タワーマンション固定資産税見直しの意味するもの

タワーマンション固定資産税見直しの意味するもの

2017/4/19

 
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昨年末に公表された2017年度の税制改正大綱に、富裕層の相続税対策として人気のタワーマンションに関し、その固定資産税を見直すことが明記されました。節税効果の大きな高層階ほど増税になる仕組みにマスメディアも大いに注目しましたが、「納税額の変更自体には、さほどのインパクトはありません」とランドマーク税理士法人の清田幸弘先生は話します。

◆税額に差をつけ、節税を牽制

先生が以前「予言」なさっていた通り、タワーマンションへの課税が見直されることになりましたね。概要から教えてください。
タワーマンションの固定資産税は、今は階数には関係なく、床面積に応じて課せられています。同じ床面積ならば、何階でも税額は一緒。税制改正大綱では、これを1階上がるごとに、0.26%高くなるように改めるとしています。マンション1棟の税額は今と変わらないため、高層階は増税、低層階は減税になるんですね。例えば、同じ面積の40階の部屋は、1階に比べて10%固定資産税が高くなる計算です。18年以降に引き渡される20階建て以上の新築物件が対象になります。

今回の改正の背景には、報道されているように、昨今のタワーマンションを活用した“相続税節税ブーム”の過熱があります。眺望がいいため実勢価格の高い高層階を買っても、相続税算出の基になる固定資産税評価額は、低層階と変わらない。つまり、税額は比較的安く済む。そのメカニズムを利用して、現金を資産価値の高いマンションに替えておけば、それだけ大きな節税になるというわけですね。

国の“イメージ戦略”か

本当に、東京周辺などにはあれよあれよという間に高層マンションが林立し、富裕層が競ってそれを買い求めるという状況になっていますね。節税のためにそれをやられたのでは、さすがに国税当局も黙っていられないということでしょう。
でも、1割程度固定資産税が上がったとしても、先ほど説明した相続税の節税効果に比べれば、大した痛手にはならないでしょう。いぜんとして、そのメリットは維持されるとみるべきです。そもそも今回の大綱には、問題の相続税に関する記述がありません。固定資産税の納税額については変えるけれども、その評価については何も示されていないんですよ。仮に今後検討されるとしても、今回の中身を見る限り、そんなにドラスティックな「改革」にはならないと思います。
そうなんですか。では、あえてこのような施策を打ち出した目的は、いったいどこにあるのでしょうか?
あくまでも私の憶測ですが、「ついに国が『タワマン節税』の規制に乗り出した」というイメージ作りの思惑があったのではないか、と感じるんですよ。富裕層の人たちや不動産業者などに対してそういうメッセージを出すことで、行き過ぎたブームの鎮静化を図ろうとしたような気がするのです。
 
そして、それは単なる「税金対策」ではないというのが、私の考えです。「なんだ、相続税は上がらないのか」とほっとするのも、早計に過ぎるのではないでしょうか。次回は、そのあたりの話をしてみたいと思います。

心配するのは、相続税だけでいいのか

タワーマンション固定資産税見直しの意味するもの
今回、タワーマンションの固定資産税見直しが打ち出されたのは、単なる「税金対策」によるものではない、というお話でした。では、国の真意はどこにあるとお考えですか?
ズバリ、物件の供給過剰にブレーキをかける意図が働いていると私はみます。「タワーマンションバブル」が崩壊して、それが首都圏の不動産全般に波及するような事態になれば、経済的な混乱が避けられませんからね。
待ってください。ということは、すでにそうした物件を購入している人や、そうしようと考えている人たちも、「バブル崩壊」のリスクを背負っていることになります。
その通りです。前回お話ししたように、高い実勢価格と相続の際の低い評価額とのかい離こそが、「タワマン節税」のキーです。見方を変えると、両者に大きな差があるから、このスキームは成り立っているんですね。でも、その前提が崩れたらどうでしょう? マンションの供給過剰が鮮明になって、実勢価格が値崩れを始めれば、相続税の前に経済的な実損を被ることになります。資産価値は大幅に下落し、賃貸に回そうにも、当初予定していた家賃では借り手がいない……。なんのことはない、マンション投資などせずに普通に相続税を支払ったほうがマシだった、などということにならない保証はありません。
国が「鎮火」に乗り出すくらいですから、十分気をつける必要がありそうですね。
「相続税対策」なのですから、当然のことながら、相続が発生するまで買ったマンションを持ち続ける必要があります。でも、それまで相場が維持されるのか否かは、自分では決められないんですよ。

「購入後」のことを考える

先生のところにも、「タワーマンションの購入を考えている」というお客様は、みえますか?
はい。「相続税対策になると聞いたのですが」という方には、「確かに効果はあります。ただし、物件の時価が下がることはないのか、家賃は確定的に入ってくるのかは、しっかり検討する必要があります」という話をします。
 
「相続税対策としての不動産活用」では、賃貸アパートの建築もよく推奨されますよね。あれもまったく同じで、賃貸物件である以上、部屋がちゃんと埋まって家賃が安定的に入ってくるのが、対策の前提になります。ちなみに、この貸家についても、供給過剰が懸念される状況になっているんですね。そんな環境も反映して、今回の税制改正大綱には盛り込まれませんでしたけど、集合住宅に対する固定資産税の優遇措置についても、見直しの話が出たと聞いています。
正しい相続対策を講じるためには、社会、経済情勢を冷静に眺めてみることも大事になりますね。

◆「節税ビジネス」に 踊らされてはいけない

勧める人が過熱させるバブル

タワーマンション固定資産税見直しの意味するもの
税金をできるだけ安くして、納税者にメリットをもたらす。それが、我々税理士の大事な仕事であるのは、言うまでもありません。そのために、他の事務所にはないスキルも活用できると自負もしています。ただし、前回お話ししたタワーマンションの購入とか賃貸アパート経営だとかは、よほど確実な成算がない限り危ない。私は、基本的にお勧めはしません。人によって、いろんな考え方があるとは思うのですが。
お話をうかがうと、とてもリスキーな投資だと思うのですけれど、なかなか熱は冷めませんね。
率直に言えば、それは「仕掛ける人」がいるからです。例えばタワーマンションを開発、販売する業者にとって、相続税を心配する富裕層は格好のお客様です。「相続税は怖いですよ」と不安を増幅し、「でも、マンションの高層階を買えば、こんなに節税できる」「賃貸収入も見込める」と話を進めていく。まさに「節税ビジネス」なんですね。
 
私は、不動産投資そのものを否定するわけではありません。ただ、やろうとするのならば、「もしも1億円で購入した物件が2000万円に暴落したら、どうなるか」「その可能性は本当にないのだろうか」という視点を持って、慎重に検討すべきだと思うのです。「ビジネス」をしている人たちは、売った後のことには興味がありません。結果は、すべて自己責任ということになるのですから。

自分がいくつの物件を持っているのか、わからない!?

事務所のお客様で、こんな方がいます。超のつく大地主さんなのですが、あちこちにマンションやらアパートやらを建てまくって、すぐには思い出せないほどの数になってしまった。よく「部屋数がわからない」という人はいるのですが、この方は何棟なのかが把握できないわけです。
それは、相続税対策で……。
最初はそうです。お母さんの相続の時に数十億円の税金を払わされたとかで、頭にきて相談した人間に、「それなら不動産だ」と勧められたようなのです。で、業者の言われるがままに貸家を建てて、というパターン。とはいえ、目論見通りに賃貸収入が稼げるわけではなく、金融機関への債務も膨らんでしまいました。そんな状況ですから、私のお客様になってからは、「もうやめましょう」と忠告するのですが、申告の時期になるとまた何件か建てているのが発覚するんですよ。
よほど言葉巧みに誘導されているのでしょうね。
ただし、経済的には破綻寸前で、さしもの私たちにも、もはや返済をどれだけ遅らせるかくらいの手立てしかないところまできてしまいました。まあ、これは極端な例ではありますが、不動産投資にはそういうリスクがつきまとうということは、心に留めておいて欲しいのです。
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