長年、あまり交流のなかった兄弟たちが、親の相続になって一堂に会して遺産分割を話し合う。ところが、それぞれの思いが交錯し、気がつけば骨肉の争いに。それが相続の怖さです。「相続税対策だけでなく、そんな事態を防ぐために力を尽くすのも、われわれ相続に関わる税理士の役目です」と税理士法人みらい経営の神緒美樹先生は話します。その「極意」をうかがいました。
ベテラン税理士が語る「相続は“人生相談”」
2016/12/2
◆子ども時代の話が蒸し返される
先生は、今まで何件ぐらいの相続を担当なさったのですか?
20年やっていますから、年間40件、のべにすると800件ほどになりますね。でも、裁判沙汰になるほどの争いになったのは、2、3件しか記憶にありません。
それはすごいですね! 私がいろんな先生からお聞きする範囲では、けっこうな確率で遺産分割協議が泥沼化しているのですが。
もちろん、私のところに来るお客様も、最初は騒動のタネを抱えているケースが少なくありません。親が亡くなり、相続になって、揉め事のホイッスルが鳴るわけですね。言い争っているうちに話がどこまで行くかというと、子どものころまで遡ったりするのです。「小学生の時に、私のパンを横取りしたじゃないか」と。笑い話ではなく、実話ですよ。
その手のお話は、よく耳にします。そのくらい感情的になってしまうんですね。
ええ。相当険悪な雰囲気になったりもします。でも、そこからが腕の見せどころなんですよ。まあ、これだけ案件をこなしてきてつくづく思うのは、相続は“人生相談”そのものだということです。いろんな手立てを講じて税金を安くしたりするのは、税理士である以上当たり前のことで、ある意味真価が問われるのは、そこから先。きちんと相談に乗ってあげて、争いの火種を消すのが本当の仕事だ、と私は思っているんですよ。
背中をさすり、時には叩く
先生の場合は、それがほとんど成功しているわけですね。どのように対処しているのでしょう?
基本的に、相続人には言いたいだけ言わせたうえで、どこかでストップをかける。もう一度ホイッスルを吹いて、試合を止めるのです。「それ以上言ったら、もう状況は元に戻せなくなりますよ」「10年、裁判を続けるおつもりですか?」とはっきり言うんですよ。 分割協議のために事務所に呼んだ兄弟が、口喧嘩を始めたことがありました。この時も、ある程度主張させたところで、「今日はここでやめ!」と打ち切ったんですね。そうしたら、帰り支度をしながら、「まあ久しぶりに会ったのだから、飯でも食うか」と言うわけです。まずいと思った私は、「今日食事をするのは、やめてください。話が蒸し返されて、収拾がつかなくなりますから」とクギを刺したんですよ。すると、税理士にそこまで言われたからでしょうか、二人とも「いや、食事をするだけで、相続の話は一切しないから」と。それを機に、話し合いは前向きに進みました。 「あなたの言うことはよくわかる」と背中をさすることもあれば、「亡くなった親の気持ちを考えたことがあるんですか」とはっきり申し上げることもする。実際、椅子から立ち上がりかけた背中を、手で押さえたこともあります(笑)。先生によっていろんなやり方があると思いますが、伝えるべきことは伝えるというのが、私のスタンスなんですよ。
「相続は“人生相談”」とおっしゃるのが、よくわかります。
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