戦後起業した人たちの高齢化に伴い、その会社を子どもや従業員などに引き継ぐ事業承継問題がクローズアップされています。事業承継というとよく語られるのが、「後継者をどう選ぶのか」「自社株などの移転をどのように進めるか」といった「技術的な」問題ですが、税理士法人阿部会計の阿部大亮先生は、「一番大事なのは、承継する会社の経営状態です」と言います。「事業承継こそ、会社が生まれ変わるチャンス」とも指摘する先生に、中小、零細企業の経営で大切にすべきもの、事業承継のとらえ方について、事例も交えてお話をうかがいました。
先生の事務所のお客さまは、どんな業種の方が多いのですか?
建設業のウエートが比較的高いのですが、あとは製造業、小売業、飲食業、最近は不動産業の方も増えています。業種で特化してはいませんので、幅広い業種のクライアントがいらっしゃいます。
そうしたお客さまにとって、事業承継というのが避けて通れない課題になっていると思います。今日は、豊富な経験をお持ちの先生に、お話をうかがっていきたいのですが、事業を引き継ぐには、当然「引き継ぐ人」が必要です。まず、そこで悩んでしまう社長が多いと聞きます。
最初にお断わりしておくと、うちの事務所があるのは埼玉の所沢市という「地方都市」で、お客さまには中小零細企業の方がたくさんいらっしゃいます。そうした実情を前提にお話しすると、今おっしゃったのはいわば二次的なもので、その前にもっと根本的な問題がある、と私は感じているんですよ。
今の会社が、「承継するに値する事業」を行っているかどうかです。単純な話で、その状態にあれば、後継者を見つけるのに、そんなに苦労はしないのです。私の経験上も、例えば社長に息子がいなかったとしても、他でぜんぜん別の仕事をしていた娘さんが跡を継ぐとか、従業員の中から新社長が誕生するとか、誰かしら手を挙げる人が出てきます。引き継ぐことが自分のプラスになるのだから、これは自然のなりゆきではないでしょうか。
ところが、もう稼げる状態にないような場合は、やはり承継のハードルは高くならざるをえません。廃業に追い込まれる会社は、後継者が見つからずにやむをえず……というよりは、すでに事業として成り立っていないケースがほとんど、と言っていいと思います。
なるほど。あえてうかがいますが、先生の目から見て、「承継するに値しない事業」になってしまう原因は、経済環境や需給環境の変化といった外的要因か、それとも経営者自身に足りないところがあったのか、どちらが多いと感じられますか?
ちょっと厳しい言い方かもしれませんが、9割以上は後者だと思います。致命的なのは、「数字が読めない」「読もうとしない」ことですね。
「数字が読めない」と、どういうことが起こるのでしょう?
先ほども言ったように、お客さまには零細企業が多いのですが、そういう規模の会社がうまくいかなくなるのは、結局売上が立たなくなるからなんですね。「経費が高い」とか「借入金が大変だ」とか言われますけれど、よく見ると、そもそもの売上が上がらなくなって、窮地に陥っている会社が大半なんですよ。
では、なぜ売上が上がらないのでしょうか? 多くの場合、それは売上アップのための投資をしていないからです。ただし、それをやるためには、数字的な裏付け、すなわち「ここにこういうお金を注ぎ込めば、これだけ売上が伸びるはずだ」というシミュレーションが必要になります。
やみくもに投資を実行すれば、さらに会社の寿命を縮めることになりかねません。
ところが、シミュレーションの前提となるべき数字を集めたり読んだりする能力がないために、いつまでたっても効果的な手を打つことができないんですね。そうこうするうちに、そういう力のある同業者がリスクを取って投資を行い、その結果、シェアをどんどん彼らに奪われてしまう。こういうパターンが、とても多いんですよ。
もちろん、市場規模自体が縮小している業種、業務というのもあるでしょう。でも、ちゃんと数字がわかる経営者であれば、そうした負の環境をいち早く察知して、業態転換を図るだとか、何がしかの対策を講じられるはずです。
これも少し厳しい言い方になってしまうのですが、数字がわからない状態で経営をするというのは、例えれば、満足にキャッチボールができないのに野球の試合に出場するようなものだと、私は思います。せっかく、目の前におあつらえ向きのゴロが転がって来たのに、エラーばかり。そういう状況で苦しんでいる社長さんが、少なくないのです。
もう少し、経営そのものの話を続けます。おっしゃることはわかるのですが、「数字」にもいろいろあると思います。具体的に、どんなところをチェックすればいいのでしょう?
それも会社の状態などによってケースバイケースだと思いますが、少なくとも上場企業の決算書に事細かに記載されるようなレベルでないことは、確かです。事例で説明してみましょう。
食品の移動販売の会社がありました。いろんなイベント会場に出かけて、そこで弁当などを売るんですね。社長である30歳代半ばのご主人と、奥さん、あとはバイトが数人という会社でした。
ただ、この会社は、さきほどお話しした一般的なパターンと違い、売上自体はそれなりに計上して、伸びてもいたんですよ。ところが、決算を締めてみると赤字続き。どんどん現場に行って、たくさん売って売上は立つのだけれど、そのたびにお金が出て行く。社長は、個人で消費者金融からお金を借りて、それも事業に注ぎ込んでいるような状況だったのです。
まず、売上に匹敵するくらい、仕入の原価がかかっていました。「いや、こんなに原価がかさんでいるわけがない」とおっしゃるのですが、試算表を見ると、そうなっているのです。ただ、いくらそういう話をしても、それだけでは納得してはいただけないので、「では、現場ごとの売上と原価を出していきましょう」ということにして、毎月、報告してもらうようにしました。
実は、その現場ごとの表をきっちり作成できるようになるまでに、半年ほどかかったのですが、作ってみるとご本人にもいろんなことがわかるようになりました。例えば、業績を圧迫していたのは、原価だけでなく、出店費用だった。それも現場によってデコボコがあり、高い費用を払ったのに悪天候でほとんど売れなかった、といった実態が、リアルに把握できるようになったのです。
それまでは、とにかく商品が売れそうなところに出かけては、売りまくっていた。お客さんが来なくて売れ残っても、「今日は損しちゃったなあ」で終わり。
そういうことです。でも、現場ごとの「成績表」を見るようになって、「こういうところには、出店したら駄目なんだ」「ここなら、もっとたくさん商品を持っていっていい」といったことが考えられるようになったんですよ。もちろん、原価にも目が向くようになりました。面白いことに、私は「毎月表を見せてください」と申し上げただけで、指導らしいことはほとんど何もしていないのです。
にもかかわらず、経営者の意識が変わったわけですね。数字を読むことの大事さがよくわかります。ところで、肝心の業績のほうは?
まだ負債を返している状況ではありますが、確実に利益の上がる企業体質に変わりました。もう1つだけ、事例をお話ししておきましょう。
ホステスさんをたくさん抱える飲食店を経営する、やはり30代の方のケースです。根が真面目な方だったのですが、できれば多くの女性に接待させるような業態の店は長く続けたくないと言って、将来はそちらを本業にしようという目論見で託児所の経営を始めたんですね。
託児所ですか!? まったくの異業種ですね。事業の多角化を考える時に、注意しなければいけないパターンの1つと言われますが……。
ご指摘の通りで、すぐに赤字の垂れ流し状態になってしまいました。実はもう1つ、飲食店従業員向けのアクセサリー販売も始めていて、こちらも赤字です。どうやら、店のお客さんに勧められるままやったようなのですが、いずれにせよ儲けの裏付けがあって参入した事業ではありません。
とにかく業態を転換したいという一心で、やはり数字を見ることなく始めてしまったわけですね。
とはいえ、本人としては、それなりの初期投資を注ぎ込んだこともあって、おいそれとやめるわけにもいかない。頑張っていればいつかは黒字化できるはずだ、と思い込んでもいるわけです。しかし、実際には、みるみる借金が膨らんで、住宅ローンの返済もままならないような状況に陥っていました。
もともとの飲食店の経営状態は、どうだったのですか?
業界環境は厳しいですから、順風満帆というわけにはいきませんでしたけど、特に問題のない業績は確保できていたんですよ。ところが、社長が新事業にかかりきりになって店はほっぽらかし、という状態になると、どうしても現場は荒みます。売上がダウンしただけでなく、どうやら従業員が現金をポケットに入れている、といった有様になってしまったんですよ。社長は「そんなはずはない」と言い張りましたけど、それこそ出てくる数字を見たら、そこで起きていることは明白でした。私がそのお客さまを担当した時には、ざっとそんな状況だったんですね。
本業にも影響を及ぼすというのは、かなり深刻です。どんな手を打ったのでしょう?
2つの「副業」に黒字化の可能性がないことは明らかでしたから、それを社長が理解できるような手段を講じていきました。まずやったのは、事業ごとの損益の明確化です。そうやって、あらためて実態を直視してもらったのです。
その上で、では2つの事業を黒字化するためには、あと何人の子どもを受け入れる必要があるのか、月に何本のネックレスを販売しなければならないのか、という損益分岐点を明示しました。「これだけ園児を増やさないと、ずっと赤字が続きます」と。そこで初めて、明らかに売上が足りない、事業として成り立たないことに気づくわけです。
裏を返せば、起業前に当然やっておくべきそうしたシミュレーションが、できていなかったのですね。
このお客さまの場合は、「転業したい」という思いがあったわけですが、そういうふうに何かやりたいこと、強い願望があったりすると、数字が見えなくなるというか、あえて「見ない」ようなことも起こりやすくなるんですね。
ものすごく高い授業料を支払うことになってしまいましたが、この方は、結局元の飲食店経営に戻り、現金管理などの見直しも行って、再スタートを切っていただきました。
2つの事例とも、社長は30代ということでした。若くして負債を背負うのは厳しいですけれど、若いからこそやり直しもきくのだと感じます。
では、本題である事業承継について話を進めたいと思います。最初に、「承継に値する事業をしていれば、後継者は自ずと現れるはず」という指摘がありました。
少なくとも、私の経験上はそうです。同時に、「事業はちゃんとしていたのに、息子に継がせた途端におかしくなった」という事例に出くわした経験も、私にはほとんどないんですよ。
よく、「2代目社長が、会社を駄目にした」というストーリーがありますけれど。
それは“ナントカ伝説”の類ではないでしょうか(笑)。よっぽど甘やかされて育ったボンボンならいざ知らず、普通の中小企業の息子さんとかには、へたをするとお父さんよりも優秀なのではないか、と感じられる人が多いですよ。事業承継を機に、むしろ業績が上がる会社は、珍しくありません。
親の背中を見て育っているから、その苦労も知っているし。
考えてみれば、2代目になって会社が良くなるのには、ちゃんとした理由があります。お父さんには、どうしても創業来拠り所にしてきたいろんな「常識」が染みついていますよね。過去の成功体験なんかもあるでしょう。往々にして、それらが今の時代に合わなくなっていて、事業拡大の足かせになることがあるわけです。その点、そうしたこだわりのない息子さんは、素直に時代に相応しい経営を実行できるのですから。
事業承継というと、とかく「若い息子にバトンタッチして大丈夫だろうか」と心配したり、「自社株対策をはじめ、準備が大変だ」と悩んだりと、ネガティブに捉えられるきらいもあるのではないでしょうか。でも、今説明したように、会社をリニューアルすることができる大きなチャンスでもあるんですよ。ぜひ、そういう前向きな視点を持って取り組んで欲しいと思います。
ただ実際には、後継者候補がいるにもかかわらず、いろんな思いが交錯してなかなかトップの地位を譲れないというか、そこにしがみつく人も多いように感じます。
それは、今の話の裏返しで、もしかすると会社を衰退させていくリスクを孕む行為かもしれません。まあ、通常は60歳くらいになると、事業承継についてかなり具体的に考えていただけますね。50代でリタイアするような方も、けっこういらっしゃいますよ。
ついこの間も、自分が10代の頃に造園業を始めて、50歳代半ばで息子さんに跡を継がせた方がいました。もう十分仕事をしたと、退職金をたくさんもらい、今は釣りに行ったりして悠々自適です。息子さんはまだ二十歳そこそこで、年齢の高い職人さんたちを束ねなければなりませんから大変ですが、そのへんも含めて、継がせて大丈夫だという決断があったのだと思います。
それができたのは、先生がおっしゃるように「承継するに値する事業」だったからなのでしょうね。
そのほか、印象に残る事業承継の事例があれば、紹介していただけませんか。
工業用資材や消耗品の卸売りをしていた会社の、まだ70歳前の社長が、急に亡くなってしまったことがありました。やはり業績はよかったのですが、社長は典型的なワンマンで、困ったことに後継者が育っていなかったんですよ。
娘さんは、その会社で働いていたのですが、事務系の仕事をしていて、生前社長は「娘には継がせない」とおっしゃっていました。息子さんもいたのですが、家業とは別の会社に就職し、しかもすでに引退の身。さりとて、社内にナンバー2と言える存在も見当たりません。
それは、事業が継続できるかどうかの大ピンチですね。
その状況で腹をくくったのは、娘さんとお母さんでした。業界の環境を考えても「看板」は男がふさわしいと、息子さんを形式的に社長に据えて、娘さんが専務、お母さんは常務になって、実質的な舵取りをしていこうと決めたんですよ。
いざとなると、女性は強い(笑)。でも、娘さんは、マネジメントの経験はゼロですよね。会社はうまく回ったのでしょうか?
結果的に、この承継も成功でした。もともと、ある程度経営者としての能力があったのでしょうね。もし、会社がなくなったら路頭に迷ってしまう従業員の協力を得られたのも、大きかったと思います。
「みんなで新しい経営者を支えていこう」と、アクシデントを機に、社員がまとまったわけですね。
実は、会社の「リニューアル」も進んだんですよ。亡くなった先代は、パワフルに仕事を取ってきて、厳しい環境の中でも会社を成長させてきたのですが、そういう方にありがちなアバウトなところも、多分に併せ持っていたんですね。例えば、細かな話ではありますけれど、ケースによっては、銀行の振込手数料や商品などの送料を自社で持ったりしていたわけです。そうはいっても、そんなに利幅の大きな商売ではありませんから、顧客によっては持ち出しになっているようなところもありました。
それでも、扱い量が多くなれば、メーカーには喜んでもらえます。それも戦略と言えば言えるのかもしれませんけど、時間と労力を費やして赤字かトントンというのでは、やはり経営の観点からは問題です。そこで、1つひとつの取引をあらためて精査しました。そして、十分な粗利が取れないような場合には、手数料などの負担をお願いし、それが無理ならば取引を見直すなどのリストラを実行したんですよ。
古くからのお付き合いがある場合などには、そういう機会でもないと、条件の変更とか、まして取引自体をやめるといったことは、なかなか難しいですよね。
経営者が変われば、そういう思い切った経営の刷新もやりやすいわけです。
事業承継の際の、「モノの移動」のお話もうかがっておきたいと思います。やはり、みなさん気にされるのが、自社株対策ですよね。
確かに、後継者に自社株をきちんと渡していくことは、事業承継の大事なポイントになります。まあ、当事務所のお客さまは、零細企業のオーナーが多いですから、そんなに高い株価がついたりはしないんですね。ですから、例えば毎年贈与税を100万円ぐらい負担しながら、1000万円分ほど移していけば事足れり、といったケースが多いのです。それでも難しい場合には、従業員持株会(※1)をつくって、そちらに持ってもらうといった方策を講じることもありますが。
特に注意する点があるとすれば、「株式の分散」です。経営者は、定款や組織の変更などの重要事項を株主総会で決議できる3分の2以上の株を保有しているのが理想で、仮に持分が50%を下回ったりすれば、他の株主によって解任させられるリスクさえ生じるわけです。
その状態では、会社の安定的な経営は難しいでしょう。
ところが、理由はよくわからないのですが、社長が自分の兄弟たちなどに自社株を持たせていることが、けっこうあるんですよ。そういう場合には、合意書を作成して、後継者が必要な比率の株を持てるように、名義の書き換えを進めなくてはなりません。こうしたケースで、中でも気をつけたいのが、「名義株式」です。
名義株というのは、ごく簡単に言えば、社長が妻なら妻の同意を得たうえで、自分の保有する自社株を妻名義に書き換えたもののことを言います。表面上は名義が変更されましたけれど、妻は株式取得の対価を支払ってはいません。
多くの場合、「相続対策」です。社長の持つ自社株が高額だった場合、そのまま亡くなると、そこに多額の相続税がかかってきます。ですから、生前に分散させてしまおうというわけですね。しかし、「取得」した人間が実際に出資をしていないのですから、この行為は、単に亡くなった社長に名義を貸しただけ。税務署はそう判断して、申告後にそれが発覚したら、追徴課税(※2)のペナルティーが避けられません。実は、この名義株をめぐっては、3、4年にわたって裁判で争ったことがあるんですよ。
リタイアした社長が、自社株を、後継者にと考えていた息子だけではなく、自分の兄の息子夫婦にも「持たせて」いたんですね。その2人も、前社長の会社で働く身内でした。ただし、彼らが「持つ」のは、今説明した名義株だったのです。
前社長は良かれと思ってやったのかもしれませんが、その後夫婦は、自分たちの「保有株」を盾に会社を乗っ取って、社長の息子を追い出してしまったんですよ。それで、会社の経営権をめぐる裁判になったわけです。
裁判までして「取り合う」のだから、その会社も業績は好調だったのですね。
そうです。会社を乗っ取った夫婦も経営者としては問題なく、会社はしっかり利益を上げていました。しかし、裁判を通じて、実際には2人が会社に対してなんら出資をしていないことが明らかになり、その経営権を無効とする判決が下りました。会社は、2人を解任。時間はかかりましたが、当初の予定通りに、息子さんが社長として復帰することができたのです。
おかしな言い方ですが、この場合は名義株だったから助かりました。
※1従業員持株会
従業員が、自分の勤めている会社の株式を定期的に購入し、資産形成を支援する制度。中小企業経営者にとっては、自らの持株をそこに渡すことによって、相続税の算定のベースとなる相続財産を減らすことができる。
※2追徴課税
申告漏れや脱税の目的で、本来支払うべき税金よりも納税した金額が少なかった場合に、追加で税金を支払うこと。加算税(過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税)と延滞税がある。
当事務所は、事業承継の案件をそこだけ切り取って扱うというのではなく、お客さまを総合的にフォローする中で、それが必要な局面になったら上手に着地できるようにお手伝いする、というスタンスで仕事をしています。ですから、比較的早い時期からいろんな提案もさせていただくのですが、それでも100発100中というわけにはいきません。ごく稀にではありますが、親子の話し合いが決裂して、息子が「同業他社」を立ち上げ、父親のコンペティターになる、などということが起こったりもするのです。
創業者には、自分が守ってきたやり方がある、それで会社を成長させたという実績に対する自負もあるわけですね。一方で息子には、そのまま踏襲していたら、やがて尻すぼみになるのが見えている。そんな考え方の違いが、感情的なもつれ、やがては衝突に発展してしまうというパターンです。
私事で恐縮ですが、私自身も父親が設立した事務所を継ぐ、事業承継の途上にあります。他の職も経て10年ほど前に入所して以降、父とは違う業務のやり方なども導入しました。そんな私に対して、父がどのような感情を抱いているのかはわかりませんが、恐らく複雑な思いがあってもそれを胸にしまって、ある程度まで私に任せてくれているのではないでしょうか。自分と子どもとは、そもそも考え方が違うのだということを前提に、その行動を見守っていくという親の姿勢も、事業承継を成功させるカギではないかと感じています。
事業を継がせる以上、引き継ぐ人間を信頼して任せる度量も必要なのでしょう。