相続についての不安をあれこれ話せて、的確なアドバイスをくれる税理士の存在は、頼もしい限りです。ただし、税理士ならば誰でも相続に詳しいとは限りませんから、ホンモノのプロを選ぶ目も必要になります。同時に、信頼に足る専門家の助言には真摯に耳を傾け、実行することが大事。東京中央税理士法人の田上敏明先生は、その点で辛い経験もしたそうです。
専門家の言うことを「聞く」力も試される
2017/1/27
◆一生懸命話した結果、顧問契約解除に
相談に来たお客様は、先生がアドバイスすれば、みんな納得して動いてくれますか?
そうしていただくために、できるだけ個別に具体的な数字やシミュレーションなどを用意して、お話しするようにしています。ただ、時にはお客様のほうが「初めに結論ありき」の頭になってしまっていて、こちらの言うことを聞いていただけないようなこともあるんですよ。 前に、空き地にアパートを建てて土地などの評価額を下げる相続対策の話をしたと思います。確かに相続税は下げられるけれども、同時に賃貸事業の採算性をきちんと見極める必要がある、と。
すでにアパートを建てた方から、「うまくいかないけれど、どうしたらいいか?」という相談を受けられたのですよね。
実は、建てる前のお客様もけっこういました。ハウスメーカーなどに勧められ、「アパート経営をやりたいんだが」と言うわけです。で、今話した採算性の観点から危うさを感じ、「お勧めできません」と申し上げたことも、何度もあります。そんな時、頑として考えを変えないお客様もいたんですよ。「そんなはずはない」「採算が合わないというのなら、合うようにしてくれ」……。「難しい」と答えると、ならばと顧問契約が解除になったことが、何回かありました。
そうなんですか。先生としては、仕事を失ってでも止めたかった。
いい加減なアドバイスをした結果、事業が赤字になって、「大丈夫だと言ったではないか」という事態になるリスクもありますから。そういう責任は負えません。
聞くほうとしては、専門家がそのくらいの決意でものを言っているのだということを、きちんと認識する必要がありそうですね。あえて自分にとって厳しいことを言ってくれるプロこそ、信頼すべきなのではないでしょうか。
税務の前に、まず「相続」をどうするか
最後に、相続に対する先生の基本的な考え方を聞かせてください。
ずっと相続税の話をしてきたのですが、実は税務の前に相続そのもの、つまり「財産をどのように分けるのか」という方針を立て、そのための対策を考えることが、何よりも大事だと思うんですよ。あえてこのように言うのは、往々にしてその根本のところが疎かになっていて、相続税ばかりに頭の行っていることが多いからに他なりません。 いろんな事例を扱ってきた私の印象なのですが、同じ金額であっても、相続税はとりわけみなさんの重税感が強いように感じられるんですよ。人によっては、恐怖に近いものを覚えている(笑)。相続は先のことだし、税金を支払うのも自分ではなく相続人だし、という状況がそうさせるのかもしれません。ただ、やはり冷静に事を運ばないと、「アパート経営の失敗」のような取り返しのつかないことにもなりかねないのです。そういう意味でも、不安に思ったところは、躊躇せず専門家の意見を聞いてほしいと思います。
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