親が亡くなって遺産を調べてみたら、資産の多くがどこかに消えていた――。実はこうしたトラブルは、決して他人事のレアケースではないのです。なぜそんなことが起きるのか、防ぐためにはどうしたらいいのか?税理士の浅野和治先生は、「鍵は通帳と印鑑にある」と言います。
ところで、お金は誰が管理していますか?
2016/12/19
◆同居の長男が使ってしまった
前回、資産家女性の残した「全財産を家政婦に譲る」という遺言書が、有効だと認められた裁判の話をしました。娘さんたちは、逆に家政婦が親の資産を着服しているのではないか、と疑っていることも紹介しましたよね。あえてその主張が当たっていた、と仮定してみましょう。彼女は、どうして「ご主人さま」のお金を着服できたのか? 考えられるのは、資産の管理を任されていた、具体的には預金通帳と印鑑を渡されていた可能性です。これならば、機をみてお金を引き出すことができます。 特にご高齢の方には、「あの人になら大丈夫」と、懇意にしている人に印鑑まで託してしまうことが結構あるんですね。でも、それは厳禁だと申し上げておきます。大切な老後資金を失ってからでは、取り返しがつきません。
この手のお話で最も多いのは、同居して親の面倒をみていた長男が、自らのポケットに入れてしまうケースですね。他の兄弟が「遺産はどうしたんだ?」と問い詰めても、「親の介護に使った」の一点張りでらちがあかない。こうした場合、金融機関で調べれば、「いつ誰が預金を引き出したのか」は突き止めることができるでしょう。そこから「悪事」を追求できるかもしれません。ただし、「なくなった」お金を取り戻すのは、なかなか大変です。トラブルを予防するに越したことはないんですね。
誰が管理するのかを決める
実際には、親が高齢になって、他の人間が財産管理を行う必要が出てくることもあると思います。家族の誰かがその役割を担う場合には、「誰が通帳と印鑑を持つのか」を必ずみんなで話し合って決めることが大事です。そのうえで、「管理者」が毎年通帳の残高を公開するようにすれば、不測の事態はかなり軽減することができるはず。 ところが、意外にみなさん、この話し合いができないんですよ。「親の面倒をみている兄貴に、預かっている通帳を見せてくれとは、なんとなく言いづらい」とか。でも、そんな遠慮をしているうちに、親の財産はどんどん目減りしているかもしれません。
さらに安全を期したければ、例えば「家族信託」という手があります。家族信託とは、簡単に言えば、資産を持つ人(親)が、信頼できる家族と信託契約を結んで、持っている預貯金や不動産などの管理・処分を任せる仕組みなんですね。詳しい説明には紙数が足りないので、相続に詳しい税理士などの専門家に問い合わせてみてください。財産管理についての制約がとても厳しい成年後見制度(※1)と違って、所有する不動産が売り時だと思ったらすぐに行動に移せる、といった柔軟な仕組みになっているのが特徴です。
もっとシンプルに、生命保険を活用するやり方もあります。老後資金を確保したうえで、残りのお金で子供たちを受取人とする保険に加入するのです。資産を保険証書という証券にしておけば、おいそれと現金化はできません。遺残を分けるのと違って、基本的に被保険者がなくなったらすぐに子供たちが現金を受け取れるのも、生保のメリットといえるでしょう。
精神上の障害により、判断能力の十分でない人が不利益を被らないよう、家庭裁判所の選任する成年後見人が、財産管理や身上監護を行う制度。
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