相続人の間で遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」がまとまらない場合、家庭裁判所に「調停」を申し立てることができます。調停では、家事審判官(裁判官)と調停委員が、双方の話を聞きながら、解決の糸口を探っていくことに。そのようなかたちで当事者以外の第三者が関与することで、こう着状態が打開できることも多いそうです。調停委員も務める鈴木佳美先生(ケアーズ鈴木佳美税理士事務所)にうかがいました。
第三者を入れて話し合う
「調停」だからまとまる相続もある
2020/1/22
「お前も大変だったんだな」のひと言が
相続人は男性の3人兄弟でした。上の2人が60歳代で、三男が50歳代だったでしょうか。みんなそれなりに頑張って仕事をしてきたのですが、上2人がより頑張って、暮らし向きも豊か。彼らは「1円でも多く欲しい」というスタンスではありませんでした。
結果は大成功でした。三男の方も、無理を言って少しでも多く遺産をせしめてやろうというタイプではなかったんですね。その話を聞いていた長男が、「お前も苦労したんだな」とぽろっと言ったのです。その一言で、一気に張り詰めた場の空気が溶けました。帰りがけには、「お前もこれから頑張れよ」「ありがとう」って。
弁護士が「まとめる」こともある
一方、長男のほうは、時々上京してはお母さんのところにも顔を出していたのですが、あるときから「母親は俺がみるから」といって、妹が施設に入ることさえ禁じたんですね。で、お母さんが亡くなってみたら、「全財産を長男に譲る」という遺言書が残されていた。
まずやったのが、妹さんに遺言無効確認請求を取り下げてもらうこと。遺言書を書いた当時のお母さんの具合がどんな様子だったのかとか、お兄さんが無理やり書かせた事実があるのかとかを明らかにするのは、非常に困難だというのが大きな理由です。一方、たとえ「100%〇〇に譲る」という遺言書があったとしても、相続人には最低限受け取れる遺留分が認められています。この場合、妹の遺留分は25%。ですから、兄75:妹25をベースに、どれだけ50:50に近づけるかという、いわば「条件闘争」をすることにしました。
結局、やり取りの末に出た結論が、妹さんの分が33.75%という魔法の数字(笑)。双方のギリギリの妥協だったことがわかると思います。でも、これは調停だから出せた結論なんですよ。代理人同士が角突き合わせて裁判になっていたりすれば、「長女には遺留分である25%」となっていたはずです。
調停は「終わらせ方」が大事になる
【この記事は実話を基に作成してますが、情報保護の観点より、内容を一部加工させていただいてます。個人情報の適切な保護に取り組んでいますので、どうかご了承ください。】
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鈴木佳美(税理士)プロフィール
ケアーズ鈴木佳美税理士事務所 所長
大手航空会社、外資系金融機関に勤務の後、税理士の道へ。業種を問わず対応し、女性経営者の顧客も多い。まったくわからないところからも親切、丁寧に細やかな指導をしている。相続の遺産分割についても得意としており、税理士の立場で事前、事後それぞれの観点からみることができ、協議・解決に力をいれている。
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