一気に財産を贈与できる「相続時精算課税制度」は、「争続」を防ぐのにも有効です

一気に財産を贈与できる「相続時精算課税制度」は、「争続」を防ぐのにも有効です

2019/5/14

 
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相続対策として、永い期間をかけて、相続による相続税より低くなるように少しずつ子どもに財産を贈与により移していく、というのは1つのセオリー。ただし、財産が高額だったり、相続までに時間がなかったりして、その定石が使えない場合もあるでしょう。そんなときに有効なのが、贈与時には2500万円まで無税で渡すことができる「相続時精算課税制度」です。相続に詳しい佐藤徹先生(佐藤徹税理士事務所)は、「相続人同士の争いを未然に防ぐという点でも、この仕組みは“使える”んですよ」と話します。

「厄介な相続」にならないために、生前に資産を分ける

親が子どもなどに生前贈与を行う場合、1年に110万円までなら非課税で渡していくことができます。
そういうやり方を「暦年贈与」と言います。ただ、それだと1000万円を非課税で渡すためには、9年かかるわけですね。では、一気に多額の贈与をすると、その時点で必ず高額の贈与税を覚悟しなければならないかというと、実はそうではありません。「相続時精算課税」という贈与税の特例があるのです。
 最近も、その特例を使った案件がありました。贈与を行ったのは、90歳を超えたお母さん。3人の子どもも、みんな70歳近くになっていました。
そういう年代同士の相続も増えているようです。
そうですね。70代の相続人というのは、珍しくはなくなりました。そういう場合に1つ問題になるのは、親よりも子どものほうが先に亡くなる「リスク」が高まるということです。亡くなった子どもに子ども、親から見て孫がいたら、代襲相続といってその孫が相続人になります。ほかの子どもからすると甥、姪です。親が亡くなって、遺産を分けることになった。その協議の場に甥が混じったら、どうでしょう?
話し合いをややこしくする要因になる可能性は、あると感じます。
事例に戻ると、このケースでは、特にそういう事態を避ける必要がありました。お母さんの長男、長女、次女には、それぞれ子どもが3~4人ずついて、誰かが先に亡くなれば、相続人の数が一気に倍に増えてしまう。なおかつ、お母さんは、亡くなったお父さんが起こして、今は長男が社長をしている会社の自社株を持っていました。それを全て確実に長男に譲る必要があったんですよ。
会社の経営を安定させるためには、自社株が散らばるのを避けなくてはなりません。
そこで、この制度を使って、自社株を長男に渡し、保有していた賃貸不動産を娘2人に生前贈与したのです。ちなみに、娘たちに渡した賃貸不動産に比べ、自社株の評価額ははるかに高額でした。でも、市場で売り買いできない非公開株を持っていても、簡単にお金に換えたりすることはできません。ですから、贈与に際して、その差額が問題になるようなことはありませんでした。

贈与には、「あげる」「もらう」が明確になるというメリットがある

あらためて、相続時精算課税制度について説明してください。
この特例が使えるのは、60歳以上の祖父母や父母から20歳以上の子や孫へ贈与をする場合です。非課税の限度額は2500万円。これを超えた場合でも、そのぶんに20%の贈与税がかかるだけで、贈与を行うことができるのです。
 とはいえ、もちろん2500万円までタダで渡せるわけではありません。「相続時精算」の名の通り、親が亡くなって相続になったときには、この特例を使って贈与を受けた財産には、丸々相続税が課税されます。仮に2500万円超の贈与をしていた場合には、すでに支払った贈与税は差し引かれますから、相続税と二重取りされるようなことはありません。贈与時に払った贈与税は、相続税の前払いと考えていただければ理解しやすいと思います。
普通に相続になった場合と比べて、基本的に税金面での有利・不利はないのですね。
暦年贈与のような、相続税の節税効果はありません。ただ、この特例を使った場合の相続税は、「贈与した当時の価額」を基に計算されることになっていることは、頭に入れておいた方がいいでしょう。例えば、贈与を受けた不動産が相続時に値上がりしていたら、結果的に節税になります。反対に値下がりすれば、高い相続税を払わされたことになるわけです。
 とはいえ、この制度には、税金の損得を超えたメリットがあると思うんですよ。
どんなメリットですか?
贈与は、「財産をあげる」「もらう」という両者の合意に基づく契約です。さきほどの事例で言えば、「長男には自社株を、長女と次女には賃貸不動産を渡す」という行為が、お母さんが生きているうちに、みんなの納得のうえで完了できたのです。相続も含めて、のちのち揉め事になるような火種は、残っていません。
自社株が高額だったというお話しですから、いきなり相続になったら、娘さんたちの遺留分(※)が問題になったりする可能性も、ゼロとは言えませんね。
そうですね。ゼロにすることはできないですね。なんだかんだ言って、親の生きているうちは、子どもは言うことを聞くものです。将来考えられる相続人の間での争いを未然に防いで、資産を「渡したい人間に確実に渡す」手段として、十分活用できる仕組みではないでしょうか。

※遺留分
民法上認められた、相続人が最低限受け取れる遺産の取り分。

佐藤徹(税理士)プロフィール

佐藤徹税理士事務所 所長
日本有数規模の税理士法人にて相続申告では300件、事業承継では50人を超える相談に対応。仕事の質を維持しながらも手ごろな価格で対応する税理士を目指して、2016年に独立開業。金融機関やハウスメーカーからセミナー・研修等の依頼を通算100回以上受ける人気講師でもある。
URL:http://www.10000-consultation-office.com/

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