第三者を入れて話し合う
「調停」だからまとまる相続もある

第三者を入れて話し合う  「調停」だからまとまる相続もある

2020/1/22

 
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相続人の間で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」がまとまらない場合、家庭裁判所に「調停」を申し立てることができます。調停では、家事審判官(裁判官)と調停委員が、双方の話を聞きながら、解決の糸口を探っていくことに。そのようなかたちで当事者以外の第三者が関与することで、こう着状態が打開できることも多いそうです。調停委員も務める鈴木佳美先生(ケアーズ鈴木佳美税理士事務所)にうかがいました。

「お前も大変だったんだな」のひと言が

遺産相続の話し合いが相続人同士ではまとまらずに調停に持ち込まれると、もう「戦闘モード」だから協議はまとまらない、という人がいます。実際はどうなんでしょう?
当人たちで話し合って駄目な場合に調停に持ち込まれるわけですから、いろんな意味で難しい状況になっているのは、確かでしょう。ただ、舞台を「公」の場に移して、専門の人間に話を聞いてもらうことで、煮詰まった議論が解決に向かうのは、珍しいことではありませんよ。こんな事例がありました。

相続人は男性の3人兄弟でした。上の2人が60歳代で、三男が50歳代だったでしょうか。みんなそれなりに頑張って仕事をしてきたのですが、上2人がより頑張って、暮らし向きも豊か。彼らは「1円でも多く欲しい」というスタンスではありませんでした。

どういう揉め事になったのですか?
簡単に言うと、お兄さんたちは、「法定相続分に従って1/3ずつ分ける」。それに対して三男の方が「自分が多めにもらいたい」というパターンです。ただ、亡くなった親は、特に末っ子がかわいかったのか、生前に結構な額のお金を渡していました。
成功した兄たちに比べて、心配だったのかもしれませんね。
とはいえ、兄にすれば、「遺産ぐらい平等に分ければいいだろう」と。調停は、1ヵ月半くらいのブランクを置いてやるのですが、そんな状況が続いて、上の2人は弟のことをだんだん悪く言うようになりました。ついには、「もう顔も見たくない」と口にするようになってしまったんですよ。
それはピンチです。どうしたのでしょう?
調停では、基本的に「対立」する双方の意見を別々に聞き、その内容を相手側に伝えて意見を言ってもらう、というのを繰り返します。この事例では、上の2人と三男の方にそれぞれ対応していたのですが、1回、一緒に話してみたらどうか、と提案したのです。3人の様子を見ていると、なんとなく普通に話せそうな感じがあったので。

結果は大成功でした。三男の方も、無理を言って少しでも多く遺産をせしめてやろうというタイプではなかったんですね。その話を聞いていた長男が、「お前も苦労したんだな」とぽろっと言ったのです。その一言で、一気に張り詰めた場の空気が溶けました。帰りがけには、「お前もこれから頑張れよ」「ありがとう」って。

調停委員冥利に尽きるお話しですね。
このケースは、どちらも弁護士を立てていなかったことが、ラッキーでした。代理人が選任されていれば、「相手と一緒に話すなど、もってのほか」ということになっていたでしょうから。

弁護士が「まとめる」こともある

かと思えば、こんな事例もありました。相続人は、兄と妹の子ども2人。兄は一部上場企業で働いていて、遠くに転勤になったため、妹が施設に入っているお母さんの面倒をみていました。ところが、介護疲れもあって、亡くなる2年ほど前に、お母さんとの関係がギクシャクした感じになってしまった。

一方、長男のほうは、時々上京してはお母さんのところにも顔を出していたのですが、あるときから「母親は俺がみるから」といって、妹が施設に入ることさえ禁じたんですね。で、お母さんが亡くなってみたら、「全財産を長男に譲る」という遺言書が残されていた。

いろんなことが想像できるシチュエーションですね。
長く介護してきた妹さんは、当然、そんな遺言書は認められないと言って、家庭裁判所に「遺言無効確認請求訴訟」を起こしました。この場合、基本的にまず調停が行われます。そういういきさつで、この案件に関わるようになったわけです。
訴訟を提起するくらいだから、もう弁護士が付いているのでしょう。
はい。お兄さんも代理人を立てていました。ところが、このケースはさきほどと違い、弁護士に頼んだのはラッキーでした。双方の弁護士が調停に対する理解がとてもある人たちで、「なんとかまとめましょう」というスタンスで、事案に臨んでくれたのです。

まずやったのが、妹さんに遺言無効確認請求を取り下げてもらうこと。遺言書を書いた当時のお母さんの具合がどんな様子だったのかとか、お兄さんが無理やり書かせた事実があるのかとかを明らかにするのは、非常に困難だというのが大きな理由です。一方、たとえ「100%〇〇に譲る」という遺言書があったとしても、相続人には最低限受け取れる遺留分が認められています。この場合、妹の遺留分は25%。ですから、兄75:妹25をベースに、どれだけ50:50に近づけるかという、いわば「条件闘争」をすることにしました。

妹さんは、それで納得したのですか?
彼女がクレバーだったのは、請求を取り下げ、「条件闘争」に乗ってくれたことです。お兄さんのほうも、妹に遺留分があることはわかっていますから、協議には応じてもらうことができました。

結局、やり取りの末に出た結論が、妹さんの分が33.75%という魔法の数字(笑)。双方のギリギリの妥協だったことがわかると思います。でも、これは調停だから出せた結論なんですよ。代理人同士が角突き合わせて裁判になっていたりすれば、「長女には遺留分である25%」となっていたはずです。

調停は「終わらせ方」が大事になる

調停というのも、人の気持ちを動かしていく作業だと感じます。先生が特に気をつけていることはありますか?
遺産分割は、最後は数字ですから、その折り合いをつけてもらうことも、もちろん大事なのですが、私は「終わった後の関係づくり」に気を留めています。この事例の当事者たちが、その後どうなったのかはわからないのですが、「相続はなんとか片が付いたものの、兄弟仲は修復不能になってしまった」というのでは、悲しいですから。
残念ながら、仲が悪くなることは現実には珍しくないようです。
相続人の方も、そういうことには絶対にしないという気持ちを持って、話し合いに臨んで欲しいんですよ。

【この記事は実話を基に作成してますが、情報保護の観点より、内容を一部加工させていただいてます。個人情報の適切な保護に取り組んでいますので、どうかご了承ください。】

 

鈴木佳美(税理士)プロフィール

ケアーズ鈴木佳美税理士事務所 所長
大手航空会社、外資系金融機関に勤務の後、税理士の道へ。業種を問わず対応し、女性経営者の顧客も多い。まったくわからないところからも親切、丁寧に細やかな指導をしている。相続の遺産分割についても得意としており、税理士の立場で事前、事後それぞれの観点からみることができ、協議・解決に力をいれている。

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