被相続人が自らの意思を書き記す「遺言書」。それさえあれば、相続争いは起きない……と思いきや、現実には遺言書があったがために「争続」が勃発するケースが、少なくないのだそう。思いを伝えたのが原因で子ども同士がいがみ合ったのでは、故人も浮かばれません。そうならないために、最低限できることは何なのか、税理士の久野豊美先生に聞きました。
遺言は「争続」のもと!?
そうならないためにできることは
2015/2/17
◆遺言は「不公平」を語る
私は、相続人の間で相続分割が決まらない状態=未分割の案件を、今も数件抱えています。そのすべてで、被相続人の遺言が残されていました。「争いを防ぐために遺言書を残そう」というのが一般的なアドバイスなのですが、少なくとも私の経験上は、「遺言書のある方が争う」のです。 考えてみれば、複数の相続人に対して完全に「公平に」相続させようという人は、遺言書を書く必要性を感じないのかもしれません。あえてそれをやるのは、何らかの差をつけようとするから。実は、遺言書は「不公平」を語っているのです。だから、差をつけられたほうが不満を覚え、遺留分減殺請求などで自らの取り分を主張することになるわけですね。
こと遺産相続に関しては、いったんこじれてしまうと、修復は困難です。双方が弁護士を立てるような事態になると、話はその代理人同士で進めることになりますから、税理士の出る幕はなし。申告期限である、相続が発生してから10カ月以内に決着のつくことは、まずありません。 ちなみに、未分割のまま申告ということになれば、「小規模宅地の特例」も「配偶者控除」も使えません。「多額の相続税を持って行かれますよ」という話をするのですが、そこまで来ると、お互い“聞く耳持たず”の状況になってしまいます。
◆遺言の中身は、事前に公表すべし
とはいえ、私は決して「遺言は書くな」と言っているのではありません。そこは、誤解なきよう。特に、自宅や土地など不動産が未分割になると厄介です。「この土地は誰それに守ってほしい」という意思を明確に示して、すんなり名義変更が進む手立てを打っておくべきでしょう。 その場合に大事になるのは、相続人全員に、遺言の中身を明らかにしておくことです。ある日突然、遺言の存在を知らされ、しかもどう考えても自分に不利なことが書かれている、というシチュエーションが、揉め事のタネになるのです。
日本人は、生前に遺産相続の話というのをタブー視しがち。特に、子どもの側からはなかなか切り出しにくいものです。しかし、相続によって幸せになるのも、思わぬ災いを背負い込むのも、子どもなんですね。親の側が、まずそこのところを考えてみてほしいと思うのです。 「介護してくれる娘にこれだけ渡す」「土地と家は長男に守ってもらうから、次男にはこうしたい」。そういう親の気持ちがストレートに伝わっていれば、「争続」の可能性はずいぶん減らせるのではないでしょうか。
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