このコーナーでは毎回、税金に関する基本的な知識や新しい動き、気になる話などについて専門家の先生方にわかりやすく解説していただきます。最初のテーマは、サラリーマンなら誰でも気になる「給与所得控除」について。 最近急増している“サラリーマン大家さん”が、節税の奥の手として給与所得控除を活用しているという話をよく聞きますが、じつはこれがもうすぐ通用しなくなるという残念な情報も! 先生、詳しく教えて!
もう通用しない!?給与所得控除を活用した節税法
年収1500万円以上のサラリーマンは、
2年連続で増税に!
2015/9/29
【今回の専門家は…】税理士・行政書士 浅野和治先生(浅野税務会計事務所)
「給与所得控除」という言葉はよく目にするのですが、そもそもどんなものなのかよくわかりません。イチから教えてもらっていいですか?
ひと言で言うと、サラリーマンの“必要経費”に当たるものですね。個人事業主の場合、仕事のために必要な事務所の家賃や光熱費、文房具やコピー用品などの消耗品費、交通費などが必要経費とみなされ、それを売上高から差し引いたものが所得となりますが、サラリーマンの場合、これらの費用の大半は会社が払ってくれるので、具体的な金額を計算するのはとても面倒です。そこで、必要経費の代わりに給与所得控除を設け、これを給与総額(年収)から差し引いたものを年間の給与所得として、所得税や住民税を計算する仕組みになっているんです。
なるほど。ちなみにわたしの年収が500万円だとすると、給与所得控除を差し引くと所得はいくらになるのでしょう?
給与所得控除額の計算方法は年収ごとに決められています。500万円なら「収入金額×20%+54万円」なので154万円ですね。つまり、給与所得(年収-給与所得控除)は346万円(500万円-154万円)ということになります。
以下、年収ごとの給与所得控除の計算方法を紹介しますので、ご自分はいくら控除が受けられるのかを計算してみてください。
以下、年収ごとの給与所得控除の計算方法を紹介しますので、ご自分はいくら控除が受けられるのかを計算してみてください。
■給与所得控除の計算方法
年収180万円以下 年収×40%(65万円未満の場合は65万円)
年収180万円超360万円以下 年収×30%+18万円
年収360万円超660万円以下 年収×20%+54万円
年収660万円超1000万円以下 年収×10%+120万円
年収1000万円超1500万円以下 年収×5%+170万円
年収1500万円超 245万円(上限)
ちなみに、年収180万円以下の人の給与所得控除の下限は65万円と定められていて、計算した控除額が65万円に満たない人でも、65万円を年収から差し引くことができます。これは低所得者の税負担を軽減するための配慮だと言えます。
意外と弱者にやさしい制度設計になっているんですね。
ところが所得の多い人には少しずつ厳しくなっていくんです。上の計算方法を見ると、控除の掛け率は、年収が多くなればなるほど小さくなっているのがわかりますよね。
実際に計算してみると、たとえば年収300万円の人の給与所得控除は108万円で、控除の割合は年収の約36%ということになりますが、年収400万円の人は134万円で33.5%、年収500万円の人は154万円で30.8%と、だんだん割合が小さくなります。
実際に計算してみると、たとえば年収300万円の人の給与所得控除は108万円で、控除の割合は年収の約36%ということになりますが、年収400万円の人は134万円で33.5%、年収500万円の人は154万円で30.8%と、だんだん割合が小さくなります。
なるほど。しかもこの計算方法を見ると、年収1500万円超の人の給与所得控除は245万円が上限となっていますね。
そうなんです。じつは給与所得控除には、下限だけでなく上限も定められているんですよ。年収1500万円以上の人は245万円が上限となっていて、どんなに年収が多くても、給与所得控除額は245万円までしか認められないのです。
たとえば、年収1500万円の人なら245万円の控除額は年収の約16%ですが、年収2000万円の人は約12%、年収3000万円の人は約8%に下がってしまうのですから、高額所得者になればなるほど税負担が重くなることがわかりますよね。
たとえば、年収1500万円の人なら245万円の控除額は年収の約16%ですが、年収2000万円の人は約12%、年収3000万円の人は約8%に下がってしまうのですから、高額所得者になればなるほど税負担が重くなることがわかりますよね。
高額所得者でも、収入に応じた“必要経費”を支払っているはずですから、上限を設けられるのは納得がいかないような気もしますが。
じつは給与所得控除に上限が定められたのは、つい最近のことなんです。以前は年収1000万円以上のサラリーマンについては、5000万円であろうと、1億円であろうと「年収×5%+170万円」の給与所得控除を受けることができたんですよ。
たとえば現在、給与所得控除の上限が245万円となっている年収2000万円の人も、以前の計算方法だと270万円まで控除が受けられたことになります。当然ながら、年収がもっと多い人ほど、以前に比べて税負担が重くなっているのです。
しかも来年(平成28年)以降、この負担がますます重くなることが決まっているんですよ。
たとえば現在、給与所得控除の上限が245万円となっている年収2000万円の人も、以前の計算方法だと270万円まで控除が受けられたことになります。当然ながら、年収がもっと多い人ほど、以前に比べて税負担が重くなっているのです。
しかも来年(平成28年)以降、この負担がますます重くなることが決まっているんですよ。
ひょっとして年収500万円想定のわたしも!?
それはご安心を。年収1000万円未満の人についてはまったく影響ありませんから。じつは、給与所得控除の上限が現行の「年収1500万円以上は245万円まで」から、平成28年は「年収1200万円以上は230万円まで」、平成29年には「年収1000万円以上は220万円まで」と段階的に引き下げられることになったんです。
つまり、年収1500万円の人は、いままで245万円までの控除が認められたけれど、来年からは230万円まで、再来年からは220万円までに減額されて税負担が重くなるわけです。
もっとも、実際に増える納税額は、年収1500万円の人で平成28年は6万5500円、平成29年は10万9200円。年収5000万円の人でも平成28年は8万4000円、平成29年は13万9900円といったところです(表1参照)。
このクラスの高額所得者になれば、そもそもの納税額が数百万円から数千万円ですから、ほとんど問題にならない金額と言えるかもしれませんね。
つまり、年収1500万円の人は、いままで245万円までの控除が認められたけれど、来年からは230万円まで、再来年からは220万円までに減額されて税負担が重くなるわけです。
もっとも、実際に増える納税額は、年収1500万円の人で平成28年は6万5500円、平成29年は10万9200円。年収5000万円の人でも平成28年は8万4000円、平成29年は13万9900円といったところです(表1参照)。
このクラスの高額所得者になれば、そもそもの納税額が数百万円から数千万円ですから、ほとんど問題にならない金額と言えるかもしれませんね。
とはいえ、少しでも税負担を抑えたいと思う人はいるはずです。何か解決策はないでしょうか?
残念ながら、こればかりはほとんど手の打ちようがありません。唯一考えられるとすれば、給与所得控除ではなく、実額控除を選択する方法でしょうか。
実額控除とは?
通勤費や、勤務に必要な図書費、衣服費、交際費など、実際に掛かった経費を計算して控除してもらう方法です。実額控除には上限はありませんし、実際に支払った経費がそのまま年収から差し引けるのですから、納税者も納得できるのではないでしょうか。
ただし、実際に給与所得控除の代わりに実額控除を選択する人はほとんどいません。控除が認められる項目の範囲が非常に限定されており、しかも会社(給与の支払者)からの証明を受ける必要があるからです。そう考えると、あまり現実的な対策とは言えないでしょうね。
やはり、改正される給与所得控除を甘んじて受け入れざるを得ないのが実情だと思います。
ただし、実際に給与所得控除の代わりに実額控除を選択する人はほとんどいません。控除が認められる項目の範囲が非常に限定されており、しかも会社(給与の支払者)からの証明を受ける必要があるからです。そう考えると、あまり現実的な対策とは言えないでしょうね。
やはり、改正される給与所得控除を甘んじて受け入れざるを得ないのが実情だと思います。
マイナンバー制導入で、 給与所得控除を活用した節税が不利に!?
給与所得控除ですが、これをマンション経営の節税に役立てているという友人の“サラリーマン大家さん”夫婦がいるのですが……。
おそらくそのお友だちは、奥さんを社長とする会社を作り、会社が得たマンションの家賃収入を奥さんの給与として支払っているのでしょうね。“サラリーマン大家さん”の節税策として、非常にポピュラーな方法のひとつです。
ご主人が会社勤めのかたわら個人でマンションを経営するとなると、給与と不動産所得と合わせた年間所得は相当な金額となり、所得税・住民税の負担も重くなってしまいます。
そこでマンション経営のための会社をつくり、家賃収入はその会社に入るようにして、ご主人の収入を減らすわけです。一方の会社は、社長である奥さんに家賃収入を給与として支払うのですから、夫婦としての年収は変わりません。
もちろん奥さんも、受け取った給与に応じて所得税・住民税を払う必要がありますが、ご主人の給与と不動産所得を合わせた総所得に比べれば金額ははるかに少ないので、税率をかなり抑えることができます。
しかも、奥さんの給与からは給与所得控除が差し引けるので、会社が直接法人税を支払うよりも高い節税効果が期待できるわけです。
ご主人が会社勤めのかたわら個人でマンションを経営するとなると、給与と不動産所得と合わせた年間所得は相当な金額となり、所得税・住民税の負担も重くなってしまいます。
そこでマンション経営のための会社をつくり、家賃収入はその会社に入るようにして、ご主人の収入を減らすわけです。一方の会社は、社長である奥さんに家賃収入を給与として支払うのですから、夫婦としての年収は変わりません。
もちろん奥さんも、受け取った給与に応じて所得税・住民税を払う必要がありますが、ご主人の給与と不動産所得を合わせた総所得に比べれば金額ははるかに少ないので、税率をかなり抑えることができます。
しかも、奥さんの給与からは給与所得控除が差し引けるので、会社が直接法人税を支払うよりも高い節税効果が期待できるわけです。
なるほど、そういうことだったんですね。
でも、残念ながらこの方法はもう通用しにくくなりそうです。お友だちに別のやり方を考えるように勧めたほうがいいと思いますよ。
えっ、どういうことですか?
じつはこのやり方は、会社と奥さんが社会保険を負担していない場合に限って通用する節税策なんです。たとえば会社に入る月々の家賃収入が10万円、会社から奥さんへの給与も同じ10万円だったとすれば、年間収入は120万円になります。この場合、奥さんの年収は社会保険の被扶養者のボーダーラインである130万円を下回るので、社会保険は負担しなくていいと思うかもしれませんよね。実際、“サラリーマン大家さん”が作った会社の多くは、会社も奥さんも社会保険を払っていないはずです。
ところが社会保険制度には、被扶養者であろうとなかろうと、会社の常勤役員は社会保険を負担しなければならないというルールがあります。奥さんが社長の場合、当然ながら常勤役員とみなされるので、本当は社会保険を負担しなければならないのです。
ところが社会保険制度には、被扶養者であろうとなかろうと、会社の常勤役員は社会保険を負担しなければならないというルールがあります。奥さんが社長の場合、当然ながら常勤役員とみなされるので、本当は社会保険を負担しなければならないのです。
奥さんと会社が社会保険を払うと、節税効果はどのように変わるのでしょうか?
それを示したのが下の表2です。たとえば会社の年間所得が300万円、奥さんの給与所得もほぼ同額だったとすると、夫婦合計の所得税・住民税の節税額は、ご主人の課税所得が330万円以上695万円未満で77万9600円、ご主人の課税所得が695万円以上900万円未満の場合は86万9600円となります。かなりの節税効果ですよね。
ところが、これに奥さんと会社の社会保険負担を加えると、ご主人の課税所得が330万円以上695万円未満の場合は25万3016円、695万円以上900万円未満の場合は16万3016円の持ち出しになってしまうのです。
表を見てもわかるように、少なくとも夫の給与所得が900万円以上、不動産所得が300万円以上ないと節税効果は得られません。
また、夫の給与所得がどんなに高くても、不動産所得が多くなればなるほど赤字になりやすい傾向があることもわかります。たとえば、夫の年収が900万円以上でも、不動産所得が1000万円あると年間39万2000円の持ち出しになってしまいます。年収1800万円以上でようやく節税効果が表れるのです。
ところが、これに奥さんと会社の社会保険負担を加えると、ご主人の課税所得が330万円以上695万円未満の場合は25万3016円、695万円以上900万円未満の場合は16万3016円の持ち出しになってしまうのです。
表を見てもわかるように、少なくとも夫の給与所得が900万円以上、不動産所得が300万円以上ないと節税効果は得られません。
また、夫の給与所得がどんなに高くても、不動産所得が多くなればなるほど赤字になりやすい傾向があることもわかります。たとえば、夫の年収が900万円以上でも、不動産所得が1000万円あると年間39万2000円の持ち出しになってしまいます。年収1800万円以上でようやく節税効果が表れるのです。
うーん、せっかく不動産投資をしても、持ち出しになってしまうのではまったく意味がありませんよね。でもなぜ、いままでは多くの会社が社会保険を負担せずに済んだのでしょうか?
ひと言で言えば、社会保険事務所が「大目に見てくれていた」からでしょうね。でも、来年1月のマイナンバー制導入によって、社会保険への加入状況が厳しくチェックされるようになることは間違いありません。奥さんが社長をしている場合は、間違いなく常勤とみなされますから、社会保険を負担せざるを得なくなると覚悟すべきでしょうね。
さらに、社会保険を負担しても、不動産経営で黒字が保てるのかどうかをしっかりシミュレーションしたほうがいいと思います。
さらに、社会保険を負担しても、不動産経営で黒字が保てるのかどうかをしっかりシミュレーションしたほうがいいと思います。
社会保険を負担せずに済む方法はまったくないのでしょうか。
よく行われている対策のひとつが、奥さんを社長ではなく取締役にする方法です。たとえば、ご主人を社長に、奥さんを取締役にして、会社からの給与は取締役である奥さんがすべて受け取るようにします。
この場合、ご主人の収入はゼロなので社会保険の負担は発生しませんし、奥さんは社長ではなく取締役なので、社会保険事務所から非常勤とみなしてもらえる場合もあります。その結果、会社もご夫婦も社会保険を負担せずに済むようになるのです。
もっとも、これが認められるかどうかは社会保険事務所の判断次第。場合によっては、取締役とはいえ、収入の大部分を給与でもらっている奥さんが常勤役員の1人とみなされ、社会保険を負担しなければならなくなることもあります。つまり、効果が表れるかどうかはケースバイケースなので、あまりお勧めはできない対策です。
いちばん手っ取り早いのは不動産所得をすべて会社に貯めておく方法です。こうすれば給与払いがまったく発生しないので、社会保険は負担せずに済みますからね。
もちろん、会社の所得にも法人税は掛かりますし、給与所得控除はなくなりますから、あまり大きな節税効果は期待できないかもしれません。
でも、法人税の実効税率は33%なので、ご主人の課税所得が695万円以上(税率33%)であれば、それなりの節税メリットが出る可能性もあります。
この場合、ご主人の収入はゼロなので社会保険の負担は発生しませんし、奥さんは社長ではなく取締役なので、社会保険事務所から非常勤とみなしてもらえる場合もあります。その結果、会社もご夫婦も社会保険を負担せずに済むようになるのです。
もっとも、これが認められるかどうかは社会保険事務所の判断次第。場合によっては、取締役とはいえ、収入の大部分を給与でもらっている奥さんが常勤役員の1人とみなされ、社会保険を負担しなければならなくなることもあります。つまり、効果が表れるかどうかはケースバイケースなので、あまりお勧めはできない対策です。
いちばん手っ取り早いのは不動産所得をすべて会社に貯めておく方法です。こうすれば給与払いがまったく発生しないので、社会保険は負担せずに済みますからね。
もちろん、会社の所得にも法人税は掛かりますし、給与所得控除はなくなりますから、あまり大きな節税効果は期待できないかもしれません。
でも、法人税の実効税率は33%なので、ご主人の課税所得が695万円以上(税率33%)であれば、それなりの節税メリットが出る可能性もあります。
- 税理士・税理士事務所紹介のビスカス
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