会社を設立しようという人の場合、事業の売上は1000万円を越えるレベルになっていることが多いでしょう。事業者にとってこの「売上高1000万円」というのは大きな意味を持っていて、これを超えると「消費税課税事業者」になるのです。ただし、要件を満たせば、設立から最長2年間、その支払いが免除されるのをご存知でしょうか? それを含めて、消費税の扱いには、ちょっとしたテクニックが必要です。会社設立に詳しい桑原正樹先生(桑原税務会計事務所)に聞きました。
税率アップの消費税だからこそ
会社設立前に完璧な備えを
2019/11/15
1年間の納税免除がフイになることも
会社をつくる際に気をつけたいのが、消費税です。2019年10月からは、税率が10%に引き上げられますから、なおさら「対策が打てたのに何もしなかった」ときのダメージは大きくなるでしょう。
どんなことを考えればいいのか、教えてください。
基本的なことから説明すると、個人事業でも法人でも、年間の売上高が1000万円以下の場合は、消費税の支払いを免除される「免税事業者」です。物を売れば、顧客はその物の価格に消費税を上乗せして支払います。この消費税は、本来、物を販売した事業者が国に納税すべきお金ですが、益税といってそのまま自分の売上に計上することが認められているわけです。
端的に言えば、消費税分、得をしているわけですね。
そうです。でも、「基準期間」(前々事業年度)の売上が1000万円を超えると、そうはいきません。「課税事業者」として、消費税納税が義務付けられることになります。ところで、以前は新たに法人を設立した場合には、資本金が1000万円未満であれば、設立から2年間、消費税が免除されていました。しかし、2011年の法改正により、それが認められるのは1期目のみになったんですね。
ここで重要なのは、要件を満たせば、その次の年度まで、すなわち会社設立から2期目まで、支払いを免除される仕組みになっていること。逆に言えば、それを知らずに、みすみす2期目から高い消費税を納めることになってしまった、ということが起こりうるわけです。
1年間、課税か支払い免除かというのは、大きいですよね。どんな要件なのでしょう?
2期目の上半期の6か月間を「特定期間」と言います。この間の売上高が1000万円以下なら、2期目も支払い免除。同じ期間の給与支払額が1000万円以下なら、やはり免除です。両方とも1000万円を超えた場合に、その期から納税しなくてはならなくなるんですよ。
それでも「1年7ヵ月」は免除が可能
とすると、考えられる対策としては、特定期間の売上か給与支払額を1000万円以下に抑える、ということになるのでしょうか。
そうですね。売上の抑制は無理があるでしょうから、工夫できるとしたら給与です。有効なのは、支払いを「月末締め・翌月払い」にすること。給与支払額は、「実際に支払われたお金」で計算されるので、このやり方ならば、特定期間の支払額は5ヵ月分でいいことになるわけです。実際、設立初年度の決算を頼まれて計算してみたら、給与を「当月末払い」にしていたばっかりに、2期目から課税になった会社がありました。
そういう事例を聞くと、初めからその分野に詳しい専門家のアドバイスを受けることの重要性が、よくわかります。ただ、現実には、どう頑張ってもその要件が満たせないケースもあるのではないでしょうか。
そうですね。ただでさえ先の読みにくい設立すぐの時期に、いろいろ無理をして本業に差しさわりがあったのでは、本末転倒です。
ただし、そういう会社でも、1年7ヵ月は消費税の支払い免除を受ける方法があるんですよ。初年度の事業年度を7ヵ月以下にするのです。その場合は、「短期事業年度」という特例が適用されて、さきほどの要件に関わりなく、2期目も消費税を課税されることはありません。つまり、会社の設立日、事業年度を工夫すれば、最長7ヵ月免除期間を延ばすことができるわけです。
半期の売上が1000万円超なのですから、支払う消費税もかなりの額になるでしょう。7ヵ月であれ免除されるというのは、とくにスタートしたばかりの会社にとっては、ありがたいでしょうね。
あえて「課税事業者」を選ぶという選択もある
最初に説明したように、売上高1000万円以下は消費税免税事業者なのですが、あえて課税事業者になったほうがいいケースもあるんですよ。
どんな場合なのでしょう?
これも消費税の仕組みについての理解が必要なのですが、例えば商店で物を売る場合、さきほども例に挙げたように、顧客は消費税を上乗せした金額を支払い、商店はその消費税をいったん預かります。他方、商店は売り物を仕入れるときに、取引先にやはり消費税を上乗せした代金を払っています。商店が税務署に消費税を納める際には、顧客から預かった消費税額から、この仕入れで自らが支払った消費税額を差し引くことができるのです。
では、仮に仕入額が店の売上より大きくなって、自分の払った消費税額が、税務署への納税額=顧客から預かった消費税額を上回った場合には?
差額を国から返してもらえる、すなわち還付が受けられるはずです。
そうですよね。業種によっては、会社の立ち上げと同時に大きな設備投資や仕入をすることがありますから、そういうケースは珍しくありません。ところが、自らは消費税を納めない免税事業者だと、還付が受けられないのです。
こうした場合には、課税事業者になって、消費税の納税を行いながら還付を受けるという選択もあるわけです。どちらが有利なのかを見極めるためには、やはり会社設立前に、ある程度精密なシミュレーションを行う必要があるでしょう。
消費税について知ると知らないとでは、大きな差になる可能性があるようです。起業でつまずかないために、‶その道のプロ“の知恵を借りることも大切です。
- 税理士・税理士事務所紹介のビスカス
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