「税理士ならば、みんなどんな税でも知っている」。あなたはそう思っていませんか? しかし、現実には、多くの税理士さんには「得手不得手」があるのです。どうしてそうなるのか、頼むとしたらどんな事務所を選ぶべきなのか? Pision合同会計事務所の濱慎一先生(代表税理士)、押味成広先生にうかがいました。
法人税、所得税、相続税……
実は税金も「バランス」が大切なのです
2019/10/21
税理士試験の仕組みが「アンバランス」の原因に!?
同じ税理士の先生でも、法人税に強かったり、相続に特化していたりと、「個性」があります。
今回は、あえてその「問題点」についてお話ししてみようと思うのです。税理士には得手不得手があります。例えば、法人に強い(法人税)か、個人(所得税)に強いのかに大きく分かれます。そうなる原因は、税理士試験にもあるんですね。
税理士の資格を試験で取得するためには、11ある科目のうち5つに合格するのが条件です。ただし、法人税と所得税は「選択必修科目」となっていて、必ずどちらかを合格しなければなりません。このとき、どちらの科目を必死になって勉強して合格したかによって、実際に仕事をするようになってからも今お話ししたような違いが生まれるわけです。
見方を変えると、法人税を一生懸命やった人は、所得税のほうはあまり勉強していない場合が多いということですね。
そうなのです。私たちは大学で法人税も所得税もみっちり勉強しました。相続税もやっていて、この3科目に合格して税理士になりました。この3科目合格してる税理士は全国的に少ないと思います。
意識的にそうしたのですか?
「ただ税理士になるのではなく、本当に役立つ税理士になるためには、それが必要だ」という大学の先輩の教えに従ったのです。その考え方は、まったく正しかった、と今実感しています。
例えば、法人の利益を圧縮して法人税を下げる目的で、役員報酬を引き上げることがあります。
役員報酬は、会社の経費にできます。法人税が減って、自分の手取りが増えるということですね。
個人の収入があれば、所得税を支払わなくてはなりませんよね。役員報酬が増えたら、当然そちらの税(所得税・住民税)が膨らみます。場合によっては、法人税の節税分を所得税の増加分が上回ってしまった、などということも起こるわけです。そこで重要になるのが、法人税と所得税のバランスなのですが、それがうまく取れていない会社がたくさんあります。実際に、弊社に顧問税理士を変更してくださったお客様でもそのようなケースがよくあります。そうなるのは、そもそも顧問税理士が、法人税しかわかっていないから、トータルで良いアドバイスができないから、そもそもアドバイスしていないからに、ほかなりません。
相続でも、よくわかっていないと、とにかく目先の相続ばかりに目が行って、失敗することがあります。二次相続(※1)のことを考えなかったばかりに、トータルでは高額の相続税を支払わなくてはならなくなった、とか。
※1一次相続、二次相続 例えば、両親のどちらかが先に亡くなって発生するのが一次相続、残ったもう1人が亡くなるのが二次相続。
「トータルでサポートする」ことの大事さ
こんな事例がありました。高齢の男性の相続が発生しました。相続人は、配偶者である妻と、息子2人。けっこうな資産家で、不動産の賃貸物件なども所有していたのですが、基本的に不動産は長男に、現金その他の財産は妻と次男にというかたちで、相続自体は終わりました。
ただ、当初配偶者の方は、配偶者の税額軽減(※2)を使って、できるだけ税金を減らしたい、という意向をお持ちでした。しかし、そうやって配偶者が一次相続で多額の財産を相続してしまうと、今の話のように二次相続の際に息子さんたちが支払う相続税が高くなって、一次、二次トータルでは、節税になりません。ですから、二次相続も踏まえてお話をし、一次相続では、息子さんたちにも財産を多く相続してもらい、あえてそれなりの納税をする選択をしました。
そこもバランスなのですね。
はい。ただし、サポートはそれで終わりではありませんでした。亡くなったお父さんは、不動産の収益物件を個人で複数お持ちだったのです。そのままだと、不動産を相続した長男にかかる所得税の負担が大きくなってしまう。なので、資産管理会社を設立して、物件をその会社の所有に移しました。法人化して、そこから役員報酬をもらうというかたちにすることで、今度は所得税の節税を実現したわけです。
さらに、今度はその資産、すなわち資産管理会社の株式を、長男の子どもにできるだけ税金が発生しないように移していけるよう、15年ほどのスパンでの譲渡プランを作成したんですよ。法人税、所得税、それに相続税の3つに精通していなければ、ここまでサポートするのは無理だと思います。
なるほど。全部逆に考えてみる、つまり一次相続で目いっぱい妻が相続し、不動産は個人所有のままで、次世代を考えた対策はゼロ――という状態と比較すると、その差は歴然ですね。
いろんな中小企業や相続の現場をみても、そういう長いスパンの展望や、社長の家族、相続のことまで視野に入れて税金対策ができているところは、むしろ少数派ではないでしょうか。一口に税理士といっても、そのバックグラウンドは、公認会計士であったり、税務署OBであったり、税理士試験組であったりします。税理士試験組でもこのように合格科目も異なります。また、経験してきた業務も様々です。私たちは法人税、所得税、相続税の合格し、中小企業から上場企業、相続税から組織再編や国際税務、ファンド業務など、幅広く、深く経験してきているからこそ、このようなトータルサポートが可能だと思います。
見かけの節税だけでなく、トータルにサポートしてもらえるのか。それも税理士選びのポイントになりそうです。
※2配偶者の税額軽減 配偶者が相続した遺産のうち、課税対象となるものの額が1億6000万円まで、それを超えても法定相続分までは課税されない制度。
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