大切な財産を、確実に次の世代に受け渡していくのが相続。しかし、そのためには、受け渡していくための「手続き」が必要になります。何らかの理由で、それが“スルー”されるとどうなるのか? 税理士法人おしうみ総合会計事務所の鴛海量明先生は、こんな事例に出会ったことがあるそうです。
気づいたら「相続人」が数百人に膨らんでいた!
2016/4/28
◆遺産分割協議をせずに土地を「放置」
先生は、「相続人」が数百人もいる相続を担当されたことがあるそうですね。どうしてそんなことになったのか、教えてください。
数年前のこと、すでにご主人を亡くされていた女性が亡くなり、相続になりました。通常ならば、法定相続人はお母さんと同居していた長男と、長女の2人。兄弟仲もよく、なんでもない相続に思えるのですが、自宅の建っている土地が問題でした。実は、評価額数億円のその土地は、半世紀以上前、昭和30年代に他界した被相続人の父親、相続人からするとおじいちゃんの名義のままだったのです。おじいちゃんの相続の時に、その土地に関しては、なぜか遺産分割協議が行われなかったんですよ。
それはなぜでしょう?
そのあたりの詳しい事情も、今となっては定かではありません。当時の法定相続人は、今回亡くなった女性も含めた子ども5人と、彼らの母親が亡くなって再婚した後妻の計6人だったことは分かっています。そこで何らかの形で分割し、土地の名義の書き換えを行っていれば、今回も「普通の相続」で終わったはずなのですけれど、そうはいかなくなってしまいました。
関係者は“ネズミ算”式に増えていく
おじいちゃん名義のままで代を重ねた結果、「相続人」がどんどん増えたわけですね。
そうです。「家系図」を見せてもらったら、その土地に対して法定相続の権利を有する人が、ざっと数百人になっていました。 例えば、おじいちゃんと後妻の間に、子どもはいなかったのですが、彼女には兄弟が10人近くいたんですね。彼女が亡くなって、持っていた「相続の権利」はその兄弟たちに引き継がれました。さらに彼らが亡くなって、その配偶者や子どもなどが権利を取得し……。当然のことながら、同じような「遺産の受け渡し」は、前妻との間の子ども5人それぞれでも行われることになります。
文字通りの“ネズミ算”ですね。でも、「後妻の兄弟の子ども」なんて、依頼人と一面識もないでしょう。
面識どころか、どこに住んでいるのか、生存しているのかさえ不明な人たちばかりでした。一方で「数百人」の人たちは、問題の土地が未分割のまま放置されている、すなわち自分に相続の権利があるなどということを、たぶん知らないはずです。そもそもそんな土地の存在自体を認識していないでしょうね。そういう人たちを一人ひとり探し出して交渉するなどということは、現実的には不可能に近いと言わざるをえません。
困りましたね。どのようにまとめたのですか?
司法書士の先生とも相談のうえ、「祖父名義の土地全てを長男が相続する」旨の遺産分割協議書を作成し、相続税も納めました。固定資産税はずっと被相続人が支払っていたのだし、とりあえず今の時点でそういう意志を明確にしておくのがベターだろう、という判断です。 現状では、家に住み続けること自体に支障をきたしているわけではありません。ただ、相続人が特に気にしていたのは、自分たちの後のことなんですよ。土地を「相続」した長男には子どもがいました。できることなら自分の代で「土地問題」にけりをつけたいという思いはことのほか強かったのですが、なんといってもおじいさんの相続が曖昧にされたツケは大き過ぎました。
未分割のままでは、家の建て替えも土地の売買も不可
さきほど、祖父の相続で自宅の土地が相続人に分割されず、名義の書き換えも行われなかったために、代替わりを経て土地の法定相続の権利者が数百人にまで膨らんでしまった――という事例を紹介していただきました。この状態のままだと、どんな困ったことがあるのでしょうか?
基本的に「権利者」に無断で、家を建て替えたりすることはできません。もちろん土地を売ることもできないし、それを担保にお金を借りることもNGなのです。その状態を解消するためには、全員に連絡を取って事情を話し、いくばくかの「判子代」などを支払うなどして、相続の権利を放棄してもらうのが常道ではあります。
個人では難しいから、弁護士などの専門家に依頼して、戸籍を徹底的に調べて連絡を取ってもらうわけですね。
そうなのですが、ご紹介したケースのように、「相続人」が大きく増えてしまうと、弁護士さんも二の足を踏むでしょうね。例え依頼を受けてもらえたとしても、相当なコストを覚悟しなければなりません。かつて、これより1ケタ少ない数の人たちに連絡を取ってもらうのに、1000万円以上の見積りを示されたことがあるんですよ。そこまでできるのか、というお話になります。 逆に言えば、相応のコストを割いてでもやる意味があるのならば、戸籍を丹念に調べていくというのは、問題解決の有効な手段になりえると思います。それはケースバイケースだと思います。
ただ、仮に連絡がついても、「同意はできない」と言われたら、元も子もないですよね。
そうですね。あえて言えばもう一つ、裁判をやって「時効取得」を認めてもらうという方法もあります。さきほどの事例で言えば、「依頼人はずっとそこに住んでいた。固定資産税も何十年にもわたって親が支払ってきた。だから事実上依頼人の土地である。自分に登記させてほしい」という訴えを起こすわけです。ただしこれも、簡単ではありません。 手続きの煩雑さやコストの問題に加えて、実際やろうとすると心理的な壁もあるんですよ。やはり似たような案件で提案したことがあるのですが、「近しい親戚もいるし、彼らを相手に裁判というのは、ちょっと……」ということになって、うまくいきませんでした。紹介した事例では、「誰を訴えるのか」を確定すること自体が困難ですから、さらにハードルは高いといえるでしょうね。
認識したい遺産分割協議の大切さ
結局、「先々代」の相続で遺産分割がきちんと行われなかったことが、にっちもさっちもいかない状況をつくり出してしまいました。
今さらながらですけれど、遺産分割協議って「重い」んですよ。そこで話し合いがうまくいかないと「争族」になるかもしれないし、逆にみんなの同意があれば、被相続人が残した遺言書の中身とは違う遺産分割もできるのだから。 さきほど話したように、この事例の場合、問題の相続の法定相続人は、前妻との間にできた5人の子どもと後妻でしたから、その関係性が話し合いの障害になったのかもしれません。とはいえ、「すべきことをしなかった」ために、孫子の世代は言い難い困難を背負い込むことになってしまいました。きちんとした遺産分割は、その時の相続人のためだけではないんですね。それをぜひ考えてほしいと思うのです。次も「遺産分割のミス」についてお話ししましょう。
◆絶対に避けるべき不動産の「共有」
安易に「共有」にすると……
今回お話しするのは、不動産の「共有」についてです。さきほど、遺産分割協議を曖昧にして、土地を半世紀以上前に亡くなった被相続人名義で放置したために、法定相続の権利者が“ネズミ算”式に増加して、収拾がつかなくなってしまった事例をお話ししました。実は、同じような事態を引き起こすのが、不動産の共有なんですよ。そのデメリットはなかなか理解されなくて、「罠」にはまってしまう方が結構多い。
親の財産だった土地や建物を、兄弟で共有する。一見「公平、平等な相続」に思えますよね。
逆に言えば、平等な分割が難しい物件などの場合に、「だったら共有でいいじゃない」という話になりやすいのです。確かに、その時点では平等かもしれません。ところが、これも孫子の代に重いツケを残すことになる危険性が高いんですよ。 どういうことか、簡単な例を挙げて説明しましょう。相続人はAとBの兄弟。親の持っていた不動産を相続する時、軽い気持ちで共有名義にしました。彼らの代はそれでよかった。でも、その相続はどうなるのか? Aにはc、d、Bにはe、fという2人ずつの子どもがいたとします。両親とも亡くなった二次相続(※1)の法定相続人(※2)はc、d、e、f。次の代では、その4人の共有になる可能性があるということです。さらに彼らが亡くなり相続になって……と次々に受け継がれたら、名義人はあっという間に二ケタになってしまうでしょう。
実際に、そういう例が少なくないんですね。
いとこ同士くらいならばまだ身内と呼べるかもしれませんが、その先、さらに先と進むうち、人間関係もどんどん疎遠かつ複雑になっていくでしょう。初めは幼い頃からいっしょに育った兄弟の「持ち物」だったものが、いつの間にかあまり気心の知れない多数の人間の共有物件になっていた、ということになりかねないわけです。
※1 二次相続
両親のどちらか一方が亡くなって発生するのが一次相続、もう一人が亡くなるのが二次相続。この例の場合、一次相続では残った配偶者と子どもが不動産を相続する(法定相続の場合)。
※2 法定相続人
民法が定めた相続人。被相続人の遺言書がない場合には、法定相続人間で遺産が分割される。
両親のどちらか一方が亡くなって発生するのが一次相続、もう一人が亡くなるのが二次相続。この例の場合、一次相続では残った配偶者と子どもが不動産を相続する(法定相続の場合)。
※2 法定相続人
民法が定めた相続人。被相続人の遺言書がない場合には、法定相続人間で遺産が分割される。
共有の解消は簡単ではない
不動産が共有名義のままだと、不都合なことが多いんですよね。
売却したり、担保にしてローンを組んだりするには、持ち主全員の同意が必要になります。建物の建て替え、改築なども同じ。「俺には10分の1の“持分”があるのだから、そのぶんは自由にしていいだろう」ということにはならないんですね。
せっかくの不動産が、“宝の持ち腐れ”になってしまう。
その状況を打開するためには、みんなで分けるなり、あるいは他の名義人に対価を支払って誰かがまとめるなり、いずれにしても不動産を単独名義に書き換える必要があります。でも、経験上、名義人が20人もいると、必ず1人か2人はゴネる人が出てくるわけですよ。1人でも首を縦に振らない人がいると、話し合いは前に進まなくなります。それが不動産の共有の怖いところなのです。
すでに共有名義になっている場合には、名義人がいたずらに増える前に、できるだけ速やかに解消の努力を始めたほうがいいということですね。
ちょうど現在進行形の案件があります。次は、その事例を紹介しましょう。
ワケありの“上物”を抱えた土地が共有に
相続の際に、不動産を共有することの問題点を、さきほどお話しいただきました。実際にあった事例を教えていただけますか?
これは、共有の解消に向けて、今も取り組んでいる案件です。都内の下町のターミナル駅からそう遠くない所に土地をお持ちの方から、所得税の申告について相談を受けました。親が亡くなって土地を相続したので、その家賃収入などを申告したいのだ、と。
相続はすでに終わっていたのですね。
そうです。ところがよく聞くと、相続の時にその土地を弟と共有名義にしたというのです。持ち分比率は1:1。自分たちは別の場所に住んでいて、そこには賃貸物件が建っているのですが……。その物件というのが、マンションとかではなくて、老朽化した一軒家とか貸しビルの類なんですよ。そういう建物が十数軒建っている、というシチュエーションです。入居者には、歩くのもやっとの高齢者の独り暮らしあり、ちょっと怪しげな飲食店あり。賃料の滞納、未払いも多くて、「年中どこかで揉めている」という話でした。
そもそも土地に建っている“上物”に問題が多いわけですね。状況は、より複雑に思えます。
とはいえ、放置すれば依頼人やその家族に不利益をもたらすのが目に見えています。このケースでは、名義人は兄弟2人という段階ですから、まだ傷は浅いともいえる。なんとか今のうちに共有解消を考えなければなりません。
具体的には、どのような方策があるのでしょうか?
①共有物をそれぞれの持分に応じて分割する②自分の持分を他の共有者に贈与する、あるいは贈与を受ける③自分の持分を他の共有者に譲渡する、あるいは譲渡を受ける④共有持分を交換する――といったやり方が考えられます。ただし贈与を行えば贈与税、譲渡すれば譲渡所得税がかかりますから、できればそれらは避けたいところ。ちなみに④は、この事例の場合、共有の土地を同じ価値に切り分けたうえで、それぞれの持分を交換して単独所有に持っていく、というやり方です。交換により譲渡した土地と、取得した土地の時価の差額が2割以内であること、その他一定の要件を満たすならば、譲渡所得税などの税金はかかりません。これを「固定資産の交換の特例」といいます。
信頼できるプロに相談を
おっしゃるように、速やかに解決を図るべきだと思いますが、さきほどの賃貸物件がネックになりませんか?
たしかにそれは頭の痛いところです。例えば、家賃収入が読みにくい状況で、それぞれの物件の「収益性」をどう評価するのか? それによって土地の分割の仕方なども変わってきます。また、ロケーション自体は悪くないですから、マンションを建てて土地の有効活用を図るとか、いっそのこと売却するだとかの方策も十分考えられると思うのですが、それには住民に立ち退いてもらう必要があるでしょう。これも簡単な作業ではありません。
共有解消にも、例え解消できたとしても、“上物”の問題が無視できない状況ですね。
そうした難問を抱えているからこそ、なおさら共有にしてはいけなかったし、してしまった以上、1日も早くそれを解消しなければならないわけです。この状態で名義人が4人、5人と増えていったら、目も当てられませんから。
それにしても不思議なのは、相続を担当した税理士さんは、どうしてそんな“タブー”を許したのか、ということなんですよ。私どものところに相談に来る方の中には、「税理士さんに勧められて共有名義にしました」という方もいらっしゃいます。
すべての税理士が相続に詳しいわけではない、という事実も知っておいてほしいのです。多額の財産、大きな不動産が絡む相続の場合は特に、「その道のプロ」に相談なさることをお勧めしたいですね。
◆「内縁の妻」は相続人? その子どもは?
「愛人」がいたゆえに、相続が複雑に
税理士として長く相続の相談を受けていると、「えっ」と思うような家族関係を目の当たりにすることもあるのでは?
それは珍しくないですよ(笑)。中には、超複雑なうえに、結局「嘘」がバレて一発逆転、なんていうケースもありました。ご紹介しましょう。 父親が亡くなって相続になった男性から、相談を受けました。遺産の総額は、現金に不動産、有価証券などを含めて、ざっと10億円程度でしたね。お母さんはすでに他界していて、他に血のつながった兄弟もいません。これだけなら相続人は依頼人1人という「簡単な相続」のはず。ところが、家族関係はことのほか複雑だったんですよ。
それはどうしてでしょう?
実は、60歳代後半だったお父さんには、40歳の愛人=「内縁の妻」がいたんですね。で、お父さんと付き合うようになってから、子どもができた。そこで、その子の認知をせがまれたわけです。「自分の子だから」と、お父さんはその通りにしました。それだけではありません。この女性には、彼と知り合う前にできた2人の「連れ子」がいたんですよ。お父さんは、「同じ兄弟なのだから、養子にしてやって」という彼女の願いを聞き入れて、その子たちも養子にしていたのです。
なるほど。「複雑」の意味が分かりました。
さて、この状態で相続になったわけですが、被相続人は遺言書を残していませんでした。ですから、法定相続分(※3)に則った遺産分割が基本になります。それではこのケース、相続人は誰になるでしょうか?
※3 法定相続分
民法に定められた、被相続人の遺言書がない場合の、相続人の遺産の取り分。
民法に定められた、被相続人の遺言書がない場合の、相続人の遺産の取り分。
相続人は誰なのか?
実子である依頼人は当然として、内縁の妻は相続人でしょうか? 残念ながら、被相続人と婚姻関係がない場合には、法定相続人にはなれないんですね。ならば、被相続人と彼女との間にできた子どもはどうか? 法律上の婚姻関係のない男女の間に生まれた子どもを「非嫡出子」といいますが、被相続人と血のつながっている彼には、相続人の資格があるんですよ。この場合、父親が認知していれば、実子=「嫡出子」と同じ扱いになります。 付け加えておけば、父親が認知せずに死亡した場合でも、DNA鑑定で親子関係が証明されればOK。これを「死後認知」といいます。また、かつては「非嫡出子の相続分は、嫡出子の2分の1」という民法の定めがあったのですが、2013年9月に最高裁でその規定に違憲判決が出て以降、遺産の取り分も実子と同じになったんですよ。 では、あと2人の登場人物、被相続人の養子は? 実は彼らも立派な法定相続人です。民法上、養子は実子と同等の身分が認められるんですね。相続税の計算上、法定相続人の数に含める養子の数は一定数に制限されていますが、民法上は何人でもかまいません。
この事例についてまとめると、相続人は、実子である依頼人と、被相続人が認知した子供+2人の養子という内縁の妻の3人の子供――の計4人。相続分はそれぞれ4分の1ずつということになりますね。
ところが、実際にはそうではなかった。「逆転劇」の顛末は、次にお話ししたいと思います。
◆「他人」に渡るところだった遺産を死守
認知した子どもの正体は?
さきほど、法的な婚姻関係のない「内縁の妻」は相続人にはなれないけれど、その人との間にできた子どもを認知したり、連れ子を養子にしたりすれば、その子たちは法定相続人としての身分を得る、というお話をしていただきました。
被相続人が認知した内縁の妻の子どもが1人、養子にしたその連れ子が2人いたのでしたね。ところが、このケースでは、この3人の「内縁の妻の子どもたち」に相続は認められなかったんですよ。問題は、被相続人が「認知」した子どもでした。調べたら、彼は被相続人の子ではなかったのです。
愛人が別の男性と作った子どもだったんですか! でも、どうしてその事実が分かったのでしょう?
依頼人である前妻の息子さんは、父親の生前から子どもが「父の子」であることに、強い疑念を抱いていました。そこで弁護士を立てて争い、DNA鑑定をやったのです。そうしたら、別人の子どもであることが判明した。自分の子ではないのだから、被相続人が生前にした認知は無効になりました。
DNA鑑定ですか。さきほど説明いただいた「死後認知」(※4)と逆パターンですね。
さてそうなると、「養子」のほうも問題です。これもさきほどお話ししたように、被相続人は内縁の妻の子をわが子と疑わず、だからこそ「同じ兄弟なのだから……」という彼女の懇願に応える形で、連れ子2人とも養子縁組をしたのでした。その前提が崩れたわけですから。 結局、依頼人は最高裁まで争って、父親のした養子縁組の解消も勝ち取りました。その結果、法定相続人は依頼人1人ということになったわけです。争わなかったら、遺産の4分の3が「他人」に流出するところでしたから、彼にとってはまさに「地獄から天国」の相続でした。
養子を解消するのは難しいと聞きますが。
はい。話したように、この事例でも最高裁まで争いました。弁護士さんは相当苦労なさったと思いますよ。養子縁組が社会にとって有用な仕組みであることは間違いありませんけど、結ぶのが比較的容易なのに対して、何かのトラブルで解消しようとしてもなかなかハードルが高いということは、頭の片隅に置いておいたほうがいいかもしれません。
※4 死後認知
法的な婚姻関係のない男女に生まれた子どもを父親が認知せずに死亡した場合に、DNA鑑定を基に父子関係を成立させる制度。
法的な婚姻関係のない男女に生まれた子どもを父親が認知せずに死亡した場合に、DNA鑑定を基に父子関係を成立させる制度。
見直したい遺言書の力
このケースでは、10億円という多額の遺産がありながら、被相続人は遺言書を書いていなかったんですね。逆に、「内縁の妻と子供に財産を譲る」といった内容のものがあったら、依頼人はいっそう困ったことになっていたかもしれませんけど。
そうですね。遺言書があれば、法定相続人以外に財産を譲るようなことも可能ですから。ただ、一般論で言えば、被相続人の遺志を示すことが、相続人の間の無用の争いを避けることにもつながるのですから、きちんとした遺言書を残すべきだと思います。私のところに、生前に相続に関する相談があった場合には、必ず「遺言書を書きましょう」とアドバイスするのですが……。
実行する人は少ないですか?
まだまだ多いとはいえません。かつ、「自分で作るから書き方を教えてほしい」という方が、けっこう多数派なんですよ。遺言書には、自分で書く自筆証書遺言書、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言書などがあるのですが、お勧めするのは「公正証書」です。自分で書くのは手軽でお金もかからないし、中身を他人に知られないというメリットもありますけど、紛失したり偽造されたりといったリスクも高くなる。せっかく遺言を残すのだったら、より安心・確実な方法を選ぶべきだと、私は思います。
◆15億円の相続税を「取り戻した」話
相談があったのは納税後だった
私は、すでに相続税の納税がすんだ後の「更正の請求」で、15億円の税金を取り戻したことがあるんですよ。会社を経営していたお父さんが亡くなり、現金などとともに、未上場のグループ企業十数社の株を相続した方が依頼人でした。相続した自社株の評価額が100億円を超えていたのですが、「あまりに高すぎるのではないか。調べ直してほしい」と相談にみえたのです。
相続を担当したのは、他の税理士さんだったんですね?
そうです。その自社株のおかげで相続財産が膨らみ、相続税は約50億円にまでハネ上がっていた。納税のために、自分の会社から借金までせざるをえなかったというのです。依頼を受けましたので調べてみると、その方の勘は正しかったんですよ。自社株の評価額には、十分引き下げの余地がありました。そこで、税務署に対して更正の請求をすることにしたのです。 「更正の請求」について説明しておきましょう。納税のミスは、なにも「過少申告」に限りません。税額の計算を間違ったり、あるいは不動産や株式などについて別の評価方法があるのにそれを採用しなかったりして、税金を多く支払い過ぎてしまうこともあるのです。それに気づいた時には、税務署に払い過ぎた分の還付を求めることができるんですよ。ただし、この更正の請求は、申告期限から5年以内。それを過ぎるとできませんから、気をつける必要があります。
このケースでは、評価額をどのくらい引下げられたのでしょう?
詳しく計算し直したところ、ざっと30億円ほど。そのぶんの税の払い過ぎが、約15億円に上っていたわけです。ちょっと驚く金額ですけれど、税務署は請求を認め、還付を受けることができました。
自社株の評価は、やり方で大きな差が出る
前に担当した税理士さんは、自社株の評価の仕方を間違えたのでしょうか?
いえ、正確にいうと「間違い」ではないのです。その税理士さんは、グループ企業の自社株を、すべて「純資産価額方式」という単純な方法で評価していたんですね。そのやり方ならば、確かに株価は100億円になります。しかし、非上場の会社の株式の評価方法には、会社の純資産額をベースに評価額を算定するその方式のほかに、事業内容の類似する上場企業の株式の株価に比準して株価を評価する「類似業種比準価額方式」、両者を併用する方式、さらには配当額に基づいて評価する「配当還元方式」といういくつかのやり方があるのです。
株価が市場で決まる上場会社と違い、非上場会社の自社株の評価は、難しいのですね。
どれが選択できるのかは、会社の規模などによっても違ってきますし、複雑なのは確か。ただそれだけに、評価のやり方によってその額には大きな差が出るともいえるわけですよ。この事例でも、税法に則って精密な見直しを行いました。
それにしても、頼む税理士によって納税額がそんなにも違ってしまうというのは、ちょっと怖い話でもあります。
率直に言って、非上場企業の自社株の評価に知識と経験のある税理士ならば、あんな乱暴な計算はしないでしょう。前に担当した税理士さんは、たぶんこの分野を「知らなかった」のだと思いますよ。 前にもお話ししましたけど、そもそもすべての税理士が「相続のプロ」ではありません。「法人には詳しいけれど、相続はやったことがない」というような人もいるわけです。相続を税理士に依頼する時には、そのことも念頭に置いていただきたいと思います。疑問がわいたなら、今回の依頼者のように、気軽に別の税理士に「セカンドオピニオン」を求めて欲しいですね。大切な財産を守るためなのですから、躊躇する必要はありません。
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