相続で気になるのは、やはり税金のこと。節税のための特例が使えるのならば、すぐに飛びつきたくもなります。ただし、「当座のお金ばかりに目を奪われていると、あとあと後悔することになるかもしれません」と、相続に詳しい中野竜爾先生(中野会計事務所)は指摘します。揉めないためにどんな準備が必要なのかと合わせて、お話しいただきましょう。
「節税ありき」「セオリーに固執」だと
失敗する相続もある
2020/3/25
「税より大事なことがある」
そのうえで、一例を挙げると、相続税には「小規模宅地等の特例」という、相続税の計算のベースになる遺産額を大幅に引き下げることができる制度があります。親と同居していた子どもなど、一定の要件を満たす相続人が自宅などを相続する場合には、その不動産の評価額を8割減額できるんですね。相続税の金額を大幅に減らせたり、場合によっては税金の支払い自体を不要にできたりする、とてもありがたい制度です。ですから、要件を満たしていれば、無条件で使いたくなる。
自宅は、「あえて共有」にした
要するに、せっかく相続した不動産なのに、縛りが多くて使い勝手がよくない。しかし、このケースでは、自宅にそういう縛りをかけることを目的に、「あえての共有」を選んだんですよ。そうすることによって、お兄さんが「実家に住むのだから、母親のことは頼むぞ」と、弟さんを「見守る」ことができるようにしたのです。
今のは1つの事例ですが、つくづく思うのは、「相続に絶対はない」ということです。それぞれの家庭には、それぞれの事情があります。教科書的な常識にこだわると、一番大事な「相続が終わってからの生活」に支障をきたすことだってあるのです。節税などに関する知識を持つのはいいことですが、実際の相続でどう使うのかは、柔軟に考えるべきでしょう。
「争続」を生まないための“風通し”+遺言書
それに加えて、きちんとした遺言書を書いておくことが、やはり大事になります。被相続人の意思が明確ならば、少なくとも「お父さんはこう言っていた」「ああ言っていた」という諍いは、避けることができるでしょう。
言うまでもなく、残された相続人のほうも、円満な相続のために努力しなくてはなりません。私たち税理士には、遺産分割のやり方に立ち入って、協議を主導することは許されていませんから、「その分け方だと、税金はこうなります」という形のアドバイスが主になります。ただ、ちょっと揉めそうな空気になったときに、私は、「ここにお父さんがいたら、どう思うでしょう?」という話をして、我に返ってもらうんですよ。これは、意外に効果があります。相続の話し合いには、そういうイマジネーションを働かせることも、大切だと思うのです。
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中野竜爾(税理士)
中野会計事務所 所長
平成元年に開業以来、経営者が持つ百人百様のニーズに対して、中小企業を数字の面からサポート。「予算管理」と「決算前の納税予測」を2本柱に、『未来志向』の経理を相場の税理士報酬にて提供し、お客様の発展に貢献することを使命としている。相続税も100件以上の申告実績あり。
URL:https://nakanotax.com/
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