「自分が死んだら、財産はこう分けて欲しい」。そういう意思を、残る人たちにきちんと伝える遺言書は、無用の相続争いを防ぐうえでも重要です。でも、書き方を間違えると、思いとは異なる結果を生む可能性も。大貫利一税理士事務所の大貫利一先生は、こんな遺言書に出会って、戸惑った経験があるそうです。
「考えすぎ」の遺言書が、
アダになることもある
2017/7/25
◆生半可な知識で、大きな失敗を
1つ事例を紹介しましょう。あるお医者さんが亡くなって、相続になりました。奥さんはすでになく、法定相続人は、先妻の子1人と後妻の子ども2人の計3人でした。で、お父さんはその後妻の子のほうにすべての財産を譲りたいという気持ちを持っていて、そういう中身の遺言書を書いた……つもりだったんですね。ところが、文面は、その意向とは違うものになっていたのです。
「自分で書く」危うさもある
あえて付け加えておくと、仮に「全財産を後妻の子に譲る」と遺言書に書かれていたとしても、前妻の子は1円も遺産をもらえないかというと、そんなことはありません。民法には、法定相続人が最低限受け取れる遺留分が定められていて、この部分については、請求すればもらうことが可能です。
ところで、実はこの相続は、「被相続人の遺言書のミス」とは別の大きな問題を抱えていたんですよ。次にお話ししましょう。
◆相続人に行方不明者がいたら、 相続はどうなる!?
先妻の子がどこにいるのか、わからない
日本のような戸籍のないアメリカでの人探しって、大変なんですよ。生年月日と苗字を頼りに、「ここが終わったら次はそこ」という具合に、州ごとにしらみ潰しにしていくわけです。州を越えるごとに新しくコストが発生するし、時間もかかります。結局、調べ終わるのに2年ほど費やしました。
苦労の末に、親のミスは帳消しに
ただ、結果的には、それも“怪我の功名”だったんですよ。相続人が減ると、相続税の基礎控除(※2)が減額になりますから、修正申告して追加で税金を支払う必要が生じますよね。ところが、面倒な調査を重ねているうちに、「納税義務が発生してから5年」という相続税の時効を経過したため、その必要がなくなったのです。結局、お父さんの財産は、その遺志通り、後妻の子ども2人が半分ずつ分けておしまい。父親のミスは、思わぬ形で帳消しになりました。世の中には、こんな相続もあるんですよ。
生死不明が一定期間以上続いた場合に、その人を死亡した者とみなす制度。
※2 相続税の基礎控除
課税のボーダーラインとなる遺産総額。「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、遺産総額がこれ以下なら相続税はかからない。
◆相続になってわかった、 あの人の「素顔」
近寄りがたいほど厳しい人だった
私は、毎年、その家の税務申告をお手伝いしていましたので、その相続も担当させていただくことになりました。公務員をしていた次男の方とも、もともと面識があったのですけど、謹厳実直を絵にかいたようなタイプで、気難しそうなところもあり、ちょっと近寄りがたい雰囲気だったんですよ。
預けたはずの“金”がない!
もしかしたら、そこは唯一心を解放できる空間だったのかもしれません。「こんなにも秘密の多い相続ははじめて」という意味で、大変印象に残る相続でした。
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