るための規制改革を推進するためのデジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律案」といいます。

 

八木アナログ規制の改革では、具体的にどういう規制を見直すのですか。

 

尾﨑例えば川やダム、公園の点検は、人が現場に行って基本目視で点検しています。国家資格取得のための講習などをオンラインではなく対面で行うことを求める規制もあります。人が事務所や現場に常駐しなければならない規制もあります。

こういったアナログ規制を洗い出した結果、全部で1万件ほど確認されました。これらの規制を見直し、IoTやドローン、ロボット、AIなどのデジタル技術で代替できるようにするものです。

 

八木「デジタルでできることはデジタルで」というアナログ規制の見直しが進むと、企業や社会にはどんなインパクトがあるとお考えですか。

1万件近いアナログ規制を見直す

アナログ規制の見直しとともに、中小企業が活躍できる新市場が生まれる

尾﨑期待されるのは、人手不足の解消です。例えば、現在、河川・ダムの点検は、人間が現場に行って目視し、不具合を調べています。アナログ規制がなくなれば、代わりにドローンで河川・ダムの状態を調べることもできるはずです。業務が合理化・精緻化されることで、人手不足の解消・生産性や安全性の向上に寄与するものと考えます。

もう一つ期待されるのは、デジタル技術の販路の拡大や新たなデジタル市場の誕生です。アナログ規制の見直しに合わせて、デジタル技術の効果的な活用が可能となるよう、例えば、目視点検の代わりになりうるカメラやドローン、対面講習の代わりになりうるwebシステムにはどのようなものがあるかといった、アナログ規制の類型とその見直しに活用可能な技術の対応関係を整理したテクノロジーマップというものを整備することにしています。

これにより、デジタル技術を一覧して選択することが可能となるため、規模の小さな企業であっても自社の優れた技術を全国的に活用してもらうチャンスになります。一部の自治体向けだったソフトウエアを全国展開することも可能になるのです。このように、デジタル化が様々な企業にとっての新たなビジネスチャンスとなることが期待されます。

 

八木デジタル分野という新しい市場が生まれるインパクトは確かに大きいですね。地方企業がその地方だけでビジネスするのではなく、県外の市場を開拓できれば地方経済の活性化にもつながります。

 

「1万件の規制を見直し、デジタル化を推進する」と尾﨑政務官
「1万件のアナログ規制を見直し、デジタル化を推進する」と尾﨑政務官

尾﨑私は知事のころ「地産外商」を推進しました。「地産地消」という言葉がありますね。地元の農産物などを地元で消費することですが、人口減少が進んでいる中、全てのビジネスが「地産地消」だと、県内のみでの消費には限界があります。外へ販路を切り拓いていくことが大事だと訴えました。

それを「地産外商」と名付けて、様々な施策によって地元の企業の応援をしました。デジタル化は、この強力なツールとなり得ます。ローコストで世界中にリーチできますからね。

 

デジタル化でもう一つ大事なことは、自治体や準公共分野でのデジタル化を進めることです。そのためにも、ぜひ実現したいのが、自治体のシステムの標準化と、様々なデータを連携させることです。

データ連携により行政手続を効率化 一人一人に最適なサービスの提供も可能に

八木自治体のシステムはバラバラですか。

 

尾﨑1741の自治体のシステムは、各々が最適な形で構築されていますが、システムやデータの仕様が異なるため、連携させることが容易ではありません。自治体のシステムをすべて標準化して、連携させていく。具体的には、標準化しガバメントクラウドの上に乗せていくことで、システム間の連携が効果的に行われるようになってきます。

 

八木ガバメントクラウドは、中央省庁、地方自治体などが利用できる政府共通のクラウド基盤のことですね。

 

尾﨑そうです。同じ基盤を利用し、標準化された仕様に基づいてデータを連携させることで、国も地方もお互いデジタルで完結したやり取りができるようになります。そうなると、行政手続きも現在よりはるかに簡便になって効率化されていくでしょう。

 

八木準公共分野に言及されましたが。

 

尾﨑国と自治体のデータ連携の先にあるのが、準公共分野です。健康・医療・介護、教育、こども、防災、モビリティ、農業・水産業・食関連産業、港湾、インフラと幅広いです。

準公共分野でのデジタル化、データ連携が進むと、個々の事案に応じた最適なサービスを提供できるようになります。こども分野の福祉を例にとると、これは実際に起きたことですが、ある県でお子さんが虐待を受けている可能性を児童相談所が把握していた。ところが、そのお子さんを含めた家族が別の自治体に移り住んで虐待死が起きてしまいました。行政機関同士のシステムが完全に繋がっていれば、そのお子さんの状態を移転先の児童相談所が即座に把握して追跡できる。最悪の事態も防ぐことができたのではないだろうかと思います。

 

八木ほかの分野はいかがですか。

 

尾﨑防災についても国と自治体との繋がり方が不十分です。多くの省庁が様々なセンサーを設置していますが、それらのセンサーで収集したデータを一元的に集約して、一つのプラットフォームでデータを分析して活用できれば、防災対策に大いに効果を発揮できます。

台風や豪雨などの状況を国も自治体も同時にかつ瞬時に把握できれば、素早い対策を打つことができます。さらに言えば一元的なプラットフォームの上に、これらのデータを活用した様々な民間のアプリが構築されれば、国民お一人お一人にとって最適な情報・サービスを受けることができます

生成AIは、国際的な議論も行いつつ、日本の競争力強化に繋げていきたい

「チャットGPTを使って可能性を検証するテストを行っています」と八木社長
「チャットGPTを使って可能性を検証するテストを行っています」と八木社長

 

八木生成AIについてお伺いします。私どもビスカスでは、チャットGPTを使って、可能性を検証するためのテストを行っています。例えば、どの程度正確にアップデートされた文書が出来上がってくるかなど、過去の文書を「2023年度の税法に合わせて書き換えてください」と生成AIに指示し、その内容が正確かどうかを検証しています。

生成AIについては5月のG7広島サミットで、閣僚会議を作って、国際的なルールを決めていきましょうということで各国が合意しました。生成AIについてどのようにお考えですか。

 

尾﨑生成AIのような新しい技術を日本の競争力強化に繋げていきたいと思っています。デジタル庁の役割としては、生成AIを発展させていくために必要なデータの整備・提供に必要な取組を確実に進めていくことが求められていると考えます。

生成AIを使うことで、これまで人間が活用できる情報量の限界を超えて、その対象・範囲が劇的に広がると思います。膨大な情報を生かして、様々な新しい商品やサービスの開発ができるのではないかと期待しています。

ただ、生成AIには、誤った情報を拡散させてしまったり、著作権や人権を侵害してしまうリスクがあります。発展途上の技術だからこそ、しっかりと国際的に議論をしていくことが重要です。

 

八木最後に、先日来、マイナンバーカードに関連した様々な事案が報道されています。

 

尾﨑今般のマイナンバーカード関連サービスの事案について、皆さまに多大なご心配をおかけしており、誠に申し訳ございません。

マイナンバーカードに関する複数の事案に、政府一丸となって対応していく必要があるため、先日、岸田総理から河野大臣に対して、関係大臣と連携して、マイナンバーカードの信頼確保に向け、事案に関係する全てのデータやシステムを再点検するなど、万全の対策を迅速かつ徹底して講じるよう、指示をいただいたところです。

このため、デジタル庁を中心に、関係府省が一丸となって、国民の皆様の不安解消と再発防止に向けて、しっかりと取り組んでまいりたいと思います。

デジタル大臣政務官兼内閣府大臣政務官 尾﨑正直氏
1991年3月東京大学経済学部を卒業後、大蔵省(現:財務省)に入省。外務省在インドネシア大使館一等書記官、主計局主査、内閣官房副長官秘書官などを経て、2007年10月に財務省退職。2007年12月、高知県知事に就任。2019年12月まで3期務める。その間、全国知事会副会長、社会保障常任委員会委員長などを歴任。2021年10月の衆議院議員総選挙で当選。2022年8月から、第2次岸田改造内閣のデジタル大臣政務官兼内閣府大臣政務官を務める。
取材・文責:酒井綱一郎、撮影:世良武史
※肩書き等は掲載日時点でのものになります。
トップとの対談を通して”時代を勝ち抜くヒント”をお伝えする連載「ビジネスリーダーに会いに行く!」。第7回は、デジタル大臣政務官の尾﨑正直デジタル大臣政務官のお話を伺いました。国は今、マイナンバーカード関連サービスの誤登録等の事案への対応に全力を挙げていますが、尾﨑政務官に一番聞きたかったのは、国がどれぐらいの覚悟を持ってデジタル化を進めるかということでした。高知県知事を3期務められた経験を基に、経済が縮小する地方や中小企業の苦しみを肌身で理解され、デジタル競争力の強化と地域経済の活性化のためにもデジタル化の一層の推進が重要だと強調されていました。