事業承継のポイントとなる自社株対策

事業承継のポイントとなる自社株対策

2017/1/27

 
  • Facebookでシェア
  • Twitterでシェア
  • LINEでシェア

会社を経営している人にとっては、相続の際、事業にかかわる資産をどうやってスムーズに子どもなどの後継者に引き継ぐかが、大きな課題になります。多額の相続税を課せられたりすれば、肝心の事業に悪影響を及ぼしかねません。中でも問題になるのが、自社株です。今回は、この自社株対策の必要性について、東京中央税理士法人の田上敏明先生にうかがいます。

◆非上場株式の評価方法には3つある

経営者の方は、自分の財産とともに、事業の継続に必要な会社の資産も相続しなければなりません。事業用の土地建物ももちろんですが、気をつけたいのが自社株ですよね。
そうですね。相続にせよ生前贈与にせよ、自社株の評価額が高いほど、支払う税金の額も膨らみます。相続してみたら、予想外の相続税を支払う羽目になり、事業の存続自体が危うくなってしまうような危険性さえあります。
いくら「評価額」が高くても、上場株式と違って、その値段ですぐに誰かが買ってくれるわけでもないですし……。そもそも、その評価の仕方が複雑です。
簡単に評価方法についておさらいしておきましょう。原則として3つのやり方があります。①事業内容の類似する上場会社の株価に比準して評価する「類似業種比準価額方式」、②その会社の純資産額をベースにする「純資産価額方式」、③配当額に準ずる「配当還元方式」です。③は特例的なもので、普通は①か②、ないしは両者の併用で評価されることになっているんですね。
どのやり方で評価するのかは、従業員数、総資産価額、取引金額を基にした、大会社、中会社、小会社という会社規模によって大枠が決められています。大会社は①か②」の選択、中会社、小会社は「①と②の併用か②」の選択になるんですよ。一般的に言って、株価の評価においては①の「類似業種比準価額方式」が有利な傾向にあります。会社の規模が小さくなるにつれ、その①の要素は小さくなっていきます。

「持株会社」の設立などで、株価を下げる

どの評価方法を選ぶのかで、株価も大きく変わってくるわけですね。私は、自社株の評価方法を変えて「更生の請求」(※1)を行い、15億円あまりの税金を取り戻した例を知っています。
そういうことが起こりうるわけですね。私は、例えば含み益の大きい会社などの場合に、資産額が反映される②ではなく①で評価できるよう、別々に持っている会社を合併させて、会社規模を大きくするよう、アドバイスしたことがあります。
評価方法の選択以外に、株価を下げる手立てはありますか?
例えば、持株会社の設立です。社長は、そこを経由して事業会社の株を間接保有することになります。この場合、事業会社の業績が伸びて株価が上がれば、それにより生じた利益にかかる法人税分、持ち株会社の株価評価額を引き下げられるんですよ。
会社の成長は嬉しいけれど、株価のアップは悩ましい。そんなケースにぴったりなスキームというわけですね。
※1 更正の請求
税の申告後、納めた税金が高すぎた場合に、税務署に対して還付の請求を行うこと。

◆コンサル料が3000万円! それ必要ですか?

「持株会社の設立をお手伝いしますよ」

事業承継のポイントとなる自社株対策
前回、事業承継のネックになる自社株の値上がりを抑える手段として、持株会社の設立が有効だという話をしました。実は、事業承継を控えた方のところには、銀行などからよくその提案が持ち込まれるんですよ。特に成長率の高い会社の社長に対して、「持株会社をつくりませんか? お手伝いさせていただきます」と。 銀行が勧める典型的なスキームはこうです。まず、事業を継がせたい息子さんが法人を設立します。そして、そこがもともとあった会社の株式を既存株主から買い取って、持株会社化する。こうすれば、買い取った時点で事業承継は完了――。実際に、その手法で持株会社を設立した社長さんを、私は知っています。ちなみに、銀行のメリットは、株式の買い取り資金を融資できることです。
逆に言えば、銀行はその融資をしたいがために、そのような提案をするわけですね。
すでにお話ししたように、本体の事業会社の業績が伸びて株価が上がれば、それで生じた利益にかかる法人税の分だけ、持株会社の株価を引き下げることができます。だから、自社株対策として間違っているわけではありません。ただし、わざわざそんなやり方をしなくても、持株会社をつくることは可能なんですよ。 持株会社化の方法には、①発行済株式の全部を他の株式会社に取得させることにより、既存の会社を親子関係にする「株式交換」、②持株会社を新設する「株式移転」、③会社の事業の全部または一部を既存法人や新設法人に移転する「会社分割」などがあります。銀行提案の②ではなく、③の会社分割ならば、もっと簡単にかつそんなにお金もかからずに、同じ効果が期待できるのです。

さらに謎のコンサルティング・フィー

この事例には続きがあって、持株会社設立を具体的に「指南」したのは、銀行が紹介したコンサルタントだったんですね。その料金が、なんと3000万円強。
えっ! それはいったい何のための出費なのでしょう?
まあ、言葉巧みというか、「こんな方法は、税理士も知りませんよ」と(笑)。でも、そのスキームを実行した社長は、大喜びなんですよ。今の利益が出続けると、とんでもないことになってしまうかもしれない株価の上昇が抑えられる。しかも、持株会社が融資を受けたお金は、結局株を売った自分の手元に入ってくるわけですから。
多額の融資には利子がついている。さらに、払う必要のないお金を何千万円も負担させられたのですけれど……。
意図せず手にした「事業資金」が、経営の目測を誤らせるかもしれません。ここでも、「うまい話」には要注意なのです。
  • Facebookでシェア
  • Twitterでシェア
  • LINEでシェア
全国の税理士を無料でご紹介しています
税理士紹介ビスカス