甥、姪を含め相続人が8人。
遺言書がややこしい揉め事を防いだ

甥、姪を含め相続人が8人。  遺言書がややこしい揉め事を防いだ

2019/6/14

 
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相続人は、配偶者や子どもとばかりは限りません。場合によっては、兄弟姉妹、甥や姪が「名乗りを挙げる」こともあります。そんな時、自分と「縁遠い」人たちに遺産が渡るのは納得がいかないと考えるケースが、あるかもしれません。そこで威力を発揮するのが、遺言書です。中島宜秀先生(税理士法人けやきパートナーズ)に、事例を踏まえてお話しいただきます。

「妻に全財産を譲る」という遺言書は有効か?

先生の事務所は、相続に高い実績をお持ちです。印象に残る事例をご紹介いただけますか?
遺言書の効力を強く感じた、こんな事例がありました。80歳代の男性が亡くなって相続になったのですが、その男性には子どもがいませんでした。両親も亡くなっていたので、相続人は、配偶者である妻と自分の兄弟たちということになります(※1)。4人兄弟のうち、存命しているのは弟1人でしたけど、他の兄弟には子どもが合わせて6人いました。亡くなった男性から見て甥、姪に当たるその人たちも、相続人(代襲相続=※2)です。ということで、相続人は合計8人になりました。

この状態で法定相続分に従って遺産を分けると、妻が3/4、残りの1/4を弟と甥、姪たちで案分することになります。遺産は、不動産を中心に10億円超の評価がありましたから、1人当たりにしても、けっこうな金額でした。甥、姪といっても、すでに60歳代くらい。リタイア後の老後の生活資金が気になる年代ですから、「もらえるものなら、少しでも欲しい」という心理になったとしても、おかしくはないでしょう。

相続人がそれだけいるのだし、揉め事が起こる可能性は十分ありますよね。そこに、お母さんが巻き込まれるかもしれない。
でも、このケースでは、そうなりませんでした。男性が「全財産を妻に譲る」という遺言書を残していたからです。法定相続分というのは、有効な遺言書がない場合の遺産の分け方を示したものですから、遺言書があれば、そこに書かれた内容が優先するわけです。なおかつ、このケースでは、他の相続人の遺留分も問題になりません。
「遺留分」というのは、遺言書の内容に関わらず、相続人が最低限受け取れる遺産の取り分のことですね。
例えば、相続人が妻と子ども1人というケースで、夫が「全財産を妻に」という遺言書を残していたとしても、子どもには、法定相続分1/2のさらに1/2=1/4の遺留分が認められ、これを侵すことはできないのです。

しかし、この遺留分が認められる相続人は、基本的に配偶者と子ども、親のみで、兄弟姉妹には適用されません。ですから、今の事例は、遺言書の内容通り遺産のすべてを奥さんが相続することで、すんなり決着。被相続人の遺言がある以上、揉めようがなかったわけです。

確かに、遺言書の威力をまざまざと見せつけた相続ですね。
ただし、注意点を付け加えますと、兄弟姉妹には遺留分がないものの、もし相続した配偶者が亡くなった場合には、配偶者の兄弟に相続財産がいってしまいます。今回のケースでは、その点も了承の上で進めることができました。
※1 法定相続人には、第1順位(子ども)、第2順位(親)、第3順位(兄弟姉妹)が定められており、先の順位の相続人が1人でもいたら、後の順位の血族は相続人にはなれない。
※2 代襲相続 被相続人(遺産を残す人)の亡くなる前に相続人が死亡していた場合に、その子や孫が代わって相続人になること。直系卑属(子や孫)と兄弟姉妹に認められる。

遺言書は「お守り」だと心得る

今の事例では、先生が男性に遺言書を書くように勧めたのですか?
そうです。おっしゃるように、遺言書がないと揉めそうな条件が揃っていましたから。書かれた時は、80代とはいえまだお元気でしたけど、結局1年ちょっとでお亡くなりになってしまったんですよ。結果的には、ギリギリのタイミングでした。
現実には、ピンピンしているのに「遺言書を書いてください」と言われるのには、抵抗を示す人が多いようです。
そうですね。ただ、私は遺言書を「お守り」のつもりで書いて欲しいと思うのです。
お守りですか?
「子どもたちが遺産分割で揉めるわけがない」と考えていても、親が死んだ後にどう状況が変化するか、わからないでしょう。いざという時のために、自分の考えを書き残しておくのです。何事もなく相続が終わればそれでよし、想定外のことが起こっても、「お父さんの遺言書があるんだから」というのは、トラブルの抑止力になるはずです。

「遺言書は、一度書いたら変えられない」と思い込んでいる人も、意外に多いんですね。でも、そんなことはありません。ある程度時間がたてば、資産の状況や、相続人に対する気持ちにも変化が生じるかもしれません。そんな時には、あらためて書き直せばいいのです。

細かなことですが、公正証書遺言書(※3)を1から作り直すと、最初に支払ったのと同じ費用が発生します。一部修正であれば、コストは低く抑えることができるでしょう。ただし、その際には、相続が発生した時に「以前の遺言書には、何と書かれていたのか」が、相続人の間で問題になる可能性もあります。

「どうして私は減額されているんだ」とか。
それが争いの火種になることもありえますから、そうしたリスクが感じられる場合には、費用には目をつぶって、作り直すことをお勧めします。

ちなみに、相続人も、100%遺言書の内容に従う必要はないんですね。遺言書を書いた時点から、持っているアパートの棟数が増えているとか、預金の額が大きく変わっているだとかいうことも、現実にはありえるでしょう。あまりに不公平な中身が書かれているかもしれません。そうした場合には、遺産分割協議書(※4)によって、分割の仕方を変えることも可能なのです。ただし、相続人、受遺者全員の合意が必要ですから、それができるくらい仲が良い、というのが前提になりますが。

※3 遺言書には、すべてを自分で書く「自筆証書遺言書」、公証役場で公証人に代筆、保管してもらう「公正証書遺言書」、自分で書いて公証役場に持っていく「秘密証書遺言書」がある。
※4 遺産分割協議書
相続人が遺産分割協議で合意した内容を文書にまとめ、相続人全員の合意書として成立させる書類。

中島宜秀(税理士)プロフィール

税理士法人けやきパートナーズ 代表社員
2008年に税理士登録。相続税・贈与税などの資産税に特化し、相続対策に強みを持つ資産税のプロフェッショナル。現在は資産税と法人監査を両軸に、税務・会計以外の各種相談業務も行い、お客様目線に立った対応を心掛けている。
URL: http://www.keyaki-pt.com/

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