事業資金が必要になったときに、金融機関からスムーズに融資を受けるのも、経営者の重要な仕事です。銀行と安定した取引を行うために、大手銀行で融資の審査役を務めた経験を持つ笹井潤一先生(笹井会計事務所)が強調するのは、「先を見た経営」の大切さ。そのうえで、「銀行がお金を貸したくなるのは、こんな社長」というアドバイスもいただきました。
元大手銀行審査部審査役が語る
「銀行が融資したくなる社長とは?」
2019/9/3
実際の計数と、「社長の感覚」は合っているか
今回は、「銀行との正しい付き合い方」について教えていただきたいのですが。
わかりました。最初に「好ましくない例」からお話しすると、「とにかく苦しいから」と、しっかりした返済計画も持たずに、その場しのぎの融資を考えること。依頼すれば、成功報酬10%、20%で請け負う税理士の先生などもいるようですが、そういう姿勢はいかがなものかと私は考えています。
運よく融資を受けられたとしても、その借金がよけい経営を圧迫することになるかもしれませんね。
その通りです。銀行とは、あくまでも「安定した取引」を心がけなくてはいけません。そのために必要なのは、ひとことで言えば、常に先を見据えて経営を行うことだと思うんですよ。
具体的には?
私は、お客さんの決算の2~3ヵ月前になると、「着地点」についてうかがうようにしています。今期の売上、経費を差し引いた利益は、どのくらいになりそうか? その結果、トータルの納税額はいくらになって、手元にはいくらのお金が残るのか? 資金繰りの見通しです。
その上で、来期、銀行の借り入れを予定しているのかどうかも質問します。予定があるのなら、必要に応じて「もう少し利益が出るように頑張りましょう」と言うこともあるし、なければ、「あまり無理をせず、今期は赤字でもいいではないですか」とアドバイスすることもあります。
その上で、来期、銀行の借り入れを予定しているのかどうかも質問します。予定があるのなら、必要に応じて「もう少し利益が出るように頑張りましょう」と言うこともあるし、なければ、「あまり無理をせず、今期は赤字でもいいではないですか」とアドバイスすることもあります。
赤字なら、法人税の支払いは、必要ありませんし。
さらに、その先を見通すことも大事なのですが、そのためには、過去を振り返ることも重要になります。3~5期ぐらいの、事業の流れをあらためて見てみるんですね。このときポイントになるのは、出てきた売上や利益といった計数が、「社長の生の感覚」と合致しているか、ということ。私は、必ずそれを確認します。
例えば、商品の出荷量は増え、それなりに売上も伸びているから、社長は「うちの事業は軌道に乗っている」と感じている。ところが、数字をよく見ると、利益は横ばいで、内部留保も思ったほど増えていない、というようなことがよくあるわけです。
例えば、商品の出荷量は増え、それなりに売上も伸びているから、社長は「うちの事業は軌道に乗っている」と感じている。ところが、数字をよく見ると、利益は横ばいで、内部留保も思ったほど増えていない、というようなことがよくあるわけです。
雰囲気的には事業好調だけど、忙しいだけで数字がついてきていない、というわけですね。
では、その原因はどこにあるのか? 価格競争に巻き込まれているのかもしれない。建設業で言えば、最近、現場の安全面での縛りが厳しくなっているので、そうしたことに手間を取られているのかもしれません。
経営の動向から、そうした点が浮き彫りになれば、有効な対応策を考えることも可能になるでしょう。そうやって、5年、10年先を見通した戦略を立てることができるのです。
経営の動向から、そうした点が浮き彫りになれば、有効な対応策を考えることも可能になるでしょう。そうやって、5年、10年先を見通した戦略を立てることができるのです。
確かに、そういう会社や社長さんにだったら、銀行も安心して融資を実行できそうです。
そういうことです。同時に、お話ししたことは、単に銀行にお金を借りやすい会社にする“虎の巻”ではありません。大切な事業を着実に成長させていくために実行すべき、経営のノウハウと言えばいいでしょうか。そういう会社が、結果的に銀行との安定した関係を築き、事業の継続や発展につながるのだと、理解してください。
銀行は、経営者自身も見ている
中小企業が融資を受ける場合は、社長が融資の担当者や支店長と直接話をするケースが多いと思います。そういうときに、注意すべき点はありますか?
銀行が一番にチェックするのは、会社の業績、数字ですが、それだけではありません。おっしゃるように、経営者の“人”といった部分も、けっこう響くことがあるということは、頭に入れておいたほうがいいでしょう。
では、銀行はどういう視点で経営者を見るかと言えば、ズバリ「この人は、真面目にやってきた人物なのか?」というところなんですよ。世間的には、「自社の事業の将来などについて,淀みなく語れる人」「平身低頭、“もみ手”も厭わない社長」が好まれる、というようなイメージがあるかもしれませんが、一番大事なのは「真面目さ」。要するに「信頼できる人かどうか」ということです。
では、銀行はどういう視点で経営者を見るかと言えば、ズバリ「この人は、真面目にやってきた人物なのか?」というところなんですよ。世間的には、「自社の事業の将来などについて,淀みなく語れる人」「平身低頭、“もみ手”も厭わない社長」が好まれる、というようなイメージがあるかもしれませんが、一番大事なのは「真面目さ」。要するに「信頼できる人かどうか」ということです。
そうすると、銀行員の前で、あまり大風呂敷を広げたりしない方が……。
「来期は、売上が倍になる予定です」というような話をされたら、まず疑ってかかります。確かな裏付けが得られれば問題ないのですけど、そうでない「夢物語」だったら、逆効果になるでしょうね。貸出金利が下がって、銀行間の競争が激しくなってはいますが、とはいえ貸したお金が「不良債権化」したら、責任問題になりますから。
銀行は、「これから会社をどうしていきたいですか?」と尋ねるはずです。そのときの模範解答をお教えしましょう。それは、「手堅く、少しずつ大きくしていきたい」です。
銀行は、「これから会社をどうしていきたいですか?」と尋ねるはずです。そのときの模範解答をお教えしましょう。それは、「手堅く、少しずつ大きくしていきたい」です。
そういう姿勢が、銀行には好まれるわけですね。
もちろん、これも相応の裏付けがないとダメですよ(笑)。事業をしている市場の縮小が明らかなのに「手堅く」と言われても、やっぱり「わかりました」とはなりにくいですから。
1つ付け加えておくと、本店の稟議が必要な大口融資の場合、「では、本店の審査に回します」と言った瞬間から、支店の担当者はあなたの味方です。万が一、審査が通らなかった場合、銀行内では、担当者が本店から「なんでこんな案件を回してきたのだ」と評価されることになるんですね。だから、なんとか融資を実行したいと、必死になる。そういう銀行内部の仕組みも理解して、とにかく支店の担当者と信頼関係を築けるようにすることが大切です。
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