今年1月、「相続税の節税を目的とした養子縁組は有効か」で争われていた裁判で、最高裁が「有効」という判断を下しました。メディアは「従来の運用を追認した」と報じましたが、このように専ら相続税対策として、自分の孫などを養子にするケースは少なくないようです。ただ、税理士法人経世会の筒井亮次先生は、「安易な養子縁組には注意が必要です」と、こうした行動に警鐘を鳴らします。
トラブルを招きやすい
「安易な養子縁組」
2017/6/13
先生が担当した相続で、揉める原因として目立ったものはありますか?
最近多いのが、養子縁組のトラブルなんですよ。それも「この人と親子関係を結びたい」という気持ちが最初にあるわけではなくて、単純な相続対策として行った行為が争いを招く、というパターンです。相続税の基礎控除額、すなわち相続税が課税されるボーダーラインは「3000万円+600万円×法定相続人の※」という計算式で算出されますから、相続人が増えるほどラインが上がります。課税対象になった場合にも、納税額をより低く抑えることができるわけですね。
養子というのは、法律上実子と同じ扱いですから、相続人にカウントすることが可能。
そうです。養子縁組をして相続人を増やすというのは、ある意味、「最も簡便で効果の高い相続税対策」なんですよ。だから、それを積極的に勧める税理士の先生もいます。でも私の経験では、それをやると、かなり高い確率で揉め事が起きます。これも簡単な計算ですけれど、相続人が増えるほど1人当たりの遺産の取り分は少なくなりますよね。その事実が、相続人の方々の中に亀裂を生じさせることになるのです。
被相続人が養子にするのは、お孫さんが多いのでしょうか?
そうですね。たいてい孫や子どもの配偶者、つまりお嫁さんです。孫の場合は、例えば長男の子どもだけ養子にして、次男や長女の子どもはしなかった、というような「不公平」が、争いの発火点になります。「どうして、あの子だけ遺産がもらえるんだ」「兄さんが父親を丸め込んで、うまくやったに違いない」と。一方、お嫁さんは、そもそも他の兄弟にとっては「他人」ですからね。「血もつながっていないのに……」となるわけです。
お嫁さんがお父さんと同居して面倒をみていたような場合には、彼女にも「ある程度の遺産をもらって当然」という意識があるでしょうし。
それで、激しいバトルになるんですよ。お嫁さんへの感謝の気持ちを込めて養子縁組をするというのは、ありえることだと思うのです。でもそういう場合には、他の相続人にもきちんとそういう意思を伝えておくべきでしょう。被相続人の真意がわからないまま相続になることも、揉める大きな原因なんですよ。
いずれにせよ、相続税の減免という、相続人に対して良かれと思ってやった行いが争いを生んでしまうのでは、本末転倒と言うしかありません。人生の最後に、軽く考えたことが取り返しのつかない事態を招くことのないよう、「親子になる」ことの意味をしっかり認識してほしいと思うのです。
※「法定相続人の数」にカウントされる養子には制限があります。実子がいる場合:1人まで、実子がいない場合:2人まで
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