法人税の支払いが嫌だったら、利益を抑えればよい。そのために用いられるのが、いろいろな経費を計上するという手段です。ただし、ただ目の前の利益を抑えるために出費をしていたら、肝心の会社の蓄えを積み上げることは難しい。そればかりでなく、長期戦略を持たない「買い物」は、後々会社の“お荷物”になる危険性もあるようです。今回も、竹澤広晃先生(竹澤税理士事務所)にお話しいただきました。
とにかく法人税を安く。その結果、“ツケ”を背負い込む
ことも~「節税」が会社をダメにする!?・その2~
2019/4/11
法人保険で、いったん「節税」にはなったけど
前回もちょっと触れましたけど、手っ取り早く法人税を節約したい会社がよく使うものに、全損タイプの法人保険があります。
保険料をすべて損金に算入できるわけですから、節税効果は抜群です。
そういううたい文句で、保険会社のセールスマンから勧められることも多いんですね。期末にやってきて、「一気に利益を消せますよ」と。でも、「出口戦略」なしにすぐに飛びつくのは、やめたほうが賢明です。
その理由は?
他の先生から移ってこられたお客さんに、こんな社長がいました。それなりに儲けていたにも関わらず、内部留保はほぼゼロ、資金繰りは火の車なのです。どうしてそんなことになるのか調べてみると、ただ利益を消して法人税を払わなくてもいいようにするためだけに、今お話しした保険に複数、加入していたのです。
法人税の納税は免れてきたけれど、会社にはお金が残っていないわけですね。
そうです。その状態で資金繰りがピンチですから、とりあえず保険を解約せざるをえません。でも、途中解約ですから、返戻率は低いわけですね。まず、そこでものすごく損をすることになります。
加えて問題なのは、実は税金です。返戻率が低いとはいえ、そこでまとまったお金が会社に入るため、その利益に法人税が課税されてしまうんですよ。
加えて問題なのは、実は税金です。返戻率が低いとはいえ、そこでまとまったお金が会社に入るため、その利益に法人税が課税されてしまうんですよ。
先生が「出口戦略」とおっしゃったのは、そこですね。
節税目的で相応の保険料を負担したのに、受け取る金額は減らされたあげく課税され、それがまた資金繰りを圧迫したりするのでは、何のための保険かわかりません。
この全損タイプの保険に入っている社長は、他にもけっこういて、今の出口の話をすると、「えっ! そんな話は、セールスマンからも、前の顧問税理士からも聞いていません」という方もいました。
この全損タイプの保険に入っている社長は、他にもけっこういて、今の出口の話をすると、「えっ! そんな話は、セールスマンからも、前の顧問税理士からも聞いていません」という方もいました。
税理士の先生からアドバイスが何もないというのも、問題ですね。
あえて黙っていたのか、先生自身がそうした問題に気づいていなかったのか、理由はわからないのですが。
節税は、総合的かつ長いスパンで考える
今お話ししたような安易な法人保険への加入は典型ですけど、税金のことだけ考えても、ひたすら目の前の法人税を“消す”ような行為が、中長期的にみて得だとは限らないんですね。
無理をしたあげく、会社にもお金が残らないのでは最悪です。では、先生の考える「あるべき節税」とは、どんなものなのでしょう?
私が心掛けているのは、法人税、所得税、贈与税、相続税までカバーした、トータルで長いスパンを見据えたアドバイスを行うことです。前回お話しした、法人税と所得税のバランスもその1つ。
「長いスパン」というのを、少し具体的に説明いただけますか?
例えば、中小企業で大きな課題になる「事業承継をどうするのか」という視点を持って考える、ということです。「おかしな節税に走ることなく、利益を出して内部留保を積み上げていきましょう」というのが会社経営の基本なのですが、そうやっていくと、事業承継という点からは、困った状況も生まれるんですね。自社株が値上がりするのです。
株が高くなるほど、それを次の経営者に渡すコストも上昇していくということですね。
ですから、「今のうちから、少しずつ息子さんに贈与していきましょうか? それとも事業承継税制(※)を使って渡しますか?」といった検討を、先々のシミュレーションを基にして行っていく必要があるわけです。
事業を拡大し会社を成長させて、それをスムーズに後継者に引き継いでもらう。節税というのも、あくまでもその手段と考えるべきですね。
※事業承継税制
要件を満たせば、贈与税、相続税ゼロで、会社の後継者に自社株を渡すことができる制度。
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竹澤広晃(税理士)プロフィール
竹澤税理士事務所 所長
税理士法人やコンサルティング会社にて中小・ベンチャー企業から1部上場企業まで幅広く会計・税務レビュー、節税相談、MAS業務などに従事し、2010年5月に独立開業。お客様とのコミュニケーションを第一に、会社の参謀役として親身に経営のお手伝いをしている。
URL:http://www.takezawa-tax.com/
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