裁判までして相続した会社を、
部外者に乗っ取られた

裁判までして相続した会社を、  部外者に乗っ取られた

2017/8/3

 
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遺産分割をめぐって、親族同士が骨肉の戦いを繰り広げる「争続」。時には、相続人の間の話し合いではまとまらず、裁判に持ち込まれることもあります。今回、大貫利一税理士事務所の大貫利一先生にご紹介いただくのも、そんな事例です。ただし、もともと複雑な家族関係だったのに加え、部外者の「参入」でさらに争いは混沌、出口の見えない状況に……。

◆会社は生前贈与されていた

今回も、ベテランの先生が手を焼いた事例を紹介してください。
私自身、ちょっとしたミスを犯してしまった相続の話をしてみましょう。ちょっと前の案件なのですが、被相続人はいくつかの会社を経営していたお父さん。私は、そこの顧問税理士でした。被相続人には、離婚した前妻がいて、彼女との間に子どもが3人。そして、亡くなる半年前に入籍した後妻がいました。で、なぜか別れた前妻と同居していて、後妻は別の家に住んでいたんですね。
すでに争いの予感がします。
当然、前妻側と後妻は仲が悪い。特に前妻の長男とは犬猿の仲だったんですよ。さて、相続になってまず揉めたのは、「会社を誰が引き継ぐか」ということでした。お父さんは遺言書を残していて、そこには「すべての会社を後妻に譲る」とあったんですね。ところが、保有する中で最も大きな会社の株を、長男に生前贈与していたんですよ。実は、私は息子さんに「贈与契約書を作って欲しい」と頼まれて、書式だけ整えて二人に送っていました。ところが、後妻のほうは、「遺言書の中身に照らせば、贈与契約は虚偽に違いない」と、長男を訴えたのです。判決は、「契約はOK」。で、その会社は、長男が受け継ぐことになりました。これがまあ、第1ラウンド。

家も土地も奪われる!?

まだ続きがあるんですね。
はい。まず、相続税の申告準備を始めようとしたら、私は外されてしまった。後妻には、私が前妻サイドの代理人のように見えたのでしょう。そこからは、別の税理士さんがやることになり、とりあえず財産未分割(※1)のまま、申告はしたのです。ところが、案の定今度は「会社以外の財産」でバトル勃発です。そのさ中、とんでもない事実が発覚しました。会社を継いだはずの長男が、自社株を全部、部外者のA氏に渡していたんですよ。「借金のカタ」だったそう。
これは一大事で、その会社は、譲渡担保(※2)の形で、自宅の土地、時価5億円ぐらいの不動産を取っていました。長男は、会社からも借金していた。いずれにせよ、会社を乗っ取れば、もれなくそれがついてくるというパターン。おそらくA氏の狙いはそこにあったのでしょう。加えて、渦中の長男は、急死してしまいました。
まるでドラマのような展開です。
弁護士さんと協力しながら、なんとか財産を取り戻すべく奮闘したのですが、以後の話は、次にお話ししましょう。
※1 未分割申告
相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月以内)に遺産分割が間に合わない場合に、いったん法定相続分(民法で定められた、相続人の取り分)で相続したと仮定して、申告、納税すること。

※2 譲渡担保
担保である財産権をいったん債権者に譲渡し、債務者が債務を弁済した時に返還するという、債権の物的担保制度。

◆法改正の判断ミスで、 払い過ぎの相続税を取り戻せなかった!

手立てを尽くして、財産を取り戻した

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長男が、父親から相続した会社の株を第3者に渡してしまい、このままでは譲渡担保(※3)に入っている自宅の土地も取られてしまう――。さきほどは、そんなお話でした。
どうにかできないかと、弁護士さんと協力して、後妻に渡った他の数社と長男との債権債務関係を調べてみたら、これがまたハンパではないわけです。「長男の会社」も含めた会社相互のやり取りも、かなりありました。詳述は避けますが、それらを一つひとつ精査し、対策を打った結果、A氏に渡った会社を“もぬけの殻”にすることに成功したんですよ。実質的に、譲渡担保を消すことができたのです。
そうやって、自宅が戻って来たところで、あらためて遺産分割協議を行いました。ここからは、「私が申告をする」と宣言して、再び担当させてもらいました。ところが、申告をやり直そうと、別の税理士さんの作った以前の申告書を見たら、例えば不動産の評価額が高すぎるのです。そこで、新たな遺産分割と合わせて「更正の請求」をしようと考えました。

「更生の嘆願」をしていれば……

更正の請求ができるのは、申告期限から5年です。すったもんだがあって、かなり時間を費やしてしまいましたが、まだ間に合うはずでした。この案件の場合、リミットは2016年3月。あらためて申告したのが、その年の1月ですから、悠々セーフだと思っていたのですが……。リミット直前になって、税務署から「この請求は認められませんよ」と連絡が入ったんですよ。
実は、更正の請求が5年認められるのは、「申告期限が2011年12月2日以後の相続」なのです。それ以前の相続の場合は、1年だった。この案件は、後者だったのです。ただし、その場合にも「更生の嘆願」というやり方がありました。それが認められれば、やっぱり5年遡れるんですね。「請求」ではなく「嘆願」にすべきでした。
両者の違いは、何ですか?
前者は納税者の権利、後者はあくまでも「お願い」で、否認されても争いを起こしたりはできないんですね。でも、税務署が認めれば、効力は同じです。それにしても、2ヵ月前に申告しているのに、ギリギリになって「NO」を言ってくる税務署のやり方にも、腹が立ちましたね。失いそうになった自宅を取り返したことで、相続人から感謝されたのは救いでしたけど。
※3 譲渡担保
担保である財産権をいったん債権者に譲渡し、債務者が債務を弁済した時に返還するという、債権の物的担保制度。

◆相続は、「申告しました」で 終わりではない?

相続は、誰でもできるわけではない

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いくつか相続の事例をうかがってきましたが、どれも前例のないようなお話で、どんな税理士さんでも扱えるという案件ではないように思います。
私は、もともと資産税、相続税に特化した事務所にいて、そこでかなり鍛えられました。当時は、まだ相続をやる人は少なかったのですが、今は“ブーム”のような感じにもなっていますよね。それだけに、経験の浅い人が「ベテラン」を名乗るケースも増えているようです。悪口を言うつもりはないのですけど、ネットの記事を読んでいて、「この人、本当にできるんだろうか?」と感じたりすることも、しばしば。さきほどの事例もそうでしたが、いったん別の税理士さんがやった申告を「修正」することも、けっこうあるのです。
ただ、私はそういう「難しい」事柄の解決だけではなくて、最後までお客様をフォローするといったサービスも大事にしているんですよ。申告が終わった後の精算まで面倒をみる税理士は、そう多くはないと思うのですが。

相続が終わってから、発生するやり取り

清算というのは?
相続税の申告は、あくまでも相続発生時、すなわち被相続人が亡くなった時点の財産がベースになります。分かりやすい例を挙げれば、長男が預金、長女が株を相続したとします。株の配当金は、長女が譲り受けた通帳の口座に入るはずだったのだけど、相続発生後、一部が長男のほうに振り込まれてしまった。この場合は、そのぶんを長女に戻す必要が生じるわけです。相続発生後に、被相続人名義の預金からお金が引き出されていて、「私の相続財産が目減りしている!」といったケースも起こりえるでしょう。そういう時には、それが通帳を管理していた人間が個人的に使ったのか、それとも葬儀費用だったのかといったことも調べたうえで、清算しなくてはなりません。
こうした作業は、普通は遺言執行人(※4)がやるんですね。財産をいったん執行人の口座に集めて、今お話ししたような調査などを行った後に、相続人に振り分けて、清算書を作成するのです。「AさんはBさんにいくら振り込んでください」「CさんはBさんからいくらもらってください」と。ただ、私は遺言執行人になっていなくても、基本的にそこまでやることにしているんですよ。引き受けた以上、最後まで感謝されて終わりたいですから。
※4 遺言執行人
財産目録の作成、相続財産の管理、遺言の執行に必要な一切の手続きを行う。相続人の1人がなったり、弁護士や司法書士など専門家に依頼したりすることができる。
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