どう考える?「福利厚生費」
費用が1人15万円の社員旅行は経費で落とせるか?

どう考える?「福利厚生費」  費用が1人15万円の社員旅行は経費で落とせるか?

2016/1/14

 
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「交際費」「会議費」とともに会社の経費として認められている「福利厚生費」。社員が仕事に専念できるような体制を整えたり、たまには英気を養ってもらったりするためにも、しっかり活用したいもの。でも、やはりそこには様々な条件があるようです。

【今回の専門家は…】税理士 久野豊美先生(税理士法人Dream24)


あらためて、「福利厚生費」についてうかがいたいと思います。

福利厚生費は、「専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行などのために通常要する費用」と法に定められています。出張手当や社宅、交通費、残業時の食事代、慶弔見舞金、クラブ活動の補助、資格取得費用などもこれに含まれます。
とはいえ、もちろん無制限に経費にできるわけではありません。基本的に全社員が利用でき、かつ「通常要する費用」の範囲内であることが条件になるんですよ。

そこがまた曖昧なところ。

これは「社会通念上妥当な範囲」と解釈されているのですけど、やっぱり分かりにくいですよね(笑)。例えば、社員旅行の出費はどこまでOKなのか?

当社も、毎年海外に社員旅行に行くのですが、1人いくらまでなら「妥当」なのかは、多少迷ったりもします。

社員旅行には税務当局の通達がありまして、4泊5日以内という一応の条件が設けられています。海外旅行の場合は、機内泊を除く現地泊ですね。このあたりは、海外旅行がまだ珍しかった時代から、徐々に条件が緩和されてきました。
 さきほども言ったように、社員全員に旅行への「参加資格」があって、かつ少なくとも半数以上は実際に出かけたことも、厚生費として認められる条件になるでしょう。一部の人間だけでこっそり行ったのは、社員の福利厚生ではなくて、単なる「お手盛り旅行」ですから。
 さて、問題の、金額的に「社会通念上妥当な範囲」ですけれど、税務署の動向などを見る限り、1人当たりにして10万円、15万円までならば認められるのではないか、と私は思います。これが50万円になると難しい、100万円ならほぼ認められることはない、というのが今の「相場観」ではないでしょうか。

私は、1人当たり60万円の費用が、税務署に否認された例を知っています。

恐らくそうなるでしょうね。当然のことながら、否認されると経費としては計上できず、「現物給与」すなわち給与として課税されることになります。

当社は、昨年創立20周年でしたので、少しだけ豪勢な旅にしたんですよ。

そういう特殊事情も、「社会通念」に見合う範囲で認められると思いますよ。
 あえて付け加えておくと、旅行費用の一部を給料の天引きなどで事前に徴収していた場合、不参加の人にそのぶんを現金で返すのは何ら問題ありません。会社負担分は経費として処理することができます。では、「事前徴収」していなかった場合に、自己都合で参加しなかった社員に対して、会社が負担した旅行費用ぶんを、例えば5万円支払ったらどうなるでしょう?
この場合、それは福利厚生費とは認められず、給与になります。それだけでなく、旅行に参加した人も全員5万円分は給与とみなされ、所得税の課税対象になるんですよ。社員が「旅行か現金か」の選択ができることになるからなんですね。実際にはレアケースだと思いますが、「福利厚生費」の考え方の一端を理解できる規定ではないでしょうか。

約20年ぶりに「通勤手当」の非課税枠が引き上げられた


今年《注:2016年》1月から、通勤手当や定期券などにかかる所得税の非課税限度額が引き上げられました。

従来の月10万円から15万円に5万円のアップです。1998年に5万円から10万円になって以来ですから、ずいぶん久しぶりの見直しになりますね。遠距離通勤、中でも新幹線通勤の増加に対応したものといわれますが、これで東京にも大阪にも200キロ圏からの通勤が可能になりました。
ちなみに、東京からの東海道新幹線を例に取れば、新幹線通勤定期(フレックス)が静岡まで1ヵ月約13万円ですから、おおむねこの範囲が「通勤圏」としてカバーされたことになります。経費で処理できる交通費の枠が広がったわけで、会社にとっても、ひとまず朗報といえるでしょう。

通勤手当に関しても、いろんな条件がありますよね。電車であれば、グリーン車はダメだとか。

福利厚生費として認められる通勤手当には、「最も経済的かつ合理的な経路および方法」による通勤という条件があるんですね。グリーン車通勤は、これに該当しないとみなされるわけです。同じように、行き帰りが毎日タクシーというのも、福利厚生費としては認められないことになっています。
 では、マイカー通勤はどうか? 自動車や自転車による通勤には、その距離によって非課税枠が決められているんですよ。最大で55キロ以上・月3万1600円となっています。

あと金額の大きな福利厚生費としては、社宅があります。

会社が、役員や社員の住宅について補助するやり方には、「住宅手当」の支給と、おっしゃるように自社物件や借り上げた物件を貸す「社宅」の2つがあります。
社宅に入る時には、給料天引きの形で会社に賃料を支払うことになりますが、当然のことながら個人で借りるよりははるかに安い金額で済みますから、住む人にとっては大変ありがたい制度ですよね。実はメリットは、それだけではありません。住宅手当をもらった場合、それは税法上給与とみなされますから、所得税や住民税の課税対象になるんですよ。しかし、社宅では、一定の賃料を支払っていれば給与課税にはなりません。
 一方、貸す会社の側も、社宅にすれば法人税を節税することができます。借り上げ物件の場合、住宅のオーナーに支払う賃料と住人から受け取る賃料の差額分を、福利厚生費として経費に計上できるからなんですね。ただし、それにはやはり一定の条件があって、住んでいる役員や社員から「徴収すべき金額」をちゃんと取っていないと、「現物給与」とみなされて、課税されることもあります。

やはり、もともとの賃料のどのくらいの割合を徴収すればいいのかが問題になりますね。基準はあるのでしょうか?

実際に問題になるのは、広くて価格の高い借り上げの役員社宅の場合でしょう。ごくかいつまんで言うと、床面積99平方メートル(木造の場合は132㎡)以下の場合は、固定資産税の課税標準額をベースに計算し、それを超える場合は、「会社が物件所有者に支払う家賃の50%」と定められているんですよ。要するに、オーナーに払っている賃料の50%をもらっていれば、まず問題なく経費として認められる、というわけです。ですから、私は「役員さんの場合は、半分徴収しましょう」という話をしています。
もちろん、一般社員の場合には、もっと少なくてもOK。固定資産税の課税標準をベースに計算していくと、例えば正規家賃10万円のところなら、2万円ぐらいでクリアできる。そんな感覚ですね。

福利厚生費は、社員のやる気を引き出すことにもつながるし、節税対策にもなる。正しく知って、活用したいですね。
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