人は、「相続に都合のいいタイミング」で亡くなるとは、限りません。場合によっては、遺産分割協議の間に、相続の条件が大きく変わってしまうこともあります。例えば、相続財産の「価値」が変化したら……。税理士の村越雅規先生は、こんな極端な事例に出会ったことがあるそうです。
相続した株が、直後の会社上場で“大化け”したら
2015/5/7
◆上場で、株価が50倍に!?
あれは、夫を2年前に亡くしていた、お母さんの相続(二次相続)でした。相続人は、長男と娘さん3人。結論を言うと、2000万円ほどの預貯金と有価証券がメインのお母さんの財産のほとんどをご長男が相続し、娘3人は、遺産分割協議書に同意する「判子代」として、それぞれ200万円ずつを受け取ることで、そんなに揉めることもなく、話はまとまりました。
しかし、この相続、ふつうだったら、そうすんなりとはまとまらなかったかもしれません。実はお母さんが持っていた「有価証券」とは、ある鉄道系の会社の株式、計3万5000株でした。この会社、相続が発生した時、すなわちお母さんが亡くなった時点では、未上場。しかし、およそ3ヵ月後に上場した結果、株価は“大化け”したのでした。
未公開株の株価は、どう決まるのか?
上場会社の株価は、「市場」での売買によって決まります。では、未公開株は? ここで、簡単におさらいしておくと、未公開株の「値決め」の方法には、大きく言って、①純資産価額方式②配当還元方式③類似業種比準方式――の3つがあります。 ①は、会社の純資産(総資産-総負債)を基にして、株価の算定を行う方式で、会社の大株主など、実質的にその会社を所有しているような場合などに適用されます。また②は、将来予測される株主が獲得する配当に着目して、株価の算定を行う方式です。さらに③は、類似の業種の上場会社との比較によって株価を算定するやり方で、相続や贈与の際には、①と③の併用、または、③のみによる評価が多く使われます。
さて、今回のケース。お母さんは、何の目的で株を持っていたのでしょうか? 3万5000株とはいえ、巨大企業の発行済み株式全体から見れば、「端数」に過ぎません。「会社のオーナーになりたい」とかではなく、配当などの利益を目当てにしていたのは、明らかです。ならば、株価の評価は②の「配当還元方式」が妥当、と考えました。
問題は、その価格でした。相続発生時、すなわち会社が非上場の段階での評価は、合せて200万円。ところが、遺産分割協議のさ中に上場したその会社の株は、売り出しから人気を集めて株価が上昇、ついには合計で時価1億円程度まで、50倍に跳ね上がってしまったのです。
「値上がり」の事実は、正直に話す
結果的に、相続財産である有価証券について、2つの、それも50倍もの開きのある「評価額」が存在することになりました。どちらにするかで、相続税の額にも雲泥の差が生まれることになります。 結局、私は、お母さんが亡くなった時点で財産を評価し、それに基づく相続税も計算して、遺産分割協議の資料を作成しました。株式の評価は「200万円」です。ただし、上場後に値上がりしていることを、他の相続人に正直に話すよう、ご長男にはアドバイスしました。その事実を「隠した」まま話を進めれば、後で揉めて、遺産分割協議のやり直し、といった事態も考えられるからです。
実際の協議の場では、長女の方から、「あら、この株、上場して上がってるんじゃないの?」という指摘があり、ご長男は「実はそうなんだ」と、受け答えをされました。3人の娘さんは、そのうえで遺産分割協議書に署名、捺印されましたから、「その件は了解」と判断できました。実は、この相続が争いにならなかったのには、娘さんが3人とも、比較的裕福な暮らしをしていたことと、お父さんが亡くなった一次相続の時に、それなりの遺産をもらっていた、という事情がありました。そういう意味でも、「レアケース」だったのかもしれませんね。
では、相続人が、「ちゃんと時価で計算して、分割してもらいたい」と考えたなら、どんな対処が有効なのでしょう?次は、その点を考えてみたいと思います
◆遺産の時価と相続税評価額の「差額」を考える
遺産の時価と評価額が、大きく異なることもある
さきほど、遺産分割協議中に、被相続人が残した総額200万円の評価を受けた未上場会社の株が、上場に伴って1億円に値上がりした、という事例を紹介しました。200万円は未上場時の評価額、1億円は遺産分割協議時の時価ということになります。このケースでは、相続税のことも考えて、前者で評価したうえで、すべてを長男が相続。裕福な暮らしをしていた他の3人の娘さんは、特に争うことなくそれを承諾した――というのが結末でした。
この場合、もちろん、時価評価である1億円をベースに遺産分割協議を行うこともできます。というか、むしろそちらのほうがふつうでしょう。「200万円という見かけの評価額をベースに独り占めするのは、おかしいじゃないか。実際には1億円の価値があるのだから、多少相続税を多く支払うことになっても、ちゃんと4等分すべきだ」という意見には、十分な説得力があるからです。
ちなみに、このように相続税対策の評価額と、時価との間に大きな差が生じる可能性があるのは、株などの有価証券に限りません。例えば、不動産の相場も、何らかの理由で、遺産分割協議を進めるうちに大きく変動することがあるでしょう。また、土地が「広大地」(*)の評価を受けられれば、その評価額は、時価の半分程度まで下がることがあるのです。
「相続税の計算」と割り切って考える
相続税を安くするために、遺産の評価額は、できるだけ低く抑えたい。でも、それに基づいて遺産分割を行うと、実際手にする遺産額に不平等が生じてしまう――。この矛盾を解決する手立ては、ないものでしょうか。 最も賢明なのは、相続税申告のための遺産の評価は、「節税のため」と割り切ってそれで申告することにし、遺産分割は、時価を念頭において行う、というやり方です。さきほどの非上場株の例で言えば、株は兄弟で4等分したうえで、他の資産については娘3人で分ける、といった形でバランスを取るのです。相続税申告のための評価額をベースにすると「不平等」だけれど、実際手にする遺産額は、デコボコが少なくなる、というわけ。
ただ、現実には、遺産相続に際して、こうした「評価額」と「時価」の差を意識する人は、ごくわずかです。多くの場合、税理士が作成した資料の数字を“丸飲み”して、遺産分割協議を進めているんですね。あとあと「カラクリ」に気づいて、「損した!」とほぞを噛んだり、時には相続人間のトラブルに発展したりすることもあるようです。
最低限、「相続額は、どのように決められるか」の知識は持ちたいもの。疑問があったら、遠慮なく税理士に相談してください。前でもお話ししたように、遺産分割協議を主導する人が、こうした「時価で得する財産」を引き継ぐ場合には、きちんとその事実を、他の相続人に話しておくことも大事です。隠そうとしたり、騙したりするのは、トラブルのもと。厳禁です。
*「広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいいます」(国税庁ホームページより抜粋)
◆本当にあった「世にも不思議な相続」
7人中5人が「遺産はいらない」
すでに妻を亡くしていた80歳代の自営業の男性が、土地や現金、合計で10億円を超える資産を残して亡くなった、という案件の、相続税申告の依頼を受けました。男性に子どもはおらず、親もすでに亡くなっていたため、民法の定めによる法定相続人は、男性の兄弟7人ということになりました。依頼にいらっしゃったのは、その中の長男に当たるAさんでした。
まず驚いたのは、Aさんを除く6人の兄弟のうち、遺産相続を望んだのが1人だけだった、という事実でした。他は、「全部、長男がもらえばいい」というスタンス。いわゆる家督相続のパターンです。
ちなみに、相続は放棄することもできます。負債も相続されるので、被相続人が大きな借金をしていた場合には、よく使われる手法ですが、稀に財産がもらえるのに相続放棄される方もいます。それにしても、頭割りにしても1人1億5000万円ほどになります。なぜ、5人もの人が「いらない」と言ったのか? Aさんに聞いても、明確な理由は判然としませんでした。みんな70歳以上の高齢でしたから、もらっても仕方がない、と考えたのかもしれません。
7人の法定相続人のうち5人が相続を放棄しましたから、本来は、残る2人で半分ずつ、ということになります。でも、もう1人の方も「自分は、7分の1でいい」とおっしゃって、兄弟間の遺産分割は、一応それでまとまりました。
漂ってきた「犯罪」の臭い
ただし、遺産分割協議は、今現在も最終決着には至っていません。わざわざ「兄弟間の……」と言ったのは、この相続には「続き」があったからです。実は、被相続人には、高齢になってから再婚した後妻がいて、その連れ子に3000万円程度の不動産を渡す、という遺言書を残していました。
事実は分かりませんが、ご長男によれば、そもそもこの再婚自体、「遺産目当て」の気配が濃厚だったそう。10億円という金額を聞けば、「なるほどな」と思える話ではあります。仮にそうだとしたら、後妻の方は、その目的を果たすこと叶わず、自分が先に死んでしまったことになりますが、問題は、Aさんが持ってきた、被相続人名義の預金通帳でした。被相続人が亡くなる数年前から、毎日、40万円ずつ引き出され、その総額が3億円程度にまでなっていたんですね。
Aさんの推測だと、預金を下していたのは連れ子。晩年、寝たきりに近かった被相続人が、毎日数十万円ものお金を使うはずはないし、後妻が亡くなってからも預金の引き出しが続いていた、というのが理由です。 この場合、被相続人と連れ子との間に、「あげる・もらう」という合意があれば、贈与ということになります。仮に、連れ子が勝手に引き出していたのなら、不当利得ですから、相続人は返還を求めることができます。返還された分を遺産に含め、あらためて相続分を決める、というのが本来の姿。もちろん、相続税の対象にもなります。 ただ、「被相続人のお金が、連れ子の手に渡っていた」というのは、あくまでも推測。もし返還請求を求めるとすると、「被相続人が下していたんだ」という主張を、覆す必要があります。これが、そんなに簡単なことではないんですね。弁護士さんを交え、現在、最終的な対応を協議しているところです。
◆ところで、遺産は誰に譲るべき?
「遺言書を書くのが怖い」
民法では、遺言書がない場合に被相続人の財産をどう分けるのかを、例えば「配偶者2分の1、子どもが2分の1」というように、法定相続分として定めています。裏を返せば、遺言書に書かれたことは、法定相続分に優先するのです。自らの遺志をきちんと表すために、きちんとした遺言書を書くのが理想であることは、言うまでもありません。
ところが、現実はどうかというと、なんとなくその大切さは分かっていても、したためる決心がつかない、という方がとても多いんですね。理由は様々で、今の高齢者は元気ですから、そもそも「自分が死ぬ」ということを、現実感を持って受け止められない方が、意外にたくさんいます。また、「うちの子どもたちは仲がいいから、遺言書などなくても、遺産で揉めたりはしない」という人がいれば、「遺言書で分配に差をつけて、争いになるのが怖くて書けない」という方もいらっしゃいます。
私が今、相続の準備を依頼されている70代の女性も、そんな方の1人。亡くなった夫が残した不動産や株を中心とする資産は、数億円のレベル。50代の息子は未婚、他方、娘は結婚して子どもがいます。 本来ならば、名を受け継ぐ長男に多くの財産を譲り、家を守っていって欲しいけれど、それをさらに引き継ぐべき、孫はいない。相続の後、独り身が寂しくなった息子が、突然、若い女性などと親密になるのも心配です。配偶者になると、息子が亡くなった時、法定相続分に従えば、遺産の4分の3は彼女のものになってしまうのです(*)。 考え始めるときりがないように思えますが、大事な資産を相続させるのですから、「先の先」までシミュレーションしてみるべきだ、と私は思っています。
家を継ぐのは誰か、面倒をみてくれるのは誰か
子どもたちに、遺産をどのように分けたらいいのか。悩ましい問題を解決する一つの方法として、次の2つの要素から考えてみることを提案しています。 まず、「家を継ぐのは誰か」。さきほどの例で言えば、子どもはなくとも、やはり長男と考えることもできるし、子どもがいる娘のほう、と割り切ることも可能かもしれません。一般的に、資産が先祖代々受け継がれてきたものである場合などには、当然、それを引き継ぐ人間を決めて、相続を行うことになるでしょう。その代わり、引き継いだ人は、法事をきちんとするとか、墓を守るだとかの義務を果たす必要があります。その形であれば、他の相続人からも、異論は出にくいと思います。
そしてもう1つ、「自分の面倒をみてくれるのは誰か」というファクターです。この点を考慮した遺言書もなく、例えば法定相続分に基づく「平等な遺産分割」になったために、兄弟間の争いが勃発する、という例は、枚挙にいとまがありません。
これら2つの要素の重要度は、家族によって異なるでしょう。後世に引き継がなければならない家業や資産があれば、前者のウエートは大きいし、介護に子どもの力は借りないというのだったら、後者は検討しなくていいことになります。それぞれのバランスを勘案しながら、一度整理してみることをお勧めします。
*このケースの法定相続分は、子ども(第1順位)がおらず、親(第2順位)もいないため、第3順位の「配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1」になります。
◆「自筆」の遺言書、書く人はラクだけど……
裁判所の「検認」が必要な「自筆証書遺言」
引き続き、遺言書のお話です。みなさんは、遺言書に、主として「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」の3つがあるのをご存知でしょうか? 内容を自分で書き、署名捺印したのが「自筆証書遺言」。それに対して「公正証書遺言」は、公証役場に出かけ、公証人に内容を伝えて書いてもらいます。「秘密証書遺言」は、自分で書いた遺言書を公証役場に持参して、「遺言書があります」ということを証明してもらうやり方ですね。いずれも、法的な効力に違いはありません。 誰が考えても、「自筆証書遺言」が、一番手軽ですよね。作成の手数料も必要ないし、遺言の内容を、公証人などの他人に知られることもありません。ということもあって、「自筆の遺言の書き方」についての本や、ネット情報などが花盛りなのですが、ちょっと待ってほしいのです。「手軽な」遺言書には、ミスも起きやすいもの。うっかり日付を入れ忘れたりしたら、それだけで法的効力はゼロになってしまいます。
加えて申し上げたいのは、遺言を書く人にとっては、「比較的簡単で楽」かもしれませんが、遺産を受け取る相続人は、「自筆」だったために、いろいろと大変な思いをしなければならないこともある、ということなんですよ。
例えば、「自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」を有効にするためには、家庭裁判所にそれを提出して、「検認」という手続きを経る必要があるんですね。けっこう煩わしいうえに、「遺産をやりたくない」と考えていた相続人のところにも、「検認期日に来るように」という知らせが届きます。被相続人が亡くなって相続人になったのをそれで知り、出かけてみたら自分の取り分はゼロだった、というのは、十分揉め事の原因になり得ます。「公正証書遺言」だったら、この手続きは不要で、速やかに遺言を踏まえた相続手続きに入ることができます。
預貯金の「凍結解除」にも「障害」に!?
加えて、私の経験上、声を大にして警鐘を鳴らしたいのは、亡くなった方の預貯金の引き出しに際してのトラブルなのです。これは、「ノウハウ本」などにはあまり出てこない事実なのですが、同じようなケースに何度か遭遇したことがありますから、けっこう多発しているのではないでしょうか。
ある人が亡くなると、その人の預貯金は、金融機関によっていったん「凍結」されます。法的に有効な遺言書があるか、遺産分割協議が整えば、凍結は解除されることになっているのですが、その遺言書が「自筆」の場合、金融機関がなかなか解除に応じないことがあるんですよ。 直近の事例では、4つあった被相続人の口座のうち、2つの金融機関が「出し渋り」ました。有効な遺言書でしたから、これは「不当な」扱いなのですが、彼らにも「遺言通りお金を渡した後に、他の相続人からクレームを受けたら困る」という理屈がありました。
正確に言うと、2行が問題にしたのは、「自筆証書遺言か公正証書遺言か」ではなく、「遺言書に『遺言執行者』が明記されていない」ということでした。遺言執行者とは、相続人の代理として、財産目録の作成、相続財産の管理、遺言の執行に必要な一切の手続きを行う人のこと。相続人の一人でも構わないし、弁護士や行政書士などの専門家を選任することもできます。その人に払い出すのなら、自分たちの責任がウンヌンされることはない、というわけ。
「自筆」を問題にしたのではない、と言いましたが、「公正証書遺言」を作ろうという場合には、多くの場合、専門家が「遺言執行者を付けませんか」とアドバイスするもの。「自筆証書遺言」に比べて、格段に安全性が高まるのは、明らかだと思います。 さて、今のケース。1行は、相続人全員に確認の手紙を出すことでようやく引出しに応じたものの、もう1行は数ヵ月経った今も、凍結解除に応じていません。とかく「法的な有効性のみに目が向きがちな遺言書ですけど、現場では、こうした実務上の問題も発生することがある」ということを、ぜひ知っておいてほしいと思います。遺言者の意思を確実に伝えたいのならば、やはり「公正証書遺言」がお勧めです。
◆相続で揉める。それも“アリ”ではないでしょうか
「黙って遺産が手に入る」という気持ちではいけない
遺産相続に関する私たち税理士の仕事は、できるだけ依頼者の利益に沿って、相続税の申告をきちんと行うこと。遺産分割協議がスムーズに進むよう、手立てを尽くすこと。遺産をめぐって相続人間の争いが起きたりしないように、十分な配慮を心がけるのは、当然のことです。
ただし、「場合によっては、多少揉めるのも仕方がない」というのが、私の持論です。「他人事だと思って、何を無責任な」と怒られるかもしれません。でも、遺産相続って、誤解を恐れずに言えば、親などの親族の財産を「タダでもらう」ことですよね。特に数億円単位のものを引き継ぐような場合には、相応の「苦労」も必要なのではないか、と感じるのです。
相続人の中には、遺産はもらえて当然、という雰囲気の人も少なくないのですけれど、相続は、そんなに「軽い」ものではないはず。揉めたら揉めたで、仕方ない。それを乗り越えてこそ、遺産を受け継ぐ意味がある――というのが、ここまでの経験も踏まえた、私の本音です。
みんなが納得する相続はない
もちろん、「何でも主張して、大いに争いなさい」などと言うのではありません。例えば、相続税の申告・納税期限は、相続のあったことを知った日、要するに被相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内、と定められています。この日までに遺産分割協議がまとまっていないと、相続税の「配偶者控除」などが受けられず、結果的に税金を多く支払わなければならないことになる可能性があります。だから、当然のことながら、どこかで折り合いを付ける必要があります。これも経験上申し上げておけば、相続人全員が納得する遺産分割というのは、まずありません。みなさん、最後には、ニコニコしながら遺産分割協議書に判を押されます。でも、心の中までニコニコしているわけではないんですね。多かれ少なかれ、お互いに「やっぱりおかしい」とか「悔しい」だとか、何かしら割り切れない感情を抱きつつ、しぶしぶ同意するわけです。その感情の部分まで、我々税理士が入り込むことはできません。
相続人同士が、お互いに主張して、もらうものはもらい、譲るものは譲り、最後は妥協してまとめていくのが、遺産相続。決して簡単なものではありません。相続人になったら、そのことを認識して、ある意味「覚悟」を決めて、話し合いの場に参加してほしいと思うのです。
◆相続に反映する「親の心」を考える
「理解」はできる、大塚家具元会長の気持ち
大塚家具の“お家騒動”が、世間の耳目を集めました。経営方針の是非は別にして、「一代で築いた会社を、娘に勝手に変えてほしくない」という、お父さんの気持ち自体は、分かるような気がします。特にあの世代の経営者には、決して珍しいタイプでもないでしょう。 レベルはまったく違いますけど、亡くなった私の父親も、そんな世代の人間でした。私の父は、農業を営んでいましたが、堂々と「農家魂」と口にするような、職業に対してプライドを持った人だったのです。死ぬ間際まで、病室のベッドに横になりながら、両手を突き出して「農作業」をやっていたんですよ。
さて、子どもは長男の私を筆頭に、男だけ3人の兄弟ですが、農業を継いだのは3男でした。当然といえば当然ですが、そんな3男を、父親はことのほかかわいがり、相続も彼に手厚い内容で行いました。むろん、納得はしましたけど、長男としては、ちょっとだけ複雑な心境になったのも事実です。
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